ネタバレややあり「跡を消す」
著 前川ほまれ
悲しいと書かずに悲しさを表現した作品。
人が死んだ後の現場を掃除する特殊清掃の話です。
五つの連作短編です。
一人暮らしの老人の孤独死の現場で、「猫のキャラクターのマグカップ」があると書いていて、私は何故だか切なくなりました。
猫のキャラクターのマグカップの描写でどうしてそんなに悲しくなったのでしょうか、私自身もよく分かりません。
この人は確かに生きていたと感じるからでしょうか?
この現場で主人公は嘔吐や失禁をする程追い込まれます。それほど気持ち悪いという事です。
だけど亡くなったお爺さんに対しては、気持ち悪さとは全く違う、静かな悲しみを感じるのです。
首吊り自殺の現場は、本来死後の糞尿が垂れ流されて床まで浸透するはずでした。しかし、自殺した若者はオムツを履いてから首を吊ったので現場は綺麗でした。
遺物の整理のために来た若者の母親は、しきりに「人に迷惑をかけないようにと教えて育てた」というむねを話します。
私としては、その教えが若者を生きづらくさせたのでは……と、思わず考えてしまいました。だけど、きっとそれは母親が一番後悔している事でしょう。
最後のお話では笹川の過去が明らかになります。何故彼が夜の闇に囚われているのか、それを知り浅井はどうするのか。
今まで静かだった物語が加速し、力強い展開を見せます。
陽の光の中のラストシーンは、ラストでありながら新たな始まりを感じさせるものでした。
少し気持ち悪い描写もありますが、気持ち悪さを描いているのではない作品ですので、幅広くたくさんの人が楽しめると思います。
ポプラ社小説新人賞の受賞作ですので、公募に挑戦している方にもおすすめです。
公募勢、作家を目指して本を読む 左原伊純 @sahara-izumi
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