第4話幻惑の極楽鳥

体育の授業で見た、今までにないほどに美しい派手な色の鳥。その日から、ぼくの町のいたるところでこの鳥が目撃され、今では世間の話題になった。

「ほんと、最近このニュースばかりね…」

お母さんが退屈そうにつぶやいた、今ではテレビやSNSではこの謎の鳥について様々なウワサや憶測が飛び交っている。

『新種のクジャクか!?』

『目撃すると開運向上!?』

『もしや不死鳥フェニックスか!?』

…とこのように謎の鳥について色々なことが言われているけど、ぼくはこの謎の鳥もやみ創造そうぞうではないかと思っている。

「お母さん、聞いてもいい?」

「えっ?どうしたの?」

「お母さんも例の鳥、見たことあるの?」

「あるわよ、昨日の昼に仕事で外を回っていたら、目の前の空をゆっくり飛んでいたわ。」

「その時、変なことなかった?急に気持ち悪くなったり、おそろしい何かを見たとか?」

「そんなことは…特になかったわね。それより、どうしてそんなこと聞くのよ?」

「だって、最近怪現象が多いから…」

「そうね、このまま何も起きなければいいけど…。そういえば、あんた最近一人でよく出かけているけど、どこへ行っているの?」

「えっ、ちょっと勉強しに図書館へ…」

「ふーん、あんまりおそくならないようにね。」

母さんはキリッとした顔でぼくに念押しした…、これから一人で出かける時どうしたらいいんだろう…?






翌日、ぼくと野田くんがいっしょに登校していた時のこと…。

横断歩道で止まっていると、反対側から自転車がやってきた。信号が赤なので停まるかと思いきや、なんとそのまま横断歩道を渡り始めた。

「えっ、信号が赤なのに……!?」

ぼくはふと自転車に乗っている人と目が合って、ぼくはとてもおどろいた…。

その人の目は、ふつうの目をしていなかった…。ひとみが銀色で虹のような光を放っている、まるでCDの裏面みたいだった。自転車は横から車にぶつかりそうになりながら、ぼくと野田くんの横を通り過ぎた。

「あぶないな、信号無視なんてよ…ん?どうした安堂?」

「…いや、なんでもないよ。急に自転車が来てビックリしたね…。」

ぼくはその場でそうは言った、けれど野田くんはぼくのこの反応が気になったのか、放課後ぼくに直接聞いていた。

「なぁ、安堂。お前、あの時どうしたんだよ?何か見たのか?」

妙なカンが働く野田くん、下手に隠すことはできないので本当のことを言うことにした。

「実は、信号無視をした自転車を運転した人と目が合ったんだけど……、それが不気味で…」

「不気味?どんな目をしていたんだ?」

ひとみが銀色で、虹色の光が輪っかになって輝いていた…。」

「なんか、変わった目つきだな…。」

「ねぇ、これ何か町の怪現象と関係はあるのかな?」

「もういいよ、町の怪現象は…。」

「えっ…どうしたの?前はあんなにこの話に食いついていたのに?」

「なんか、飽きたというか……。いろんなことが起こりすぎて逆に怖くなったんだよ…。もう、考えたくもないんだ…。」

野田くんの表情は暗かった、ぼくは話を取りやめることにした。

確かに野田くんの言う通り、最初は町で起き続ける怪現象にみんなワクワクして、教室で様々な予想をして盛り上がっていたのに、ほんの最近になってそんな光景を見なくなった。

みんな当たり前だと思い始めたんだ…、だけどぼくは今でのことは当たり前ではないと思っている…。

必ず怪現象の理由を突き止めてみせると、心に決めた。






数時間後、ぼくが下校していると突然空にまばゆい光を感じた。

「これは……!!」

そして上を見上げると、あの鳥が空を飛んでいた。

まちがいない…、あの虹のようにいろんな色が鮮やかに輝く羽…、見つめているとその羽根の中に吸い込まれそうになる…。

「その鳥を見るなーーっ!!」

大声と共にコハルが突然、屋根の上から飛び上がり大鎌を振り上げた。しかし鳥はコハルの大鎌をヒラリとよけて、そのまま飛び去っていった。

「逃がしたか……」

「コハルちゃん、一体どうしたの?」

「あぁ、「幻惑げんわく極楽鳥ごくらくちょう」を追っていたんだ。」

幻惑げんわく極楽鳥ごくらくちょう?」

「あぁ、それはこの世の鮮やかな色を全て集めたような色の翼を持ち、見た者に幻惑げんわくを見せる鳥なんだ。その幻惑にかかると、見える世界が鮮やかに見えてしまい、混乱してしまうという…。」

「そうなんだ、それは早くどうにかしないと…。あっ、まだ聞いていなかったけど、これもやみ創造そうぞうなの?」

「あぁ、今回は能力者型だ。そして能力者についても、すでに特定している。」

「だれなの…?」 

質問するぼくに、コハルは真剣な口調で言った。

「ヒスイという名前よ。悪いけど、今回はあなたの出る幕はないわ。家でのんびり休んでてもいいわよ。」

「えっ、どうして…?」

「今回の相手があまりに強大だからよ。」

そしてコハルは立ち去ろうとした、ぼくはコハルにたずねた。

「相手が強大って、どういうこと?そんなに強い能力者がいるということなの?」

コハルは頭をかくと、ぼくの質問に答えた。

やみ創造そうぞうの能力者は、闇にとりこまれてしまうことが多いけど…、闇と同化してしまう能力者がいるの。」

「闇と同化…?」

「その能力者は、闇にとりつかれた能力者よりも格段に強いの。あたしたちでも、すぐにやられてしまうほどにね…。今回の幻惑の極楽鳥は、そんな能力者が生み出したものだということがわかったの。」

「そんな…、じゃあどうしたらいいんだよ…?」

「幸い、にはあたしより強い味方がいくつもいるから、彼らに任せたほうがいいわ。」

「あの方……、その人はだれなの?」

「私もくわしくは知らないの…。」

そう言い残して、コハルは去っていった…。




翌日、ぼくは落ち込んでいた…。自分の力では『幻惑の極楽鳥』を倒すことはできない、ぼくは自分の無力感を痛烈に感じていた。

そんな時、ふと空を見上げて見ると、例の『幻惑の極楽鳥』がいた。しかもぼくのすぐ近くに降りてきたのだ。

ピピッ、ピィーー、ポワァン〜

変わったさえずりだった、羽根の鮮やかな色と合わさって『幻惑の極楽鳥』はぼくの目に強く焼きついた。

鮮やかな羽となぜかクセになるさえずり、それが心にひびいてぼくを夢中にさせる…。

『ふふふ、あなたはもう何もしなくていいの…。さぁ、さえずりと羽に身を預けて…。』

謎の声がぼくにささやく、すると目の前のこと以外のことが全てどうでもよくなった。

ぼくはふらつきながら、歩き出した…。周りの景色がぼやけてきた、そしてぼくは……。

『そっちに行くなーっ!』

コハルの叫び声が聞こえた、すると視界がハッキリと映し出され、目の前にはフタのないマンホールがあった。

「チッ…、リボーン·チルドレンめ…!」

「全く、本当にあなたはよく助けられるわね…。」

コハルが手を差し伸べ、ぼくは立ち上がった。そして目の前には、青に染めた三つ編みの女の子が幻惑の極楽鳥を肩にとまらせていた。

『あんたが、安堂俊介ね。あたしはヒスイ、幻惑の極楽鳥のクリエイターよ。』

「ヒスイ…、あなたはここで倒す!」

『アハハ!しょせん、半分ユウレイみたいなあんたに何ができるの?あんたも、安堂ごと消してやる。』

そう言うとヒスイは自分の腕をつねって、豆粒大の黒い玉を出した。そしてそれを幻惑の極楽鳥に食わせた。

「一体何を…!?」

『フフフ、これが闇に選ばれた能力者だけがなせる技、自らのクリエイトしたものをパワーアップできるの…。』

すると幻惑の極楽鳥がヒスイの肩から飛び立って、徐々に大きく、そして羽をより鮮やかにしていった。そして気づいた時には、二十メートルぐらいの大きさになっていた。

ピィーッーー!

パワーアップした幻惑の極楽鳥の鳴き声がひびく、そして幻惑の極楽鳥の目が光りだした。

「うわっ!!」

ぼくはとっさに目を手で隠した、そして目を開けるとなんともなかった…。

『ヒヒヒ、まずは一人…。』

ヒスイの顔がニヤリとしている、そしてコハルの方は……瞳に虹の輪ができていた…。

「まさか、コハルちゃん!!」

コハルちゃんは全身の力が抜け目がうつろになっている、そして幻惑の極楽鳥へと引き寄せられるように歩き出した。

『さぁ、こっちへ来なさい…。』

「待ってコハルちゃん!行ってはダメだ!!」

『ムダよ、あの子はもう何も聞こえないほどに、幻惑のとりこになったのだから…。さぁ、そのまま近づいて…』

そしてヒスイは剣を抜いた。マズイ、近づいてきたコハルを攻撃する気だ…!!

ぼくはいてもたってもいられず、コハルのかたを持って後ろへ引っぱった。

「こっちへもどってきて……!!」

『しつこいわね…、でもちょうどいいわ。二人まとめて始末できる…!!』

そしてヒスイは剣を振りかざし、おそいかかった…!やられる!もうダメか……!!

「ショック·マジック!」

するとあたりに強い衝撃が走った、そしてぼくの目の前には茶色のマントを羽織り、不思議な模様のついたフードを被りつえを持った男が立っていた。

「無事かい?」

「えっ、はい!ありがとうございます!」

『チッ、アマリオめ…。』

ヒスイは舌打ちしながらアマリオをにらんだ、アマリオはぼくたちの味方なの…?

「ん……あれ、あたしは何を?」

「コハルちゃん!正気になったんだ!」

「アマリオ様っ、すみません!あたしがふがいないばかりに…」

「気にしなくていい、今は目の前の相手を倒そう。」

「アマリオ様っ!!」

するとそこへ章男が合流した。

「章男、来てくれたのか!」

「あぁ、ぼくはアマリオ様といっしょに町をパトロールしていたところなんだ。それにしても、あの鳥すごくでかいな…!」

巨大化した幻惑の極楽鳥は、ぼくたちを見下ろしている…。

『ザコが…、全員吹き飛ばしてやる!』

ヒスイは口笛で幻惑の極楽鳥に指示を出した、すると幻惑の極楽鳥は力強く羽ばたいてすさまじい強風を起こした。

「うわっ、立てない…!!」

「私にまかせろ」

アマリオはつえをかかげた、するとつえの魔法で強風が集まり一つの球体になった。

「なにっ、まさか!」

「そうさ、お返しだ!!」

アマリオは風の玉をヒスイにぶつけた、強風の中ヒスイは必死にこらえるが、コハル·アマリオ·章男の三人は、そのスキに幻惑の極楽鳥を攻撃した。

『ピーィーッ、ビーィーーッ!』

「だめだ、あまり効いてない…。」

「いや、このまま攻撃を続けよう。そうすれば必ず倒せる。」

そしてアマリオはぼくに言った。

「俊介くん、今から札を渡す。その札には、念じることでしばらくの間、相手の時間を止めることができるんだ。ぼくとコハルと章男でスキをつくるから上手く念じてくれ!」

ぼくはうなずいた、幻惑の極楽鳥はぼくたちにクチバシを向けておそいかかる。アマリオたちは攻撃をよけながら、少しずつ攻撃を当てている。

『こうなったら……、最強の幻惑を見せてやる…!』

ヒスイが口笛を吹くと、極楽鳥は目と羽をよりいっそうきらめかせ、全身が虹色にかがやいた。

『さぁ、これをみたらあなたたちは、もう夢の中よ!ずっと目覚めることなくねむりなさい。』

その時、ぼくは札を持って念じた。止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ……。

すると幻惑の極楽鳥の光りが消え、動きが完全に止まった。

『そんなバカな!』

「よーし、今だ!!」

コハルと章男が同時に幻惑の極楽鳥を切り裂き、さらにアマリオが大きな火炎の玉をぶつける。

「ファイアー·ドーン!」

火炎の玉が幻惑の極楽鳥を直撃、このまま燃えて灰になる……かと思っていたけど……。

ピーーーピーーーッ、ピギィー!

「そんな…、これも効かないなんて…」

「いや、私たちの攻撃は無駄じゃない。」

そう言うアマリオが指差す方を見ると、なんとヒスイがいつの間にかボロボロになっていた。

『おのれ……!』

「あれ?なんでヒスイがダメージを受けているの?」

「先ほどヒスイは自分自身の一部を幻惑の極楽鳥に食べさせた、それで幻惑の極楽鳥は強化されたけど代償として幻惑の極楽鳥が受けるダメージは全てヒスイが受けることになるんだ。ヒスイさえ倒せれば、幻惑の極楽鳥も倒せる。」

『くそっ…これで終わると…えっ、引き上げろ?あー、はい。』

ヒスイはスマホでだれかと話している、そしてスマホを切ると、なんと自らの剣で幻惑の極楽鳥の首を落とした。ものすごい絶叫をあげ、幻惑の極楽鳥は消滅した。

「えっ!?一体何を……!?」

「どうやら、切り捨てることにしたようだね。」

『今日はこのへんにしといてやる、こんなものいつでも生み出せるしね…。だけど次は必ずしとめてやるから…覚えてろ』

ヒスイは捨て台詞を吐くと、どこかへ去っていった。

「ふぅ…、助かった…。アマリオさん、ありがとうございました。」

「こちらこそありがとう、いつもコハルと章男がお世話になってるね。」

礼儀正しく頭を下げるアマリオ、そして彼は「じゃあまた」と言って去っていった。

「今日はアマリオさんのおかげで助かったね。」

そうつぶやくコハル、だけど次にヒスイみたいな能力者が現れたらと思うと、不安は消えなかった。



















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