ナチュラル・モザイク

 先日、お天気の良い日に自転車に乗っていましたら、T字路の角で、ズボンの前のところを手でごそごそしているおじさまがおられました。


 私は、おじさまの後ろを通って、横を通って、というふうに行きたいのですが。


 そのごそごそは、前でしょうか。後でしょうか。


 ここは幅の狭い道です。

『前』だとしたら、横を通るときに視界の端に見える可能性があります。

 少なくとも地面に落ちるものの方は。


 しかし、私は自転車に乗っていますので、正面から顔をそむけるわけにもいきません。危ないですからね。


 考えている間にも、私はおじさまの背後に近付いていきます。


 ──おじさまは、きょろきょろと周囲を見回しています。


 ……『前』でした。


 しかし、おじさまが周囲を確認している、これはチャンスです。


 います!


 私います!


 いまあああす!


 あと、たぶんすぐそこの建物におトイレありまあああす!


 心の叫びは届きませんでした。


 自転車の音も。


 私の気配も。



 T字路を曲がるとき、それは見えました。


 太陽光が反射して、キラキラ輝いていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こものギリギリキテレツ覚え書き 柿月籠野(カキヅキコモノ) @komo_yukihara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ