とりあえず始めよう。悪役みたいだけど頑張るわ!

花月夜れん

――

 毎日毎日上司に大量の仕事を渡される。メンバーみんなでわけろと言うけれど……頑張りはするけど全然使えない子、すぐ逃げ帰る子、間違いしかしない子etcと私の下の子みんな困ったさん。結局私がほとんどこなさないといけなくなる。


「先輩、お先に失礼しますー!」

「お疲れ様でした」

「今日も残業ですか? お先失礼します」


 はーいと生返事をしながら残った分と格闘し、家に帰る。料理する元気なんかなくて、お惣菜で夕ご飯を済ませる。うぅぅ。もう辞めたい。

 でも、辞めたらあの子達はどうなるんだろう。私がしっかりしてあげないときっと……。

 よし!!大好きなゲームを起動する。これに癒され明日の英気を養うのだ。

 そう、明日の…………。


 目が覚めればそこはきらびやかな世界。

 ここはどこ?


「聞いているのか!? アンジュ」

「え?」

「お前との婚約は破棄すると言っているのだ!」

「え?」


 アンジュってどなた? 私の名前は田植美咲。

 でも、この目の前に立つ人、アンジュって名前、婚約破棄覚えがあるわ!

 だって、私のいまやってるゲームだもの。

 あー、わかった。これは夢だ。夢かぁ。なら、ヒロインが良かったなぁ。私の操作してるはずのヒロインが目の前の男の後ろに隠れていた。

 わかった、これはあれよ。いまから断罪タイムなのね。

 とりあえず、夢だしさっさと目覚めなきゃ。

 えーっと、進めればいいのかしら?


「はい、わかりました。では、書類は明日までに用意し提出します。では、急ぎ用意してまいります」


「え、あ、おい!?」


 ねちねちと何か言い続けられたくないのでさっさと退場する。だって、彼は私が好きなキャラクターじゃないし。

 夢で実際のあの人に会えるなら、会いに行こう!!


 ゲームのラスボス。王国から追い出された双子の片割れ、王子ジャック様に!!


 ◇


「あの、何で僕を連れて逃げるんですか……」


 私は呪いをかけられこどものまま成長をとめられたジャックを見つけ救出。イベント前だから小さいわ!!

 血の契約を交わし呪いを解けばもとの年齢に戻ることも知っている。それをするのがこの体、アンジュなのだけれど。そして、世界を憎む彼は闇に囚われていた間に魅入られた魔王に憑依されすべてを焼き尽くすのだ。

 小さいままの彼でも可愛いけれど……。今のままじゃ、小さな男の子を誘拐する怪しい人になっちゃうぅぅぅ。

 でも、会いたいのは大人の彼。ど、どうしたら……。とりあえず、夢が覚めるまでこっちの彼を堪能しましょう。


 ◇


 おかしいわ。これでもう半年もたつ。一向に目覚める気配がない。


「おはよう。アンジュ」

「おはよう、ジャック!!」


 彼は今大人になっている。だけど魔王にはなっていない。

 寝る時にあまりに怖がるものだから、おやすみのチューをおでこにしてあげた。決して不純な気持ちなんてこれっぽっちもなかったよ?

 そうしたら、彼ってば朝大きくなってるのよ。体が!!

 純粋な気持ちのキスなら呪いがとけるだけだったのかもしれない。

 とりあえず、よくやったわ! 私ぃ!!

 子どもの姿は可愛いけど、色々危ないからね!

 はー、大人のジャックの姿。やっぱり格好いい。


 ラスボスをさらったせいかな。あちらのゲームはエンディングを迎えるような感じはなく、でも私達に追手はないみたいなので、二人で離れた土地に住みだした。ゲームシステムのレベルなんかはそのまま引き継げていたみたいで私ヒロインの覚える力が使えたの。だから、問題なく生活出来るんだ。

 あの毎日の仕事に比べれば楽すぎる仕事をして、お金だって手に入る。


「幸せー」


 ほんと、今とっても幸せ。大好きなジャックがいて、仕事に追われないゆっくりした生活。

 でも、いつか目が覚めちゃうのかな。


 とりあえず、目が覚めるまではこの生活を楽しもう。だって、告白もまだなんだもの!!




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