第45話 私が望む場所へ

「ついに妹に手を出したか……」


 平日なら毎度皆が集う待ち合わせ場所にて、悠ちゃんが実に感慨深げに事実無根の事柄を申しまして。

 否定する言葉はいくらでも思い浮かびましたが、証拠にはなりそうにありません――そんなことはないとの旨の台詞は二人からも出てきませんし。


「まさか本当に……?」

「いえ、ちょっと過激なことを私が言ってしまって」

「ふむ、まあ良い。学校に着く頃には熱も冷めよう」


 というより元に戻ってくれなければ困ります――原因が自分にあるとは言え、10分前まで迷子だった子が不安がって袖から手を離さないみたいな感じでスカートを

握られてしまうと「油断したなたわけが!」とめくりあげられる危険性と共に、何かの拍子に引っ張られてしまえば大惨事の可能性も……や、ずり落ちることはないかと存じますが、二人が同時に引っ張ったらベルトがブチッと。


「して、恋人関係になって初の朝だが」

「はい、本日もまたお美しいですね」


 結ちゃんも初ちゃんもまたお美しいですが、可憐さと愛嬌は一番と言っても良いでしょう。

 背は少々小柄ながら、幼さの残る顔と相まって見上げられると難でも言うことを聞いてしまいそうになりますからね、魔性の女と呼んで差し支えはありません。

 無意識に手が伸びて頭を撫でてしまいそうになりますが、そんなことをしても喜んではくれません。同い年ですしね、子ども扱いをされても……と言ったところでありましょう。


「うむ……まあそれは毎度聞いているので他にないか?」

「やや、それはまた欲望を吐露するようで恥ずかしいですね」

「何を考えているのだ!?」


 少々頬を赤くしながら泡を吹いたように指摘をしますが、小さな子どもさん相手にすることを考えましたとは正直に言いづらいです。

 握られたスカートがグイッと両者の身体へと引き寄せられる感覚もしますが、もしも中身が露呈することがあった場合に私はギャン泣きしますよ?

 ええ、私に失言があったならば潔く謝りますから、その、スカートを引っ張るのはやめてください。


「いや……まあ、恋人だからな。そのように考えるのも必然と言えよう」


 腕を組みながらウンウンと頷きますが、朝も早くから口にするのも憚るようなことは考えてはおりません。

 これからお付き合いを重ねていけば、もちろん全年齢漫画で表現できない範囲のイベントも起こりうるかもしれませんが、私は一応発情期の猫ちゃんレベルでいきり立ってはおりません――いえ、悠ちゃんが悶々とした調子だからと言って、ピンク色の妄想をしているかと言えば違う、と思います。


「悠、私は先ほど柊から満足してくれるなら、いくらでも唇を差し出すと言われたわ――これが何を意味するのかくらいはあなたでも分かるわね?」

「フリーキスだと……? お触りだけでなく四六時中唇を合わせても構わないというのか?」

「ええ」


 ようやくスカートから手を離してくれた初ちゃんですが、どちらかと言えば月島柊を追い込む方向に導いていると思います――それと葬送と頭文字が付きそうな単語は何でしょう? 意味合いについては悠ちゃんが続けた言葉からも読み取れますが、そこまで許すつもりはありません。


 あといつからお触り自由の流れになってました? 私は初耳なんですけど、互いの共通認識になっているのはどうしてですか?


「お姉ちゃんが大人になってく……」

「一応年上ですので、成人するのは私の方が早いですが……」


 どちらが大人びているのかについては一考の余地がありますが、一般的に大人はえっちなことをしているか否かで判断されるべきではありません。


「悠、私は二番でも三番でも、最終的に隣にいればそれが優勝だと思っているわ……ただ、妊娠させるのは私だということを忘れないで」

「なにっ」


 だんだん頭痛を感じる方面の会話になってきましたが、現実的には不可能でも初ちゃんなら何とかするんでしょう……。


「では名付け親は私というコトで良いな?」

「仕方がないわね……」


 私の祖母などはお産婆さんが名付け親となったらしいですし、姓名判断等の専門家に依頼するのも将来のためを考えてありうるのかもしれません。

 悠ちゃんがその手の知識を抱いているかはともかく、子が産まれたら任せましょう。


「連れ添いをするときはどうする? 日替わりか?」

「家庭と外で分けるべきでしょうね。日によって迎えに来る人間が違う……お外の評価は厳しくなるでしょう」

「では外はお前に任せる」

「あらいいの?」

「初の外見はあらゆるざわめきを覆い隠す、問題ない」

「お二人ともー」


 将来設計に夢を描くのも大切なことかもしれませんが、未来とは現在と地続きであることも忘れてはなりません。

 私に好意を抱いてくださるのはたいへんありがたいことですが、存在を無視されて気分のいい人はいません――


「私、怒るのは苦手ですが……頑張りますよ?」

「「ひいっ!」」


 首を傾げながら笑みを浮かべつつ、目だけはそのままにして……人間は目が笑っていないととっても怖い印象を持つそうです。

 頬も口元も歯も笑顔の大切な要素ですが、最終的には目が与える印象次第なんですよね?

 

「あー、悠、今日の占いで言ってたんだけど」

「あー、それなー」


 二人がとりとめない会話をするのを横目に、スカートがしわになっていないか確認をします。

 私を頂点にしたパワーバランスになってることにも申し訳なさを覚えますが、みんな茶目っ気があるので引き締めるところはちゃんとしないと。


(でも……私の選択で二人がいつも通りになれるのなら)


「結ちゃんが教えてくれた選択肢で、どうやら良い方向に行けたみたいです」

「うっふっふ、お姉ちゃんのためなら一肌でも二肌でもいくらでも脱ぐよ?」

「これからも迷惑にならない範囲でよろしくお願いします」


 姉としてはアドバイスしたいですが、役立ちそうなものはできなさそうですし……。


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幼なじみの恋を応援していたらいつの間にかに二股をかけていたんですけど!? 彩世ひより @HiyoriAyase2121

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