勇者は魔剣に恋をしている。

狂酔 文架

第1話 魔剣の勇者


            



 

 魔剣。それは聖剣の対となるもの。それは剣に魔人を宿すもの。

 聖剣。それは魔剣の対となるもの。それは剣に聖霊を宿すもの。

 魔王。それは人類の宿敵であり、世界の異物であるもの。

 勇者。それは人類の希望であり、世界を守護するもの。

 

 第13第目の勇者にして七剣の英雄シキ・オーネスの弟であるシキ・レセドは13人の勇者のなかで、最強と歌われていた、その瞳はこの世にはびこる悪をねじ伏せ、その力は人々を救ったと言われていた、誰も勝つことが出来ず、誰もを救い続ける勇者を人々は信じ、愛し、慕われるはずだった。

 ただ1点をのぞけば神とまで唄われるはずだった少年はただ一つミスを犯してしまった。

 この世に生きる上で、いや、人として生きる上で、最も犯してはいけない大罪を犯してしまった。

 それは、魔剣を使ってしまったこと。それは、魔剣に住まう魔人に恋をしてしまったこと。

 人々は、その勇者のことを、いや、その少年のことを嫌味と恐怖を込めてこう呼んだ、英雄の弟「魔剣の勇者」、シキ・レセド。

 

 これは魔剣の勇者である彼の物語である。



 「はぁぁぁあっ!」

 2本の剣が交じり合う中、少年が決めてとなる一手を放つ。

 「お強くなられましたな。今はもう我が王につかえる、執事で老兵とはいえ、元はこの王国の騎士団の団長を務めた私をこの若さで仕留めるとは、さすがですぞ、レセド殿、いや、勇者様」

 タキシード姿に白髪の執事が言う。

 「やめてくださいよ、ただ指導者がよかっただけですよ。あと、勇者様は慣れないのでやめてくださいよ」

 「そういっていただけるとうれしいですね。さぁ、レセド殿、今からは勇者の任命式ですよ、そんな恰好で行くのは、聖国の宣教師様や、他の国の殿方に失礼ですよ」

 「それもそうですね、では準備をしてくるので、僕はこれで」

そういって、僕はその場を離れる。


 今から、任命式かぁぁぁ

 「なぁ、クローネ、今からでも逃げないか?」

 手に握っている魔剣に喋りかける。

 「おい、レセド、だっきさんざんジーゼスさんとの修練にさんざん僕を使っておいて、いまさらそんなことをいうなんて許さないからな、そもそも、僕たちが勇者にならなかったら、僕達は指名手配なんだぞっ!?」

 「そ、そうだあよね、ハハハ・・・」

 そうこの世界では勇者の力を手に入れたものは、魔王に対抗するため、必ず戦わなくてはならない、戦はない場合は例外なく殺される、理由は簡単、勇者は死ねばすぐにでも別の人間が勇者の力に目覚めるからである。

 「ちょっと!!遅いわよ、レセド!!いつまで待たせるつもりよ!!」

 いきなり、甲高い少女の声が聞こえる、声の方向に視線を向けると、腰にはおとめ座の彫刻が描かれた、剣を携え、ドレスに身を包む金髪の少女がいる。

 「はいはい、今行きますよ。まったく、少しは待っててくれてもいいんじゃないかなー」

 そういって、金髪の少女のもとにかけよる。

 「ちょっとレセド!!、なによその泥!?、もしかして、またジーゼスさんと修練してたんじゃないでしょうね?」

 ドンピシャの質問に、僕はとぼけた顔をする。

 「はぁ、普通勇者として初めての晴れ舞台の直前までするかなぁ、クローネもさぁ、何とか言ってあげてよ」

 「もうこの馬鹿はどうしようもないんだ。ほっといてあげるのが一番だと思うよ。カルネ」

 「そうよね、もうどうしようもないのよねー、この馬鹿」

 「あのー僕の目の前に僕の事を馬頭しあうのはどうかと思うよ。うん。あとクローネは修練の時僕と一緒に戦ってたよね?」

 カルネが僕の腰の背中にかけている、魔剣に目を向ける。

 「うん、クローネちゃんはいいの、クローネちゃんは」

 「なんなんだよそれ」

 そういいながら僕はクローネをカルネに預け、数人のメイドいる。部屋に入る、

 「クローネのほう頼んだぞ、カルネ」

 「はいはい、任せなさいよ、この私が、絶世の美女にしてあげるんだから」

 お前が化粧するわけじゃないだろと言うと何か言われそうなので、何も言わずにクローネを預ける。

 「レセド様、お召し物を持ってまいりました」

 黒髪のメイドさんが話しかけてくる。

 「あ、ありがとうございます」

 そうやって差し出された服に袖を通す。

 「お似合いですよ。勇者様」

 「やめてくださいよ、いつもみたいに、レセド様とかレセド殿とかでお願いしますよ、あまり慣れないですし」

 「あと嫌いなんですよ、勇者の名称は」

 声を低く濁らせて、怒りをにじませながら言う。

 部屋の中に少しの沈黙が続く。

 「さ、少しだけお顔を整えさせてもらいますね」

 一人のメイドが気を利かせて空気を紛らわしてくれる。

 自分の顔が少しの化粧で彩られる。

 「はい!出来ましたよ!、レセド様」

 さっきまで少し泥がついていた自分の顔が、さっきより格段にキレイになる。

 勇者として選ばれた時からは剣の修練ばかりで、それまではあまりこういう化粧や、おしゃれとかを気にしていなかったから、僕はこういうのが全く分からない。

 「はぁ」

 自分の顔や服装がいつもと違って、勇者としての任命シキがあることを再認識してしまい、ふとため息がでてしまう。

 「あんたねぇ、今から勇者としての任命式だっていうのに、よくため息になんてできるわね」

 聞き覚えのある甲高い声がする。

 「は?何でいるの?え、ていうかいつから・・・」

 「もちろん、最初からいるわよ」

 「え、クローネと一緒に別のところに行ったんじゃ・・・」

 「嘘よ、冗談よ冗談」

 「で、もう心の準備は出来てるの?魔剣の勇者さん」

 真剣なまなざしでこちらを見ながらカルネが言う。

 「嫌味か?カルネ」

 真剣なまなざしで問いただす。

 「ええ、嫌味よ。だけどここであなたにこの問いをしないと、あなたは、今から耐えれないほどの罵声を浴びるわよ。逃げるなら今、逃げるって言っても、お父様に言って、この任命式をなくしてもらうだけだけど」

 「そうだな、このあと俺は数えられないほどの罵声を浴びるだろう、そしてそれはその場にいるものであってもだれも止められない、だが、そんなこと、勇者になると決めた3年前から覚悟してるよ」

 「よく言ったわ、それでこそ、勇者、12剣士である私たちを指揮するものよ」

 「さ、それはどうかな、お前以外の12剣士はみんな敵かもだし」

 少し苦笑いをしながら言う。

 「そうなったら、私がほかの12剣士をぼこぼこにして服従させるわよ」

 「そりゃ、ありがたい」 

 そんな会話をしていると、時間が来る。

 「さ、時間よ、儀式の仕方は聖剣の勇者の時と同じ、勇者が聖剣なら聖霊と口づけをする。ようするにあ、あなたと、クックローネが、そ、その、キ、キッキスをするのよ」

 顔をリンゴのように赤らめながら、カルネが言う。

 「いつまで、ここにいるのよっ!!、さっさと行きなさい!」

 「はいはい、行ってきます」

 そう言うと、大聖堂への扉を開ける。すこし歩くと、目の前に大聖堂の扉が立ちはだかる。中から聞こえてくる、馬頭の数々。ここまでか、魔剣への嫌悪は、そう思いながら、深呼吸をして扉を開ける。

 扉を開くと、目の前に見える光景は、異様なものだった、大聖堂の中心に、クローネが立ち、その周りを見えなくなるほどの騎士が取り囲む。多分、大聖堂にいる、一般の民衆が暴動を起こさないようにするための圧力なのだろう。今にも襲ってきそうな民衆の間をく。

 クローネの前に行くと、特別にいらっしゃったとかいう、聖国の最高宣教師 リドル・ウォーカーの前にたどり着くと宣教師が勇者としての誓いの言葉を述べだす。

 何一つ不信感を与えない顔から放たれる言葉にどこか不気味さを感じながら、言葉を聞く。

 「最後に一つ、これは、最高宣教師としてではなく、12剣士が一人、リドル。ウォーカーとしてですが、私はあなたを勇者として、認め、共に戦いましょう」

 リドルが誓いの言葉とは別に言葉を述べる。どこかぎこちない笑みから放たれる言葉に、また不気味さを感じる。なにはともあれ、風邪の噂で、リドル・ウォーカーが12剣士というのは聞いたことがあったが、まさか本当だったとは、と思いながら、言葉を返す。

 「ありがたい、お言葉です。」

 そのやり取りを見ている、他国の貴族や民衆が、ざわめく。

 「では、勇者としての口づけを」 

 リドルがその言葉を放つと同時に、民衆からいっせいに罵声が放たれるまるでこの時を待っていたかのようだ。さすがに他国の貴族は黙っているが、あきらかに気味悪がっている。

 耳に嫌と言うほど入ってくる、罵声を無視しながら、俺はクローネと口づけを交わした。

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