リアタイ準備

普段、鳴ることがないチャイムが今日は珍しく部屋に鳴り響く。待ちに待ったこの時に俺の胸は高揚感で満たされる。

玄関の扉を開くと黄色いユニフォームを着た若い青年が額に大粒の汗を垂らしながら大事そうにダンボールを抱えていた。しっかり教育されているのか嫌な顔一つせず、淡々と話を進めていく。


「天城さんのお宅で宜しいですよね? ノジカ電気からのお届け物です。重いので中まで運びますね。——はい。これで完了しましたので、ここにサインをお願いします。毎度ありがとうございました!」

ほんと世の中便利になったもんだな。昨日頼んだパソコンが今日の午前中には届くとか……その分配達の人達は目が回るほどに忙しいであろうに、この笑顔である。本当に頭が上がらないわ。


っと、パソコンも届いたし初期設定とアカウントの同期なんかをしていくか。

大きな箱が2つ、一つはパソコン本体、もう一つはモニターが入っている。

パソコンは精密機器だから、雑に扱わないで慎重に取り出して、お古のパソコン台(テーブルとも言う)にパソコン本体の位置はここでいいな……次にモニターだな。こっちも慎重に扱わないといけない。以前落として全損した人を見たことがあるので、持ち方に注意して本体の横に設置する。プラグをしっかり差し込んで抜けないのを確認——よし。新しいマウスの電池も入れた。電源を入れるぞ!


……ふむふむ? 昔のパソコンと比べると初期設定もだいぶ簡単になったようで、アカウントの作成、任意のパスコードを作成し登録するだけのようだ。この調子でサブスクやWEBサイトのアカウントの同期もと思ったが、所々パスワードを忘れていて復元に時間を浪費することに。やはりこの手はスマホのメモや紙に書いておくべきだったな。メールのアドレスが一つだったのがまだ救いだったようだ。パソコン設定をし始めたのが13時過ぎ、無心で画面に向かっていたが。気づけば陽も暮れていた。


「もう夕方か……リュミちゃんの配信が21時だったな。夕飯ささっと済ませて、明日の仕事の支度も終わらせた方がいいな。今日はリアタイで配信見てみたいし、やることやって待機だな」

いつもの調子で備蓄棚からカップ麺を取り出す。時間もかからないし栄養がバランスよく取れるしカップ麺は最高だな。いやまぁ、いつも常備しているのが同じものなんだが、味も悪くないし栄養も取れれば言うことは何もないだろう。

何より推しのリュミちゃんもこのカップ麺をよく食べているらしい。

高次元の存在かと思ったら庶民的な物を食べていて軽く親近感が湧いてくる。

いやまぁ、中身はいないってのが定説はあるんだが配信者も人間だろうし、こういった面もあって良いとは思う。


お腹は膨れた。さて、時間も惜しいし今日はシャワーで済ませるとして、酒はまだある――が、つまみがなかった。パソコンの設定中にちょこちょこ摘まんでいたのが仇となったようだ。

う~ん、今から買いに行くにも外まだまだ暑いんだよな。

陽が落ちたとはいっても昼間の熱気は冷めきっておらず出るのが億劫になる暑さが漂っているのだから。


「……よし、今日は我慢しよう。明日は仕事だし無理は良くない。ささっとシャワ―浴びて待機してしまおう」







「……なんか緊張してきた。昨日まではアーカイブをひたすら見ていたけれど、今日は初のリアタイ。パソコン回りの環境は改善したし快適に見れるであろう。——時間早いけど待機してみようかな!」

なんでも待機時間も醍醐味のようで、コメント欄でリスナー同士の会話や独自のスタンプでの待ちをしたり変わった文化があるのだが、それを見てるだけでも十分に楽しめるのだ。気分だけが先走って今日の配信内容見てなかったんだが何だろう?


〖本日の私の配信は21時より【夜の公開懺悔】となります。迷える下僕様の参加お待ちしております!

注意;すべての懺悔を公開するわけではありません。嘘偽りのないように!

お返事させて頂くのは気になったものだけとなりますので、過度な期待をされないようお願い致します。


公開懺悔募集箱はこちらより! 『koukasyokei.zannge.com/ryimieru』〗


……おぉん。募集箱のURLがあれにしかみえないんだが、大丈夫だろうか……

だが、推しに認知してもらうには最初か肝心のはず勇気を出して公開懺悔に挑むとしようじゃあないか! 

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