1年F組〇〇先生!

タカテン

大人の授業

「おい、大変だ!」


 授業中、いきなり窓際の席に座る吉田が大声をあげた。

 ここは底辺高校、しかも私が担任を務めるこの1年F組は五年以上も留年を繰り返している落ちこぼればかり。だからこんなことはよくある。

 おおかたグラウンドに野良犬でも紛れ込んだのだろう。

 

「ベトナムや中国ではチンコのことを鳥って言うらしいぞ!」


 あれ、意外とアカデミックな……いや、そうでもないか。

 

「なんだって、本当か!?」

「本当だよ! インターネットにそう書いてあるんだから間違いねぇよ!」

「マジかよ? でもなんで鳥なんだ? 全然形似てねぇじゃねぇか!」

「なんでも発音がよく似ているから、チンコのことを隠語で鳥って言ってるらしい」


 おおっーと皆が感嘆の声をあげる。ひとつ賢くなったな、お前ら。ただし、テストにそんな問題は出ないが。

 

「ということは鳥貴族はチンコ貴族、鳥釜飯はチンコ釜飯か……」

「外国パネェな!」

「それによ、お前ら『シノハユ』って漫画を知っているか?」

「ああ、話は全然進まないのに女の子のおっぱいだけはどんどんでかくなる麻雀漫画のスピンオフだろ」

「その主人公の女の子は麻雀牌の一索を『鳥さん』って呼んでるんだ。これを今回の話に当てはめたら、彼女のセリフはどう変換されると思う?」

「ま、まさか……」


 誰もが固唾を飲んで見守る中、吉田が誇らしげにその一言を口にする。

 

「そう、おちんぽ、だ」


 この日一番の大喝采が教室に鳴り響く。

 まったくもってバカな連中だ。可愛いキャラのセリフを卑猥なものにして大喜びなんて、お前らガキか?

 堪らず笑いがこみあげてきた。

 

「あ? なんだ、センコー、何笑ってやがる?」

「ふ、相変わらずバカなことで盛り上がる連中だなと思ってな」

「なんだとテメェ!?」

「いい機会だ、お前たちに大人の楽しみ方を教えてやる」


 私は黒板にむかうと大きく「トリあえず生」とチョークを走らせた。

 

「は? それがどうした?」

「お前たちも知っているであろうこの言葉、しかし、その裏に隠された意味は知るまい?」

「隠された意味?」

「さっきのようにトリをチンコに置き換えてみろ」


 皆が一斉に「チンコあえず生!」と声を張り上げる。

 

「おい、全然意味が分かんねぇぞ!」

「ふん、『あえず』を『あへず』と昔っぽく言ってみろ」

「チンコあへず生?」

「そうだ! 『チンコ』はその文字通りの『チンコ』、『あへず』は『アヘらない』即ち『射精しない』ということ、ここに『生』って言葉を続けて店員にお願いすると言えばお前たちでももう分かっただろう?」

「ああ、まさかセンコー、あんたビールを注文する裏でそんなことを!?」

「ふっふっふ。しかも店員の女の子が『はい、喜んで!』と答えるんだぞ?」


 瞬間、爆発の如く教室が震えた。

 大人の楽しみ方、分かったようだな。

 

「すげぇ、すげぇよ! まさか『とりあず生』って注文にそんな意味が隠されていたなんて!」

「ああ、さすがは俺たちF組の担任・大鳥先生……」


 はっと皆が息を飲む込む音が聞こえた。

 はっはっは、ついにそれにも気付いちまったか、お前ら。

 

 ガタッ! 

 

 一斉に皆が椅子から立ち上がり、その場に土下座する。

 そして私の真の名前を呼んだ。

 

「まいりました、巨根先生!」


 おわり。

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