バウンティハンター・スペランツァの焦燥

冬野瞠

私とノニちゃん

「とりあえず、武器を下ろしてもらおうか」


 下卑た笑みを浮かべる男に言われ、私はレーザー銃を慎重に資材基地の床に置いた。そのままゆっくりと両手を上げる。

 相手の腕の中には私の相棒が拘束されていて、しかもその喉元には前時代的なナイフが突きつけられていた。

 心臓の拍動がうるさい。この状況を早いところ打開しなければ、取り返しがつかなくなってしまう。


「こんなトリを人質に取られたくらいで手も足も出ないとは……銀河を股にかける賞金稼ぎバウンティハンター・スペランツァも形無しだなあ!」


 賞金首の男は哄笑する。対して、私はぎりりと奥歯を噛み締めた。早く、早く、なんとかしないと。

 男が人質にしているのは私の相棒であるノニちゃんだ。ノニちゃんはチャボくらいの大きさで、ふわふわの羽毛に包まれており、両手をぱたぱたさせながら私をつぶらな瞳で見つめている。

 全宇宙で指名手配されている賞金首を追い詰めたはいいものの、最後の最後でノニちゃんが捕らわれるなんて迂闊だった。

 もし、あのナイフがノニちゃんの体に届いたら……想像しただけでゾッとする。私のこめかみを冷や汗が伝う。


「しかし、あのスペランツァがよもや女だったとはねえ。なかなかな上玉だし、大人しくするなら可愛がってもいいぜ?」


 なんという下賎なことを。首を横に振り、愕然としながら私は声を張る。


「や、やめなさい! 今の言葉、撤回して! すぐに後悔するから!」

「おや、虚勢かい? 意外と可愛いところも――ん、なんだ?」

「ギュエ」


 ああ、終わった。事を大きくしたくなかったから、必死に説得したのに。

 私の願いも虚しく、 男の腕の中のノニちゃんが、むくむくと爆発するように巨大化した。

 一瞬で三メートルほどの大きさになったノニちゃん――遺伝子操作で特殊能力を身につけこの世に蘇った恐竜・デイノニクス――は男の頭にかぷりとかぶりついた。


「だ、駄目! 殺さないでよノニちゃん!」


 私は大声で制止する。賞金首は生きて捕まえる必要があるのだ。

 男の下品な言葉に怒り心頭だったノニちゃんは、何とか矛を収めたようで、体力温存のための小鳥に似た姿に変じてくれた。

 あまりの事態に気絶したらしい男は、顔面からだらだらと血を流している。が、怪我はそこまで深くないようだ。止血は必須だが。

 私が賞金稼ぎとして優秀なのは、ひとえにノニちゃんという戦力があるからに他ならない。


「はあ~。こんな怪我させちゃって……始末書書かなきゃじゃないー! もう、ノニちゃん!」

「ギュエー!」


 汎用止血帯を取り出しながら嘆く私の周りを、小さくなったノニちゃんがぽてぽてと駆け巡る。

 この宇宙時代では賞金稼ぎも雇われ稼業でしかない。上司の雷を思うと今から憂鬱になる。

 でも、ノニちゃんがいつも通り可愛いから、全部許した。

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