【KAC20246】サラヹ+トリあえず+事件
星羽昴
嫌がらせされる女
サ
ラ
ヹ
ト|リ|あ|え|ず
事
件
「サラエ?トリあえず・・・事件。誰か誘拐でもされちゃうんじゃないの?」
胸と態度がやたらデカい女は、首を横に振って否定した。
「・・・と言う訳で、スマートフォンのロック解除する暗証番号を見つけてくれ。ちゃんと礼はする」
テーブルの上に置かれたメモには、意味不明な文字が記されている。
このメモを持ち込んだ「胸と態度がやたらデカい」女は、正面のソファに深々と座りこんで脚を組んでいる。膝上までの短いスカートなので、正面に座っていると奥の方がチラチラ気になる。しかし、当人は全く気にしてない・・・と言うより、ワザとやってる。コイツは、そう言う女だ。
「お姉ちゃん。全然『と言う訳』になってないわよ。ちゃんと説明してよ」
そう。この「胸と態度がやたらデカい」女は、わたしの姉。彼の家でおうちデートを目論んでいたところを奇襲攻撃された。
お祖父ちゃんの遺品から見つかったスマホの暗証番号を推理した話をしたら、わたしの彼に目を付けたらしい。
「だから、別れた男に嫌がらせをされたんだ。付き合い始めた頃に『お互いの誕生日を暗証番号にしよう』とか言われてそうしてたからな」
それ、絶対に「相手の着信履歴とかチェックする系」男だったんじゃないの?
「別れ話をしてた時に、隙を見つけて私のスマートフォンのロック画面の暗証番号を変えやがった。ヒントのメモをよこして『もう一度会えるといいね』とか気持ち悪いことを言われてな。絶対会いたくないから、暗証番号を見つけてくれ」
胸と態度だけじゃなくて隙も大きいらしい。
「もう、新しい番号に乗り換えちゃえばいいじゃん」
「ああ、新しい番号のスマートフォンは既に購入してる。だが、このままでは気が済まない。暗証番号を見つけて、この携帯番号からSMSメッセージでそれを『バカめ』と添えて送ってから解約してやりたい」
うわ・・・胸と態度はデカいくせに、心は狭いんだよ。この女は。
和服を着た前髪ぱっつんロングヘア少女が、珈琲を運んで来た。彼の妹で、ブラコンを拗らせてる。彼に近づく女性に対して露骨に敵意を示すのだが、今日は特に邪気を纏ってる感じだ。
お姉ちゃんのこれ見よがしな胸の谷間に、口を耳まで裂いて牙を立てそう。
お姉ちゃんのメモを見ながら、彼は0と1を手元の紙に書き並べ始めた。時々、パソコンで検索したり表計算ソフトで計算したりしてる。
「19140628」
え?解除できちゃった。
「横書きされてる『トリあえず』の各文字を、2進数で表す。
ト=1110 0011 1000 0011 1000 1000
リ=1110 0011 1000 0011 1010 1010
あ=1110 0011 1000 0001 1000 0010
え=1110 0011 1000 0001 1000 1000
ず=1110 0011 1000 0001 1001 1010
各文字の間にある『|』は論理和の記号。論理和の計算規則は
0|0=0
0|1=1
1|0=1
1|1=1
となる。各ビット毎に論理和の結果を出すと
ト=1110 0011 1000 0011 1000 1000
リ=1110 0011 1000 0011 1010 1010
あ=1110 0011 1000 0001 1000 0010
え=1110 0011 1000 0001 1000 1000
ず=1110 0011 1000 0001 1001 1010
―――――――――――――――――
1110 0011 1000 0011 1011 1010
この2進数が表す文字は『ヺ』だ。
これで縦に読めば『サラヹヺ事件』で、これは『サラエボ事件』の古い表記。この事件の日付が1914年6月28日」
お姉ちゃんは、そそくさとメッセージを送るとスマホの電源を切ってバッグに投げ入れた。それから名刺を1枚取り出して、裏に何かを書いて彼に手渡す。
「私の新しい電話番号だ。今日の礼をするから、いつでも連絡してくれ」
「お姉ちゃん!これ、わたしの彼氏だからね」
わたしは、名刺を奪ってその場で破り捨てた。それを見越していたのか、お姉ちゃんはニヤリとする。
「と言う訳で、今日の礼は取り敢えず妹から貰っておいてくれ」
クスクス笑いながら、胸と態度のデカい女は部屋を出て行った。
ふざけるな!
あんな女と、男を取り合えるか!
【KAC20246】サラヹ+トリあえず+事件 星羽昴 @subaru_binarystar
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