コンビニのあの子
う~ん。うちのパソコン……古すぎるよな。モニターも小さいし、配信とか見るにはちと心もとないんだよな。若い頃は小さい画面でも全然気にならなかったけど、最近小さいものを見るのが辛くなってきた。
それと、推しの姿を綺麗な姿で見たいし、せっかく歌がメイン活動の子であるならば、スピーカーも買ったほうがいいのではないだろうか?
「……善は急げだ。昼食ってから電気屋いくぞ」
備蓄用の棚から唐辛子入りのカップ麺にお湯を注ぎ、よれたTシャツを頭から被り履きなれた短パンに足を通していく。知り合いに会うこともないだろうからこれでいいだろう。髪は……ちょっと整えればいいだろう。香水は苦手でつけることはない。きつい匂いって気持ち悪くなるし。さてと、カップ麺が食べごろのはずだ。
熱々の麺を一気にかっこみ、スープも飲み干す。調べものでぼーっとしていた頭が辛味という痛覚で覚醒する。戸締りよし、行くか。
日差しが照り返す中、黙々と自転車を漕いで電気屋への道をひた走る。
時間にして大体、10分ほどで目的の場所へと辿り着く。
地方にしかない電気屋のようで、大手と比べると商品の品ぞろえは少ないのだが……ここの店長の趣向なのだろうか? パソコン用品の品ぞろえだけは異常なほどに多いのである。
俺自身あまり詳しくないのでよくわからないが、ゲーミング系の周辺機や配信系の機材であったり、パソコン回りのデスク、椅子など……一部の商品スペースだけが無駄に豪華なのである。
「……う~ん。どれがいいんだろう? 値段が高ければ性能が良いんだろうけど」
「そうですね。値段が高ければ高いほど性能が良いのは当然ですが、どういった用途で使うかが大事ですよ? なので、無理に性能が高いパソコンを買う必要はないと思いますよ」
「たしかに値段だけで決めてはいけないよな。用途も大事だよな――えっ?」
俺が売り場で値札とパソコンのスペック表を見比べ思案していると不意に後ろからどこかで聞いた記憶のある女性の声が俺の会話に割って入ってくる。
「……あっ、いつものコンビニバイトの子だよね。なんでここに?」
「お兄さんこんにちわ。見覚えある人が何やらう売り場で右往左往していたので、思わず声をかけてしました。—―パソコン選びならお力になれますよ。パソコンで何がしたいんでしょうか?」
振り向くと会社の帰りに立ち寄るコンビニバイトの女の子がラフな格好でこちらを覗き込んでいた。
「おっ? どれがいいのかよくわからなかったから助かる! ゲームはしないけれど、もしかしたら軽い作業ぐらいはするかもしれないかな。主に配信者の配信が快適に見れればいいかなって思ってるんだけど……」
「ゲームはしない、もしかしたら軽作業はするかもしれないと。 ――うん? 配信者の配信を快適に見たいと。意外な単語が出てきましたね。推しがいるってことですよね? えっと、その、推しはどちらの配信者でしょうか」
「意外だったかな? 最近見るようになってね。有名な子だから知っていると思うんだけど、リュミエール・オプスちゃんだね。っと、こっちは答えたんだし本題にいこう」
この子も推しの配信者がいるのだろうな。期待に満ちた視線を向けられて、思わず推しの名前を言った途端、彼女の顔が華やいで見えた。
「えっ!? リュミちゃん推しなんですか! 嬉しいな~。知ってる人が推してくれるっていいですね! と、となると、その条件で買うならこれですね。これなら軽作業しつつ、配信も快適に見れるはずです」
「君もリュミちゃん推しなのか! 歌いいよね……こう、心に沁みるというか潤っていく感じ。そして、表と裏のギャップがまたいい味出してるよな~。絵も上手いし、癒しの時間だね。おっ、このパソコンでいいんだね。ありがとう! おかげで助かったよ? ――うん?」
推しの話で盛り上がると思ったんだけど……な? あれぇ? なんでこの子顔真っ赤にしてるんだろう。推しが褒められるのが嬉しいのはわかるけれど、顔真っ赤にするほど嬉しいものなのだろうか?
「あぁぁっ、すみません! わ、私はこれで失礼しますね! よ、良き夜を~!」
「えっ? ちょっと待ってお礼がした……いっちゃたよ。名前も聞けなかったし、今度あったら聞いてみるか……」
にしても、最後のセリフが自然に出てきたけど、本当にリュミちゃんが好きなんだろうな。あるいは、まさか本人だったとか? ――自分の都合が良いように妄想しすぎだな。うん。
一人残された俺は彼女が教えてくれたパソコンと店員に勧められたスピーカーも合わせて購入し、着実に推し活の準備を整えていく。
さて、明日の朝にはパソコンが届くようだし掃除しておくか。
たまたまだけど連休とっておいて良かった。
——休み明けがしんどそうだけども。推し活は楽しいけれど、これから仕事の成績上げられるのかな。いや、上げないとリュミちゃんの支援が出来ないじゃあないか?
ここは死に物狂いで成績をあげるしかない!
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