第1話:Lv.α-713Zへの降下

 テレビのスイッチが入ると画面の真ん中にイワテツ社のロゴが現れた後にフッと消える。次に映し出されたのは星々が輝く宇宙空間にエメラルドグリーンのガス膜に覆われた惑星が映し出されると同時にナレーションが始まった。


『これは惑星Lv.α-713Z。ケンタウルス座アルファー星にある未開拓惑星です』


『この惑星には二ヶ月前に衛星ガニメデに流れ着いた小惑星から採掘された新たなエネルギー鉱石、ネオ・オメガニュウームの巨大な鉱脈ある可能性があると考えています。我がイワテツ社は一週間後に入植用宇宙輸送貨物船、海津丸をα-713Zへ向け、出発させる予定です』


 惑星の映像が消え、再びイワテツ社のロゴが現れる。


『誰よりも早く!新たな未来あすを切り開く!それがイワテツ社です!』


 少しテンショを上げたナレーションが終わるとロゴがフッと消える。



 カズ達が仮釈放されてから半年、カズ達が所属するI.E.R.C.V.Cは開拓コロニーや未開星の調査、要人や金融機関などの警備や護衛を行い、契約者から高い評価を得ており、また連邦中央からも高い評価を得ていた。


 そんなカズ達は入植用宇宙輸送貨物船、海津丸かいづまるに乗りLv.α-713Zへと向かっていた。


 ハイパードライブ中の海津丸かいづまるの船内では船員や開拓作業員、I.S.C兵達、そしてカズ達はコールドスリープに入っていた。


 ハイパードライブを抜けた海津丸。船の操縦を行っている海津丸のAIは独自で予定航路を確認し、コールドスリープを解除する。


 第四区画の横並びしたコールドスリープのカプセルが次々と透明の合成ポリエステルのハッチが戦闘機のコックピットの風防の様に上へと開く。


 下着姿の人々が次々と起き上がる中でボサボサヘヤーのトウヤは大きくあくびと背伸をする。


「おはようございます。トウヤさん」


 背伸びとあくびを終えたトウヤは笑顔で挨拶してくれた男性の開拓作業員に明るく挨拶を返す。


「おはよう、いい朝だね」

「ええ。しかし、六日ぶりの朝食が楽しみですよ」


 トウヤはカプセルの外に両脚を出し、立ち上がると後頭部をかきながら笑顔で同感する。


「そうだね♪今日は何かなぁ?ハンバーガーかな♪それともフライドチキンかも♪あ!タコスもいいね♪」


 トウヤの口から出る開拓作業員は少し苦笑いをする。


「相変わらずアメリカン料理が好きですね」

「ああ、だって美味しいもん♪」


 トウヤは笑顔で言うと眠っていたカプセルを陽気なステップで離れる。


 しばらく歩いていると少し大きな二つのコールドスリープカプセルの前に着くと、そこには下着姿のカズとティナ、ライとルーラが抱き合って寝ていたが、ゆっくりと起き上がる。


 それを見たトウヤはニヤリと笑う。


「皆さん、仲がいいですね♪」


 起き上がったカズは片目を擦り、まだ眠そうな表情で言う。


「ふぁーーーっあぁ、社長。俺とティナは付き合っているし、それにライとルーラはなぜか抱き合っていると安心出来るんだと」

「へぇー、興味深いね♪とりあえず、早くアップ!アーップ!六日ぶりの朝ごはんだぞ」

「はい、はい。すぐ起きるよ。お父さん」


 カズはスッと笑顔で冗談を言うとトウヤはフッと笑うのであった。


 それから白いワイシャツと群青色のスラックスの社衣服を着たイワテツ社員達、ブルー系の作業服を着た開拓作業員達、海保の第三種制服を意識したクルー服を着た船員達、そしてSWATを意識した黒い衣服にマガジンポーチを外したSPCSボディアーマーを着たI.S.C兵達が朝食の為に船内に備えられた大型の食堂に集まっていた。


 食堂は多くの人々で賑わっており、皆はトレーを持って六日ぶりの朝食にワクワクしていた。


 今日の朝食はサバの味噌煮、豆腐とワカメの味噌汁、生卵、肉じゃが、ミックスサラダ、白米と麦の混ぜご飯の定食だったので取って席に座っているトウヤは少しガッカリする。


「ちぇっ!アメリカン料理じゃないのか」


 すると彼の左隣りに席に座っているカズがちょっと、と言う表情でトウヤの左肩を軽く叩く。


「そんな事をうなよ、トウヤ。あまりアメリカン料理ばっか食っていると太るぞ」


 カズに指摘されてもトウヤはハッと笑う。


「別に!俺、昔から太らない体質だから。まぁ間食として特製タコスを作るけど」

「あーっ、だったら私も作って下さいね。久々にガッツリした物が食べたいわ」


 彼の目の前の席に座るティナの頼みにトウヤは笑顔でサムズアップをする。


「OK♪他に食べたい奴は?」


 トウヤがそう言うと皆が腕を高々に上げる。



 朝食後、船内のブリーフィング・ルームには各分野のチームリーダーとカズ達が椅子に座ったり、立ったりして今回のLv.α-713Zへのアプローチ計画を説明が始まる。


 ルームが暗くなると大きなスクリーンを背後に茶髪の眼鏡をかけた二十歳後半の男性説明者が片手にタブレットを持ち、スクリーンを起動させる。


「では、これよりLv.α-713Z調査及び開拓計画の説明を開始します」


 説明者はタブレットを操作し、スクリーンにオレンジ色、黄色、茶色などが混じったガス膜で覆われた惑星の画像が現れる。


「我が社の長距離人工衛星による調査の結果、Lv.α-713Zは地球型惑星に分類され、惑星全体には未知のガス膜で覆われており、大きさは約16.7㎞で表面積は6.77×1010㎞、体積は1.44×1010㎞、質量や重力、自転周期などは地球と変わりありません」


 説明者は画面を切り替えLv.α-713Zへ向かう海津丸かいづまるのルートを表示する。


海津丸かいづまるは現在、Lv.α-713Zから約50㎞の地点に居ます。計算では2時間と10分で肉眼視認、出来ます。私からの説明は以上です。では次に降下偵察計画に関する説明を行い。ではトウヤさん、お願いします」


 そう言うと説明者は右へと向かうと入れ違う様にサングラスをかけたトウヤがスクリーンの前に笑顔で立つ。


「んじゃ♪説明をするぜ」


 トウヤはスマフォをズボンのポッケから出し、操作すると降下計画がスクリーンに表示される。


「まず海津丸かいづまるに搭載されている小型降下用宇宙艇、轟雷ごうらいを惑星の衛星軌道に乗せて惑星を一周しガス膜を調査、その後はポイトA577に向けて降下する。問題がなければ降下した偵察隊から惑星の正確な環境データが海津丸かいづまるへ送られるはずだ」


 次に画面を切り替え、スペースシャトルを意識したデルタ無尾翼でV字尾翼の小型降下用宇宙艇、轟雷ごらいが映し出される。


「まずは轟雷に物資や調査用の機材、さらに銃火器等の軍用品を積み込む。無論、惑星の先行調査と偵察は我が社のBチームが担当する」


 トウヤの説明を聞いていたカズは手を振る様に右手を上げる。


「惑星のデータ収集に二週間、収集中は我々も降下とコロニー建築に必要な資材や機材の準備をする」


 するとトウヤはズボンの後ろポケットから板チョコを取り出し封を開け食べ始める。


「以上だ。カズ達の出発は五時間後だ。じゃ細かい事は手渡された資料を見るように。はい♪解散♬」


 そう言うとルームが明るくなり、トウヤはスクリーンを消し、チョコを食べながら、その場を去る。


 説明を聞いていた人達はざわつきながらルームを出たり、その場で話し合ったりしていた。


 一方のカズは手に資料が入ったファイルを持ち、クルっと振り返ると笑顔でティナ、ライ、ルーラに言う。


「じゃ、俺達は準備を始めるか?」

「「「了解、隊長」」」


 そしてカズ達はルームを出て降下の準備を始めるのであった。



 三時間後、カズ達はロッカールームに居り、黒で統一された五つのマガジンポーチを備えたSPCSボディアーマーに肘と膝にプロテクター、指先が覆われてないタクティカルグローブ、ハンドガン用のホルスター右の太股に着け、更に通常時に履くスニーカーを脱ぎ、任務用のコンバットブーツに履く。そしてSPCSの胸にBチームのワッペンを付けると白文字でISCと横に刺繍ししゅうされた黒いキャップを被る。


「よし!じゃ、行くか!」


 カズが気合いの入った表情でティナ達に言う。


「「「ええ!行きましょ!」」」


 そしてカズ達はロッカールームを出て轟雷ごうらいへと向かった。


 海津丸に搭載されたデルタ無尾翼の小型降下用宇宙艇、轟雷ごうらいに物資と調査機材、車両、そして武器を載せ、給油が終わると荷物を持ったカズ達が乗り込む。


 機長と副機長の席にカズとティナが座り、右の機体メンテ席にライ、左のレーダー探知席にルーラが座り、パイロットベルトを着ける。


 そしてシステムを機動させ、キャップを取り、無線ヘッドホンを着ける。


「こちらファルコン1ワン。指令室、応答願う」


『こちらファルコリーダー、よく聞こえるよ愛しのお・う・じ・さ・ま♪』


 トウヤからの陽気なジョークにカズの左の副艦長席に座っているティナが溜め息を吐く。


「キモい!しかもウザイ!」


 ティナからの鋭い毒舌に指令室の椅子に座って無線ヘッドホンを着けるトウヤがニィッと笑う。


「おう!おう!お姫様は厳しいねぇ」


『システムは機動した。茶番はいいから降下時間を教えてくれ』


「真面目だねぇー、カズは。了解。あと三分だ。急いでメンテナンスチェックしろよ」


 右手の人差し指と中指で右耳に着けたヘッドホンを触りながら通信するカズは右にあるパワーレバー付近にあるタッチ式ディスプレイを操作し、エンジンを点火させる。


 エンジン点火と共に目の前の窓にヘッドアップディスプレイが表示される。


「エンジン点火よし。温度は正常。飛行コースと着陸地点の入力」


 そう言いながらカズはタッチ式ディスプレイを操作し、ヘッドアップディスプレイに映し出された入力画面に数字とNATOフォネティックコードを入力する。


「入力完了!チェック開始!高度メーター、チェック!速度メーター、チェック!コースライン、チェック!燃料メーカー、チェック!酸素ゲージ、チェック!機体ダメージ、チェック!50mm機関砲、チェック!フレア、チェック!全てオールグリーン!問題なし!」


 ティナは足踏みし、フットペダルを動かすと同時に操縦桿を押し引き、左右に回す。


「主翼、補助翼、方向舵、チェック!バランスブースター、チェック!コックピットシールド、チェック!OK!オールグリーン確認!」


 ライはディスプレイとスイッチを操作し、システムの確認をしていた。


「燃料システム、チェック!冷却システム、チェック!電力システム、チェック!酸素システム、チェック!脱出システム、チェック!生命維持システム、チェック!防災システム、チェック!警備システム、チェック!サブコントロールシステム、チェック!OK!異常なし!」


 

 ルーラもディスプレイとスイッチを操作し、システムの確認をしていた。


「レーダーシステム、チェック!通信システム、チェック!GPSシステム、チェック!外気検査システム、チェック!土壌検査システム、チェック!外気毒素検査システム、チェック!放射線汚染度検査システム、チェック!グッド!全てオールクリアよ!」


 全システムのチェックが終わるとカズは再び司令室と通話する。


「ファルコンリーダー、こちらファルコンワン。システムチェック、終了!全てオールグリーン!いつでも飛べる!」


『こちらファルコンリーダー、了解した。降下!二分前だ!』


 場所は変わり司令室では無線ヘッドホンを着けた若い男女のオペレーターが椅子に座り、その間に無線ヘッドホンを着けたトウヤがコーヒーの入ったカップを手に立っていた。


「降下、一分前!ハッチ開放!」


 トウヤの指示に女性オペレーターは頷き、ディスプレイやキーボード、スイッチを操作する。


「ハッチ開放!降下艇、下がります!」


 黄色いランプが点滅しながら、注意音が鳴ると轟雷ごうらいの床下が真四角に筋が入り、ゆっくりと下へとジャッキダウンして行く。


 45度に下がった轟雷をディスプレイで確認を女性オペレーターは報告する。


「射出体制、完了!」


 次に確認していた男性オペレーターもディスプレイやキーボード、スイッチを操作する。


 傾いた轟雷のエンジン射出口を隠す様に下からカタパルトがジャッキアップルし、報告する。


「カタパルトのオープン完了!降下、三十秒前!」


 コックピットのディスプレイで降下のカウントダウンを確認し、カズはティナに指示を出す。


「降下、二十秒前だ!ティナ!エンジン最大出力!」

「了解!エンジンフルパワー!」


 ティナはカズの指示に従い、パワーレバーを前へと押す。


 エンジンの噴射ノズルからアフターバーナが吹き出し始める。


 そして男性オペレーターがカウントダウンを始める。


「カウントダウン、開始!十五、十四、十三、十二、十一」


 カウントダウンをコックピットで聞くカズとティナは操縦桿を両手で握り、ライとルーラはベルトをしっかりと握る。


『十、九、八、七、六、五、四、三、二、一』


 すると轟雷ごうらいの前上にある赤ランプが左の緑ランプに変わると同時にブザーが鳴る。


轟雷ごうらい!発進!」


 カズが大声で言うと轟雷ごうらいを固定していたロックが外れ、轟雷ごうらいは勢いよく宇宙空間に飛び出すのであった。



あとがき

いよいよ、舞台となる未開拓惑星への降下開始です。

リドリー・スコット監督のSF映画、『オデッセイ』はNASA宇宙飛行士で植物学者の主人公が嵐で一人、火星に取り残され救出されるまでのサバイバル映画です。

映画で登場する科学描写は専門家の元で再現されていますのでオススメの映画です。是非、観て下さい。

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