第5話絶望のハザマにぎり

アマリオとわかれたぼくは、コハルといっしょに町中を重い足取りで歩いていた。

ぼくたちが落ちこんでいる理由は、強敵が現れたからだ…。幻惑の極楽鳥をあやつっていたヒスイはとても強かった…、さらにアマリオによると相手側にはヒスイと同じ能力者が七人もいるという…。

彼らはすでにぼくのことも知っていて、倒すためにヒスイを送り込んだそうだ。

「ねぇ、これからこの町はどうなるのかな…?」

「そうね、このままだとこれからもっと怪現象が起きることになって、多くの犠牲者がでるかもしれない。そうならないように、あたしたちがもっとがんばらないと…!」

「ねぇ、ぼくにもコハルみたいな武器が使えるようにならないかな?そうしたら、ぼくも戦力になれるし…。」

「うーん、確かにそうしたいけど…武器を手に入れることは、それだけキケンなことが多くなることだから、簡単にOKとは言えないわ…。」

「そっか…、だけど頼めるだけ頼んでみてよ!ぼくはきみの力になりたいんだ!」

ぼくは力強い声でコハルに言った、コハルは少し考えるとぼくに言った。

「それじゃあ、あたしからアマリオに相談してみるわ。彼ならとよく話しているし、何がかできることを教えてもらえるかも。」

「ホント!ありがとう!!」

そしてぼくはコハルにお礼を言って、その日はわかれた。





ぼくがコハルにお願いして二週間が過ぎようとしていたが、コハルからは未だ何も知らされていない。先週、コハルにそれとなく聞いてみたところ、アマリオとにはすでに話したそうで、どうするのかを考えているところだ。

「あまり急かすのも失礼だし、気長に待つしか無いよ。」

コハルは遠くを見ながら言った。

幻惑の極楽鳥以降から、この町ではいたって怪現象は起きていない。もしかして、もう元にもどったのかとふと考えていると、視線の先におむすび屋ができていることに気づいた。

「あ、新しいお店がある。」

ここは元々何もないただの建物だったところだ、いつの間にか新しいお店ができていたんだ。

そのお店は『にぎ米丸よねまる』というおむすび屋だった、お店の棚にはウメ·サケ·オカカ·コンブなど色々なおむすびが売られている。

「どれも美味しそうだな…」

そのおむすびがふと買いたくなったぼくは、家に帰ると財布を持って再び出かけた。

そして握り米丸ところへ来ると、あごひげが大きい男が顔を出した。

「いらっしゃい、一日一個のおむすび屋へ。さて、今日は何を買う?」

「一日一個…?」

「おや?初めてのお客様だね。この店では一日一個だけ、おむすびを買うことができるんだ。」

「それじゃあ、サケとコンブをいっしょに買うことは…」

「ダメ、一日一個。」

厳しい顔で告げる男、変わったお店だなと思ったぼくは、サケを注文した。

「毎度あり、また買いに来てね。」

ぼくは家に帰って、買ったおむすびを皿に乗せた。

おむすびはお母さんがにぎるのよりも大きく、一口ほおばると、すごく美味しかった。そして口が止まらなくなる…!

「なにこれ、ご飯がふっくらしてて、中の具のサケも塩味がしっかり効いている!」

これなら何個だって売ってもいいのに、なんで一日一個だけなんだろう…?そんなことを考えながら、ぼくはおむすびを食べた。そしてあっという間に完食してしまった。

「ふぅ…、また明日食べたいな。」

実はこの時すでに恐怖が始まっていることなど、ぼくは全く思ってなかった…。





翌日の放課後、ぼくは野田くんと話をしていた。

「今日、一緒に勉強会しようぜ!テスト近いしさ。」

「うん、いいよ。」

「そういえば話変わるけど、最近できたおむすび屋知ってるか?」

「あぁ、握り米丸のことね。ぼくあそこ行ったことあるよ。」

「ええっ、行ったことあるのか?おれ、あそこのおむすび食べてみたいんだよね。」

「うん、すごく美味しかったよ。ごはんもホカホカでとても良かったし。」

「そうそう、最初に食べたのは姉ちゃんなんだけど、ものすごく美味しいって。だけどどうしてか一人一日一個しか売らないんだろう?」

「そうなんだよね、こんなに美味しいならもっと売ったっていいのに…。」

ぼくたちがそう思っていると、突然教室でガタンという音が聞こえた。

「えっ、一体どうしたの!?」

するとクラスの長谷部はせべくんがあお向けに倒れていた。

クラスのみんなが騒ぎだし、だれかが先生を呼びに行った。ぼくは長谷部くんにかけよった。

「長谷部くん、だいじょうぶ!?」

ぼくが呼んでも長谷部くんは返事をしなかった、長谷部くんは目を閉じて眠っているようだ。

「うっ……」

そしてぼくも突然体の力が抜けて、その場で倒れてしまった…。







ここはどこだ…?

あたりには何もない…、ただ白い空間が広がっている…。

ここはどこ……?本当に何にもない……。

「おーい、だれかーっ!」

呼んでみても返事はない…。ここはどこ……、ここはどこ……、ここはどこ……?







ぼくが目覚めたのは、病院のベッドの上だった。

「俊介!気がついたのね…!」

「よかった……!!」

母さんと父さんがホッとしていた。

「ここは、病院…?」

「あぁ、急に教室で倒れたらしくてな、田代先生が救急車を呼んでくれたんだ。」

「そうか…あっ、それで長谷部くんは!?」

「長谷部くん…、もしかしてあなたといっしょに搬送されたもう一人の子?」

ぼくはうなづいた。

「あの子ならとなりの病室だよ。」

ぼくはホッとした…。

それからぼくと長谷部くんは、病院で精密検査を受けたけど、異常はなく二日後には二人とも退院した。

その日、自分の部屋でのんびりすごしていると、まどをたたく音が聞こえた。そしてまどを開けると、コハルがいた。

「うわぁ、コハルちゃん!どうしたの!?」

「しーっ、ちょっと話しがあるんだけどいい?」

そう言って、コハルはまどから部屋へと入ってきた。

「話って何なの?」

「あなた、あの『にぎ米丸よねまる』というおむすび屋でおむすびを買って、食べたわね?」

「うん、それがどうしたの?」

「あのおむすびは、やみ創造そうぞうなの。」

ぼくはおどろいた、まさかやみ創造そうぞうを食べてしまっていたなんて……。

「そのやみ創造そうぞうは『ハザマにぎり』と言って、食べると時間差で食べた人の魂がハザマという世界へ来てしまうの。」

「ハザマって、あの何もない世界のこと?」

「そう、最初のうちはハザマに来る時間も短くてすむけど、ハザマにぎりを食べれば食べるほど、魂がハザマに来る時間が長くなって、最後にはもう完全にハザマにとらわれてしまうの。そうなるともう死んだも同然だわ…。」

ぼくは怖くなった、あのおむすびにそんなおそろしい効果があったなんて…。コハルに教えてもらわなかったら、ぼくはハザマにとらわれていたかも…。

「ねぇ、そのハザマにぎりをどうにかしようよ!」

「ぜひそうしたいんだけど…、今回の闇の創造はメイキング型で、生みだしている能力者の場所がわからないのよ…。町中を徹底的に探しているんだけど、未だに発見されてないのよ…。」

コハルは気落ちした表情になった。

「そんな…あっ、握り米丸の中にあるんじゃない?」

「そこも仲間が調べてみたんだけど、何も見つからなかったらしいの…。」

「そっか…、だとしたらどこだろう…?」

「とにかく、あたしたちはもう一度この町をくまなくさがしてみるわ。俊介くん、握り米丸のおむすびは二度と食べちゃダメだからね。いい?」

コハルは念を押して言うと、窓から去っていった。





それからぼくとコハルとアマリオたちで、町のどこかにあるハザマにぎりの能力者の場所を探してみたが、結局一日探して見つかることはなかった。

「もしかしたら、ハザマにぎりの能力者はこの町の外にいるかもしれないわね…。」

「だとしたら、がとっくに見つけてると思うけど、どうかしら?」

アヤコちゃんがアマリオにたずねた。

「まだ見つけられていないようだ、ですら見つけられないとなると、一体どこなんだ?」

アマリオも首をかしげてしまった…。

この町にハザマにぎりの能力者はいないとすると、一体どこにいるんだ?

考えている内にぼくの頭に疑問が浮かんだ。

そもそも、ハザマって何?そしてハザマはどこにある?

もし、ハザマがぼくが見た真っ白な空間だとしたら…!!

ぼくは確かな直感を信じて走り出した。

「ちょっと、待ってよ俊介くん!!」

コハルたちが後を追いかける、そしてぼくは家から財布を持って、握り米丸へ向かった。

「すいません、おむすび一つください。」

「はい、どうぞ。」

ぼくはおむすびを一つ買った、それを見てコハルは怒りだした。

「ちょっと、それは食べちゃだめだって言ったよね!?一体何をしてんのよ!!」

「たぶん、ハザマにぎりの能力者はハザマにいると思うんだ。だからハザマにぎりを食べて探しに行くんだ!」

「そんなわけないじゃない、早く食べるのやめなさい!」

するとアマリオも握り米丸でおむすびを一つ買って、食べ始めた。

「ちょっと、アマリオ!!あなたも食べるの!!?」

「あぁ、わたしもハザマへ行くことにしたよ。もしかしたら、能力者はハザマにいるかもしれない。」

「それならあたしも!」

アヤコもハザマにぎりを買って食べた。

「あぁーもぅ!!それじゃあ、あたしも!!」

ついにコハルもハザマにぎりを食べた。

そして二分後に、ぼくたちは意識を失った…。




ぼくたちが目を覚ますと、そこはまちがいなくハザマだった…。

「ここがハザマ……。」

「本当にこんなところに能力者がいるの?」

ぼくたちが辺りを見回していると、奥の方にだれかいることに気づいた。

「ねぇ、きみはだれなの?」

ぼくが声をかけると、相手は名乗った。

『私はナタノ、ハザマにぎりの能力者でございます。』

相手はふくよかで優しい笑顔の男性、以前会ったヒスイより年上なようだ。

「ここは、どういう世界なの?」

『ここはハザマという世界、あなたたちの世界とはちがって真に何も無い……、建物も植物も動物も空もね。だけどこの世界にも一つだけ存在しているものがある…、それは闇よ。』

「闇……!」

そして白い空間から無数の手が伸びてきた。

「うわぁ、なんかいっぱい出てきた〜!」

『この無数の手はハザマのその奥にある、闇の世界へ引きずり込む手なのだ…。その手につかまると、二度と現実世界に帰ることはできない。みんな闇の中で消えてしまうのさ…!』

「くそっ、そうはさせるか!!」

コハルたちが無数の手に攻撃をしかけるが、無数の手は消しても消しても何本も生えてくる。

『悪あがきはよくないな〜、だけどいつまで持つかのんびり見てよ~』

のんびりした口調で言うナタノ、このままでは無数の手に捕まれてしまうのも時間の問題だ。

「どうしよう……、何か方法はないの?」

ぼくは考えた、だけど考えれば考えるほどいいアイデアがうかばない…。今回も何もできずに終わってしまうんだ……。 




「本当にいいのか……それで?」




えっ、何か聞こえてくる……?




「まだ負けない気持ちがあるなら、私が力を貸そう…。」




負けない気持ち……。

コハルちゃん·章男くん、そしてアマリオたち…。この絶望の状況でも負けじと戦っている。何があってもハザマにぎりの能力者を止めようとしているんだ。

それなのにぼくは、いつも何もできずにいる…。そんなのは……、そんなのはもう嫌だ!!




「負けない気もちはある、だれかはわからないけど…ぼくに力を貸して!!」




「その声を待っていた!!」




謎の声が一段と大きくなった時、ぼくの体に何かがわきあがってきた……。

その力はぼくの体に服のようにまとい、そして全身のエネルギーが高まっていくのを感じた。

「俊介くん……!?」

「この力は…!?」

『なんだ、ありゃ!?』

ぼくの体には、両肩りょうかたに小さな大砲のようなつつがついていて、全身が鎧を装着したような見た目になっていた。

「この空間…、破壊する…」

両肩についたつつから太いレーザー光線が発射された、それは空間を貫き大きな穴を開けた。

「す…すごい…!」

『なんなの、その力!お前から先に闇へ行くがいい!』

ナタノは空間から無数の腕を出して、一気にぼくをやっつけようとした…。だけど今のぼくには通用しない…!

「デストラクション·フルエリア」

強大な太いレーザー光線が、一気に放たれ空間中に広がり、そして全てを破壊し尽くした。

『うわぁーーっ!!』

そして全ては光とともに消えたんだ…。




その頃、ナタノはハザマから現実世界へともどってきていた。ボロボロになり、足を引きずりながら路地裏を歩いている。

『くそっ…、あと少しで安藤を……!』

「お前か、妙なおむすびをにぎる能力者は?」

『だれだ!?』

そこへ現れたのは、漆黒の鎧を装備した者。剣を持ち、背中には巨大なコウモリみたいな羽が生え、まるで悪魔を思わせる印象だ。

『ヒッ…!?お前は……!?』

「あばよ、おむすび野郎」

路地裏にはナタノの悲鳴が響き渡った…。





気がつくと、ぼくは自宅の自分の部屋にいた。部屋にはコハルとアマリオがいた。

「あっ、気がついた!大丈夫!?」

「……あれ?ここは……?」

「元の世界だよ、きみのおかげで意識を取りもどせたんだ。」

どうやら気を失っていたぼくを、コハルとアマリオが部屋まで運んでくれたようだ。

「あっ、そういえば…、ナタノは?」

「彼ならが場所を発見して、やっつけたってさ。これでハザマにぎりは消えたよ。」

「よかった…」

ぼくはホッとした…。

ぼくに力を貸してくれた…、正体はわからないけど、ぼくはいつか会えたらお礼がしたいと思った。









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