第3話成長するカーブミラー

田代先生がいなくなってから一週間、未だに田代先生は教室に現れず、ぼくもさすがに心配になった。

「田代先生、一体どうしたんだろう…?」

「まさか、本当に怪奇現象に巻き込まれたとか!?」

「いや、そんなわけないよ…。」

野田くんの話に八島くんが首をふった。

「じゃあ、田代先生はどうなったんだよ?」

「たぶん……、心の病気になったのかも…」

「心の病気…?」

「これはおれの従兄弟から聞いた話なんだけど、教師っておれらが思っている以上にやることが多かったり、色々トラブルにあったりして、気持ちがかなり追いこまれてしまうことがあるんだって。それでうつになったり失踪したりしてしまうことが、たまにあるみたいだよ。」

「それじゃあ、田代先生は…」

ぼくは田代先生のことが心配になり、放課後になると職員室にいる生徒指導の先生に会いに行って、田代先生のことについて聞いてみることにした。

「すみません、お話してもいいですか?」

「どうした?」

「あの、田代先生は何か悩み事を言っていませんでしたか?」

「は?どういうことだ?」

「田代先生は、何か悩みを抱えていたのではないのかなって…。」

「いや、そんな話は聞いたこと無いぞ。どうしてそんなことを聞くんだ?」

「田代先生のことが心配で…、だってもう一週間以上も顔を見てないし……」

「そうか…、気もちはよくわかるが君にできることは、田代先生が帰ってくるのを待つしかない。もし田代先生が帰ってきたら、心配してたこと伝えてやるよ。」

生徒指導の先生は優しく手をたたくと、席を立って職員室から出ていった。





その日、ぼくが下校しているとコハルと章男が立っていた。

「あっ、二人ともどうしたの?」

「さっき、この辺りでカーブミラーが出たから、二人でやっつけたところよ。」

「えっ、カーブミラー…?」

カーブミラーといえば、この町の怪現象になっている『笑うカーブミラー』がある。

「もしかして『笑うカーブミラー』のこと?」

「少し前ならそう呼ばれていたけど、今は『吸いこむカーブミラー』よ。」

「吸いこむカーブミラー…?」

「そう、どんな人やものでも吸いこんでしまう、おそろしいカーブミラーになってしまったの。カーブミラーに映る笑った口を見ると、ものすごい勢いで吸い込まれてしまうの。すでに多くの人や車が、カーブミラーにのみこまれてしまったわ…。」

「ヒェッ……」

まるで巨大なそうじ機になってしまったおそろしいカーブミラー…。だけどぼくは一つ疑問に思ったことがあった。

「ちょっと待って、最初はただ笑うだけのカーブミラーだったんだよね?それがどうして、人やものを飲みこむようになったの?」

ぼくがたずねると、コハルは深刻そうな顔で言った。

やみ創造そうぞうのなかには、自分で成長するものがあるの。今回の笑うカーブミラーは、自然発生型のやみ創造そうぞうなんだけど、どうやら成長して多くの人たちに悪影響を与えはじめたの。このままだと、犠牲者は次々と増えていくわ…。」

「そうだね、はやく手を打たないと…。ぼくも力を貸すよ!」

「ありがとう、俊介くん!」

そしてぼくは家に帰って荷物を置いて着がえると、すぐにまた出かけだした。

「今回もナキマネグマの時みたいに、大変なミッションになるね…」

「えぇ、しかも今回はナキマネグマ以上に苦労するかも…。心して挑まないと…!」

コハルの目つきがいつになく真剣になった。

そして町を走り回っていると、カーブミラーが見えた。そしてカーブミラーにニヤりと笑う口が映し出された。

「見つけたわ、テイッ!」

コハルの大鎌がカーブミラーのポールを真っ二つに切ると、カーブミラーは消滅した。

「よし、次行くわよ!」

ぼくたちは走り出した、そして二本目のカーブミラーが見えた。しかし今度は何も映し出されない。

「これは……、ふつうのカーブミラーみたいだね。」

ぼくはホッと一安心しているが、章男の顔を見ると何か不信そうな表情をしている。

「どうしたの章男…?」

「やっぱり、変だ!」

章男は刀を出すと、カーブミラーのポールを切り倒した。するとカーブミラーはそのまま消滅した。

「えっ!?これも闇の創造ダーク·クリエイトだったの?」

「よく見抜けたわね、どうしてわかったの?」

「元々ここには、カーブミラーはなかったんだ。ぼくは生きていたころこの道を歩いていたから、よく覚えていたんだ。」

ぼくもこの道を歩いていたけど、ここにカーブミラーがあったかどうかなんてちっとも考えたことなかった…。

「だけど、どうしてなかったところにカーブミラーが現れたのかな?」

やみ創造そうぞうが成長しているんだわ…、おそらく何かしらの方法で自身の分身を生み出しているのよ。もうすでにあたしたちだけでは、手におえなくなってしまっている…。」

コハルの表情が人一倍深刻になった、そしてコハルは右手のうずまきに言った。

「こちらコハル、笑うカーブミラーの成長が進んでいて、あたしたちでは手におえなくなっているの。応援を呼んでくれるかしら……はい……はい、ありがとうございます。また何かわかったら連絡します。」

そしてコハルはぼくたちに言った。

「応援が来ることになったわ。」

「やったー!ところで右手のうずまきって何?」

「これは、仲間と連絡を取ることができる通信の証よ。リボーン·チルドレンはこれで仲間と連絡を取ることができるの。」

「へぇー、すごいね。」

「それよりも、カーブミラーの大元を見つけださないと……。」

「大元…?」

「自然発生型の闇の創造ダーク·クリエイトは、大元になっているものを消滅させれば、のこりの分身も消滅する。とにかく一刻も早く大元を見つけて消滅させないと……!」

それからぼくたちは町じゅうを走り回り、カーブミラーを次々と消滅させていった。だけど大元になっているカーブミラーは中々見つからない…。

そして数十分後、ぼくたちがヘトヘトになっていると二人の少女がやってきた。一人はコハルと同じくらいの身長だけど、もう一人はコハルより背が高い。

「コハル〜、だいじょうぶ?」

「アヤコちゃん、サノちゃん!助けに来てくれてありがとう!」

「この子たちが助っ人?」

「そう、二人に紹介するね。あたしの助っ人の安堂俊介くん、そして俊介くんの弟で新米リボーン·チルドレンの章男くん。」

「どうも、よろしく…。」

「よろしく、あたしはアヤコ。こっちはサノちゃん。」

「初めまして、サノです……」

ぼくよりも背が高いサノちゃんは、ひかえめにあいさつをした。

「ところで『笑うカーブミラー』に苦戦しているんだって?」

「うん、たぶんかなりの速さで成長している。速く見つけて消滅させないと…。」

「でもいくらやみ創造そうぞうが成長するからって、この成長の速さは少しおかしいよ。」

「えっ、そうなの?」

「うん、ふつうは成長するのに一ヶ月か三ヶ月ぐらいかかるけど…、今回の笑うカーブミラーの成長速度は速いわね…。」

「何か理由があるのかしら……?」

「それはさておき、速く笑うカーブミラーを切り倒さないと!」

そしてぼくとコハルと章男とアヤコさんとサノさんは、町中をかけまわって笑うカーブミラーを切り倒していった。だけど大元となるカーブミラーは中々見つからない…。

さらに一度カーブミラーを切り倒したところに、また新しいカーブミラーが出現するようになった。

「これじゃあ、きりが無いわね…。」

「大元は一体どこにあるんだ……?」

町中のほとんどは見て回ったはず…、だとするならばどこか見落していたとしか考えられない…。

「他にあるとするなら……、ここね。」

コハルは持っていた地図の左はしを指差した、そこはぼくが今までいったことのない場所だ。

「おそらく笑うカーブミラーの大元があるとするならば、ここしかない…。」

「よし、そこへ行こう!」

ぼくたちは急いで、その場所へ向かった。

たどりついたのは、となり町とのさかいにある住宅街。そしてぼくたちは、信じられないカーブミラーを目撃した。

「なんだ…あのカーブミラーは……!?」

「ついにおでましね……。」

そこに現れたのは、十枚以上の鏡を持つ巨大なカーブミラーだ。まるで木の枝ように一本のポールから鏡を生やし、周りにある家よりも高く伸びている。

「これが『笑うカーブミラー』の大元ね……、いつの間にかこんなに大きくなっていたとは…。」

するとカーブミラーの鏡がいっせいに笑いだした、真ん中にある大きな鏡には目が出て、ぼくたちを上から見下ろしている。

「俊介くん、今回はここまでのようね。ここはあたしたちに任せて、早くにげて。」

「でも、コハルたちが……」

「あたしたちならだいじょうぶ、すぐにやっつけてやるから!」

コハルは笑顔で言った、そして他のみんなといっしょに笑うカーブミラーへ挑んだ。








家へ向かって走っていたぼくは、とちゅうでころんでしまった。

地面に打った右ひざをさすると、ぼくの目の前にカーブミラーが現れた。

「あぁ…、そんな……」

ぼくは恐怖に震えた…、というのもこのカーブミラーは先ほどコハルたちが倒したはずのものだ。なのにもう新しいカーブミラーが現れるなんて……。

震えるぼくをカーブミラーは不気味に「ケケケ…」と口だけで笑う。そして次の瞬間、カーブミラーの口からなんとうでが伸びてきた。

逃げようにも足が痛くて逃げれない、ぼくはあっという間にうでにつかまれて、カーブミラーの中へと吸い込まれていった。

「うわーーっ!」

透明なくだの空間をものすごい速さで進み、そしてある部屋へとたどりついた。

「ここは……」

そこは丸い穴がいくつも空いている空間。色はピンク色で、壁がモゾモゾと動いている。まるで何か大きな動物の腹の中にいるようだ。

このままではドロドロに溶かされるかもしれない…、早くどうにか脱出しないと…!

そう思い辺りを見回しながら歩いていると、目の前にスーツを着た男がたおれていた。近づいてみると、それは田代先生だった。

「田代先生っ、無事ですか!」

「ん…うーん……」

田代先生はゆっくりと目を開けてぼくの顔を見た。

「きみは……、安堂くんかい?」

「田代先生っ!よかった……」

かすれた声で言う田代先生に、ぼくはホッとした。

するとすぐ近くの穴から章男が現れ、ぼくと章男は互いにおどろいた。

「あれ!?兄さん!どうしてここに…!?」

「逃げるとちゅうで捕まってしまったんだ、章男こそどうしてここに…?」

「実は…、この笑うカーブミラーの弱点が中にあるんだ。だからぼくが弱点を攻撃して、笑うカーブミラーを倒すんだ。」

「そうなんだ。あっ、田代先生を連れて行こうよ!笑うカーブミラーに吸い込まれてしまったみたいなんだ…。」

「それは大変だ、じゃあ早く倒さないと!」

こうして章男が先頭を進み、ぼくは田代先生の肩を持ちながら歩いた。田代先生は顔色が悪く、弱々しい…。

笑うカーブミラーの中をさまようこと数分、目の前に透明な宝石のようなものに包まれた、黒い玉が現れた。

「あった…、これが笑うカーブミラーの心臓だ!」

章男は日本刀を出して構える。

「何をするんだ…、あぶないぞ…」

「だいじょうぶですよ、田代先生。」

章男は深呼吸すると、日本刀を振り上げて一気に振り下ろした。そして黒い玉を外から一気に真っ二つにした。

「よしっ、成功だっ!」

すると真っ二つに割れた黒い玉は消滅し、空間が大きく揺らぎだした。

「なんだ!?なんだ!?」

「一体、どうしたんだ!?」

そしてぼくと章男と田代先生は、目の前の光に吸い込まれていったんだ…。






「俊介くん、だいじょうぶ!?」

体をゆさぶられ、目を開けるとコハルの姿があった。

「コハルちゃん……あっ、そうだ!田代先生は!?」

「田代先生…あぁ、あなたといっしょに出てきた男ね。彼ならあたしたちの仲間が通報して、病院へ搬送されたわ。笑うカーブミラーの中にいて、弱っていたからね…。」

「よかった……」

「それはこっちのセリフよ!!なんで笑うカーブミラーの中にいたのよ?」

「ぼくも捕まって、中に吸い込まれたんだ…。本当に脱出できてよかったよ…」

「本当によかったわね、あなたも田代さんも。あのまま笑うカーブミラーの中にいたら、命が尽きて闇の一部になってしまうところだったんだから。」

闇の一部……、それを聞いたぼくはゾッとした…。

「とにかく無事でよかったわ…、アヤコちゃんとサノさんもありがとう。」

「どういたしまして。」

「よかった、よかった…。」

そしてぼくの町から、笑うカーブミラーは完全に消え去った…。






一方、ここは町の中にあるとある廃墟…。

「あーあ、笑うカーブミラーもやられちゃったね…。せっかくあたしたちの力で、急成長させたのに…。」

「まぁいい、他にも我々の創り出した恐怖はある。しかし、次の手を考えないとな…」

「それなら、あたしが行こうか?」

「あなたがですか?」

「うん、あたし俊介くんに興味わいちゃったんだよね〜」

「ほぅ、それならお前には安堂の偵察を任せよう。それと今思いついた作戦に力を貸してくれ。」

「作戦…?」

果たして、彼らは一体何を企んでいるのか…?安堂の町に起こる新たな恐怖とは…?






田代先生は病院へ搬送された後、一週間ほど入院と療養をして教室へやってきた。

「みなさん、心配をかけてごめんなさい。これからいつも通り授業をしますので、よろしくお願いします。」

こうしてぼくの教室にいつもの日常がもどってきた。

それから数時間後、五時間目の体育の授業でのこと…。

「次はぼくの番だ……」

短距離走で、ぼくが走る番がきた…。走るのはあまり得意じゃないんだよな…。

少し暗い気もちでもやるしかない、ぼくは体を構えた……その時!

「ねぇ、あれ何!?」

とつぜんクラスのみんなが空を見上げながら、さわぎだした。

そして空には……、みたこともない鮮やかな鳥が飛んでいた。
















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