学生トーク「トリあえず編」

山田 武

学生トーク「トリあえず編」



「──トリあえず、についてどう思う?」


「……とりあえず?」


「トリあえず。トリがカタカナで、あえずはひらがなだ」


「意味を考えろってか? 面倒だな……」


 いつものように、休み時間を友人と無為な話題で潰していく。

 今回はどうやら、よく使う言葉をよく分からない抑揚で使うらしい。


「なに、字が別種だから使い分けた方がいいのか? トリ、あえずだから……鳥に会うことができなかった、みたいな感じか?」


「おおっ、他には?」


「他? ……撮り合えず、一緒に写真を取ることができなかった。採り合えず、同じような感じで採取ができなかった。あと──」


「それ、その一緒系以外は無いのか?」


「文句言うなよ……あともう無いな。強いて言うなら、最初の会う系のヤツと鳥を鶏に絞ればもう少し増やせるけど」


「いや、それを聞いただけでほとんど網羅してんじゃん。もういいよ、それ系統は」


 なんでお前の側で断るんだよ。

 言う側ならまだしも……まあ、そういうヤツだと割り切っているからこそ、よく分からないこんな話題にも付き合っているのだが。


「あとはもう、誰もが言われて一番に思い浮かぶ奴だな。全部ひらがなで書いて、そのまま『とりあえず』って読むパターン」


「……でもそれってさ、どういう由来があるのかな?」


「わざとらしくこっちを見るな。はいはい、いつものだな」


 その要望を受け、いつものようにスマホを使い由来を調べてみる。

 いくつかのホームページを見ながら、それらしい回答を考えてから口を開く。


「──あえず、これが『敢えず』。まあできない、みたいな否定的な意味があるらしい。だからとりあえずってのは、あくまでその場しのぎって言うか、充分に対応できないって意味があるそうだ」


「とりあえず……奥が深いんだな」


「薄い、というか浅いよ」


「まあ、ぶっちゃけそこまで細かい話は……な?」


 いやまあ、そこまで長くない休み時間の会話だしな。

 うん、まさにとりあえず程度の充分だったわけだ。


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