魔法少女カーニバルキッチン
五三六P・二四三・渡
第1話
『はいはいはいはい、始まりましたよ! 今夜も大詰め! 第64回西の森のカーニバルキッチン大会決勝戦!』
人の住まぬ魔界の森の奥。誰もいないはずの場所で大勢の者が騒ぐ声がしていた。
祭りを思わせる太鼓やお囃子の音。楽しげに笑う者の声。
そこら一帯だけが強く明かりを放っている。
一角にて、料理番組のキッチンのセットのようなものが向かい合って二つ並んでいた。
周りを多くの観客が見守っている。よく見るとそれらは人ではない。人間の体をしているが、頭がワニにのような男。3メートルはありそうなカマキリ。身長が20センチほどの妖精のようなもの。そしてゴリラ。ほかにも様々な形をした者が集まっていた。
『さあ! ここまで勝ち進んできた強者たちを紹介するぜ! 青コ~ナ~! 豪快な見た目とは裏腹に、料理の腕は繊細! 魔界の若手の獅子! デュラベロス・オルダーマンだ~!!』
司会者と思われる二足で立っている体長一メートルほどの蟻がマイクを持って叫んでいる。
銅鑼の音と共に、巨大な鎧を着た男がキッチンに近づいた。兜はしておらず、頭はライオンの姿をしている。
『さて、デュラベルスさん。これまで対戦相手がトラブルに見舞われ失格になるという事態が多々発生していますが、そのことについてどう思いますか?』
「ふん、くだらん。どうせ自分の実力不足を棚に上げて、トラブルを言い訳してるだけだろう。決勝戦の相手はそのようなことを言い出さない弱者でないといいがな」
司会者の質問に足してデユラベルスは豪快な笑い声を立てて答えた。
『そうですか! 自信はたっぷりと言うことですね! では次の選手を紹介するぜ! 何と対戦相手は人間界出身! 誰が彼女が勝ち上がってくると予想した!? 赤コ~ナ~魔法少女マキコとその使い魔の魔界フクロウだ~!』
銅鑼の音と共に、人間の姿をした少女が入場してきた。恰好はまさに魔法少女と言う出で立ちで、モコモコとフリルをあしらったピンク色の服装をしていた。肩にはフクロウが乗っている。
『さあマキコ選手。ついに決勝戦ですが、コメントをどうぞ』
「私は優勝するためにここに来ました。それだけです」
『おおっと! 簡素ながらも優勝宣言頂きました!』
マキコの言葉に会場が盛り上がる。
『さてさて、この決勝戦まで波乱万丈の戦いがありました。あまりの感慨深さにこれまでを振り返りたいところです。しかし! 観客の皆さまは皆こう思ってるでしょう。「早く始めろ!」もちろんです! 始めます。テーマはお伝えしているように「肉料理」です! 第64回西の森のカーニバルキッチン大会決勝戦!ゴーファイト!』
銅鑼の音と共に、観客の歓声が森にこだました。
◆ ◆ ◆
魔法少女マキコは魔法少女である。
12歳でフクロウのフクちゃんにスカウトされ、魔界の悪さをする魔物たちを退治する魔法少女になったのだ。
今回の騒動は魔界の美食家ドンデリカテッセの企む、地球の絶滅危惧種で腹を満たしたいという野望を阻止するためにめこの大会に参加したのだった。
マキコは基本的にできることなら不要な戦いは避けたかった。そこで魔界に住むドンデリカテッセに止めるよう交渉しに来たのであった。
「ならば吾輩を余興で楽しませてみよ。吾輩の主催する魔界の料理大会。それに優勝できたのなら、人間界への進行をやめてやろう」
こうしてマキコは魔界の料理界の強者と戦うことになったのだった。
「これまで長く苦しい戦いだったね。フクちゃん」
「せやね。あまりに色々なことがありすぎて、思い出せへんくらいやわ」
マキコは玉ねぎを切りながら、キッチン内に置いてある止まり木に乗っているフクちゃんに言った。
その眼には確かな信頼の光が宿っていた。
あくまで魔物との戦いはマキコが担当している。しかしフクちゃんのサポートあってこその魔法少女であった。彼がいなければ負けていた場面も多々ある。
「今回の戦いが終わったら、私の魔法少女としての使命もひと段落するのかな」
「どうやろね。確かにドンデリカテッセの主催する料理大会に優勝すれば知名度も上がる。その流れでマキコの強さもついでに広まれば、奴らもビビッて楽やもしれんな」
「なら負けられないね」
「ああ、毎回負けられんけどな。最善で行こ」
一方のデュラベロスはあらかじめタレにつけておいた肉を取り出しながらも横目でマキコ達の様子をうかがっていた。
(呑気なものだな。試合中におしゃべりとは。それにもう勝った後のことを考えているのか。まあ)
デュラベロスは大きな口を少し上げ、笑った。
(お前たちの敗北は既に決まっているのだがな。ククク)
◆ ◆ ◆
「ない! ない! ないないない!!」
キッチン内にマキコの悲鳴がこだました。冷蔵庫やらバックやらを漁り、そこら中に食材をひっくり返していた。
『おおっと! どうしたマキコ選手! トラブルか!?』
「ど、どないしたんやマキコ?!」
「ないの! 用意しておいた鴨肉がないの!」
「そんなあほな……さっきしっかりと確認したのに……」
確かにマキコとフクちゃんはしっかりと材料を確認していた。厳重な鍵付きのバックに入れており、よっぽどのことがない限り、肉をなくすということはないだろう。
慌てふためくマキコ達を見てデュラベルスは高笑いをした。
「グアッハッハッハ。失望したぞ魔法少女マキコ! 貴様も我に勝てぬとみて、肉をわざと無くしたのだろう!」
「なっ!? 私はそんな情けない真似はしない!」
「ならばこの重大な場面で肉を無くすわけはあるまい!」
「くっ……」
マキコはうつむき歯を噛みしめる。悔しさのあまり涙がこぼれ出そうになった。
「マキコ、もしやと思うが、あのライオン頭が盗んだんちゃうか?」
「え! そんな……」
「あいつの対戦相手、毎回食材をなくしたり、腹痛に見舞われたり、婚約者を寝取られたりでトラブルに見舞われるんや。確かあいつの部下にどんな強固な守りからでも盗むことが出来る盗賊がいるって噂や」
「なんて卑怯な……まったくその可能性には思い至らなかった……じゃあ審判に言って再試合を……」
「いや、それは無理や。魔界のルールでは会場に入る前であれば、何をやってもルール違反にはならん」
「それ先に言ってよ! 前日にあのライオン頭を魔法で倒せばよかった!」
「こらこら、あんた、戦いを好まないキャラなの忘れてんで」
そうこうしてるうちに、デュラベロスは料理を完成させた。審査員であるドンデリカテッセの前に持っていく。ドンデリカテッセはに二足歩行をする豚、マキコはゲームなどのオークの姿に似た姿をしていると思った。
「これは」とドンは涎をたらし聞いた。
「ケルベロス肉のビーフストロガノフです」
「うむ、これはうまい。星四つだ」
「有り難き幸せ」
『出ました星四つ! ちなみに皆さんご存知の通り星五が満点となります。マキコはこれに勝てるのか!』
「おえ」とマキコはそれを見て顔を顰める「ケルベロス肉って犬肉じゃん」
「よそのことかまってる暇はないで」
マキコは肉以外の工程はは先に済ませた。しかし肉が無くては完成しない。幸い残り時間はそれなりにある。
「どうにもならないかな」
「……どうにかしたいけど、どうにもならんな……」
「本当に?」
「ああ。とりあえずで料理を出すしか」
「鳥、和えず出だすの?」
「鳥……? いや鶏肉かは知らへんけど……」
「本当に? 本当に?」
「……ああ」
「ほ・ん・と・う・に?」
「……」
「チッ」
マキコは舌打ちををしながら、フクちゃんの止まり木を払いのけた。
木が倒れる音が鳴り響く。観客が静まり返った。
フクちゃんは慌てて飛び上がる。
「どないしたんや?!」
「……ねーな」
「な、なんて?」
「使えねーなっつってんだよ!」
マキコが叫ぶ。その顔にはいら立ちが浮かんでいた。
「落ち着けってマキコ。落ち着け」
「なーにが落ち着けだよ。お前が言うべき言葉は『こうなったらしょうがない。ワイの肉を使うんや!』だろ!」
「えええええ?!なんでや!?」
「ぴーちくぱーちくうるせえよ鳥公がよおおおっ! 今まで魔法少女やてて思ったんだが、最善最善うるせえんだよ! はいはい、私は最善の行動がとれない駄目な魔法少女ですよー。でもうんざりなんだよ! サポートなんていらない! これからは私一人でやる! だから肉になれ! お前が切り札だ! とりあえずで料理は出さない! 鳥を和えて出す!」
「な、おま………おま、クズ……お前クズ……!」
あまりのことにフクちゃんは舌が回らない。
「というかエセ関西弁が耳障りなんだよ! 魔法少女のマスコットは関西弁じゃないといけないとでも思ってんのか!」
「言ってはならんことを! お前は地雷を踏んだんだぞ!」
フクちゃんの関西弁が崩れた。
「図星かよ……」
マキコはあきれた。
「だいたいお前もお前だよ!」とフクちゃんは激高している。「 いっつもいっつもグズグズした動きしかできない癖に!」
「それはあんたがいちいち横から指示を出してくるからだよ! 気が散るんだよダボが!」
「……いいだろう肉にしたけりゃ肉にしろ……ただし」
フクちゃんは羽を大きく広げた。
「俺に勝ったら肉になってやる。俺が買ったらマキコが肉になれ!」
「上等!」
マキコはマジカルステッキを大きく構えた。
二人がぶつかり合い、火花が大きく散る。
『おおっと、まさかの魔法少女と使い魔の戦いが始まった! 盛り上がってまいりました!
しかし残念、ここでいったんCMに入ります。今大会は美食家ドンデリカテッセ様の提供でお送りします』
魔法少女カーニバルキッチン 五三六P・二四三・渡 @doubutugawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます