第12話 CAFE  R & R

十二 CAFE  R & R 

   〜Coffee, French Toast, Eggs Benedict, Pancakes & Salad



「りさママ〜! 早く〜〜っ」

 公園に入って走り出した女の子が後ろを振り返って叫ぶ。

「は〜い! 転ばないようにね〜」

 もう一人の子の手を引いている理沙が微笑みながら答える。

「お姉ちゃん、まってよ〜」

 そう言って慌てて走り出すもう一人の女の子。

「あ、レナママいたよ〜、ほら〜、あそこ〜」

「ホントだ〜!」

「は〜い、着いたよ〜」

 可愛らしい二人の女の子と一緒にビーチにやってきた理沙。

 レジャーシートを広げてレナが座ってる。

 あれから六年、二人とも二十四歳になり、当時の少女の面影はなくなり、大人の色気溢れる美人になっている。

「レナ、お待たせ!」

 声をかける理沙。

「いい天気だね〜」

「卓は?」

「コープで買い物してから来るって」


「ミク、ユイ、お昼にするよ〜」

 レナが子供達を大声で呼ぶ。

「「は〜い!」」

 波打ち際で追いかけっこしてはしゃいでいる二人の子供達が返事をして走ってくる。

 一人は今年五歳になるレナの娘、長女のミク。

 もう一人は一つ年下の理沙の娘、次女のユイ。


 沖縄県名護市。南側に広がる海岸線にある二十一世紀の森ビーチ。

 二月の暖かい日差しが心地いい日曜日。


「わ〜い、おひる、おひるっ」とはしゃぐミク。

「お姉ちゃん、ユイの玉子さん、取らないでよ〜」

「はやいもんがちだよ〜」

「あ〜ずる〜い」


「ほら、ちゃんと手を拭いてからね」と二人の手を拭いていくレナ。

「久しぶりの週末休み、うれしいね」

「うん、のんびりできて最高だよ。東京にいた時には考えられなかったね、こんな生活」

 レナの向かいに座って二人の娘が楽しそうにお弁当を食べてる姿を見ながら、しみじみと理沙が言う。


 色々と過去のしがらみや顔見知りが多い東京にいれば、いずれ二人の過去と接点がある人間からの脅威やトラブルがありえなくないから、と考えた卓の提案で、六年前東京を離れることを決め、三人で夏休みに行った美ら海水族館のある本部や名護に魅了され、一人も知り合いのいない名護へ移住したのだ。

 卓はテレワークで今までの仕事を続け、レナと理沙が交代するように一年あけて卓の子を孕んでそれぞれ娘を出産。

 そして去年、市役所近くに駐車スペースのある一戸建ての住居兼飲食店の空き物件をみつけて、そこを借り、東京の家を売ったお金の残りを使ってリフォームして、念願のカフェをオープンさせたレナと理沙。

 二人の超美人コンビがやっている食事のおいしいカフェはすぐに話題になり、雑誌にもとりあげられたりして、名物のエッグベネディクトをはじめとした料理を目当てに、地元の人や観光客で賑わうようになり、週末には地元の女子高生のバイトを雇うほどに繁盛している。

 たまに店に顔を出す二人の娘も地元のお客さんに可愛いがられていて、すくすく育つ二人の娘との五人家族の沖縄生活は順調そのものだった。



 レジャーシートに座ってお昼を食べ始めた四人に、遠くから「お〜い!」と呼び声がする。

「あ〜パパだ〜!お〜い!お〜い!」とはしゃぐ娘たち。

 少し日焼けして海の男っぽい雰囲気の卓が保冷ショルダーバッグを抱えてやってくる。

「パパも食べよ〜」

「うん、ママたちのお弁当は美味しそうだな〜」

「ほい!ギンギンに冷えたヤツ!」

 卓は肩にかついてきた保冷バッグを下ろすと中から冷えたオリオンのクラフトビールを出してレナと理沙に渡す。

「ありがと!」

「すっごい、ギンギンに冷えてるよ」

「いっただきま〜す!」

 三人でビールを飲み始める。

「か〜っ、痺れる〜〜、うめ〜〜」

 卓が恍惚の歓喜をあげる。

「 サイコ〜〜」

「たまらないね、ビーチで飲むビール!」

 冷えたビールに感激するパパやママたちを見てミクが言う。

「ねえ、ビールっておいしいの? おさけ?」

「そうよ〜、ミクも大人になったら、きっとわかるから、それまでは我慢ね」とレナ。

「でもママたちは、大人になる前から飲んでたんだよ〜」

 卓が意地悪っぽく笑いながらレナに突っ込む。

「あ〜、そういうこと言うかな〜、未成年に飲ませてたくせに‥‥‥」と理沙。

「そうだったっけ?」

 レナが卓を横目にみながらミクに語りかける。

「パパはね〜、ママと会ったときは毎日おさけとかビールい〜っぱい飲んでて、気持ちよくなってママにも『もっとのめ〜』って飲ませてたの」

「おさけってきもちいいんだ〜」

「そうだよ〜、ママがね〜パパとはじめて会ったときは、パパお酒できもちよくなってて、ぜ〜んぶ忘れちゃって、なんにも覚えてなかったんだから」

「ねえ、どうして覚えてないの?」とユイが聞く。

「それはね〜、忘れちゃったほうがいいことだからかな」ととぼける卓。

「あ〜っ、ひど〜い!運命の出会いだったのに〜。パパはその時にママにい〜っぱいおイタしたの」

「おイタってな〜に?」と聞くユイ。

「あっ、ミク、知ってるよ〜! いつも夜にベッドのお部屋でママたちがイヤイヤ〜っておふざけしてるのでしょ」

「え‥‥‥」と絶句するレナ。

「ぷっ、あははははは〜〜」

 笑い転げる理沙。

「全くもうミクはなに言ってんの‥‥‥」

 笑いながらミクの頭を撫でるレナ。

「ミクが弟ほしいって言ってることだし、今日もいっぱいおイタしないとね〜パパっ!」

 卓のほうを見て言う理沙。

「ははは‥‥‥レナ、そのポークたまごとってくれる?」

「あ、誤魔化した!」と理沙

 抜けるような青空と輝く蒼い海が眩しいビーチパーク。

 幸せな家族の楽しいサンデーランチはまだまだ続いていくのだった。



「ミクもおイタしてみた〜い!」

「ユイもする〜〜っ!」



    バツイチとビッチと愛人と   完

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バツイチとビッチと愛人と TITO (ティト) @macky415

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