特殊ステ「獲得」とZランク

それから俺は一か月、「獲得」の特殊ステータスを上げることを中心にゲームを進めまくった。

 レベルもクラン加入の条件である15は既に超え、70まで上がった。

 まぁ今の俺には関係ないがな!むしろクランに入ったら報酬の数割がクランに引かれるため、入りたくないのが現状だ。


 この特殊ステータス、装備を整えたり専用のアイテムを使用することで伸びていくのだが、一か月の時点で俺のステータスはとんでもないことになっていた。


特殊ステータス


「獲得」 +250.6%

「会心」 +2.0%

「視覚補強」 +1.7%

「その他の特殊ステータス」 +0%


 そう、一つだけ明らかに数値がバグっている。

 その理由は極めて簡単。俺がクラン未所属の職なしニートマンだからだ。

 他の人がクラン活動に時間を割かなくてはいけない中、俺はすべての時間を自己中に使うことができるのだ。そりゃこうもなる。


 ちなみにこの数値がどれほどすごいのかというと、全ユーザーの中で「任意の特殊ステータスの数値の大きさ」が1位といえばわかるだろうか。

 ただしこのスキルにはとんでもない難点があったのだが。


「嘘だろ…?「獲得」のステータス…誰も使ってないんだけど」


 今日も今日とてダレンさんとギャンブルに身を投じる俺は、運営からの記事を見て絶句していた。

 特殊ステータスの数値ランキングで「獲得」だけ2位の時点で40.2%なのだ。他は閲覧可能な10位まで3桁を突破しているのに、これはあんまりじゃないか。


「そりゃあレイル、唯一対人で何も効果を発揮しないステータスだぜ?クランの上位を目指すプレイヤーはそんなステータスに特化する余裕なんてないのさ」


「でもダレンさんはつけるべきだろ、何回金が足りなくて身ぐるみ剥がされてると思ってんだ?」


「男ってのはな、いつだって最低限の手札で勝負するのさ」


「それらしいこというなよダメ人間…はぁ」


 自分の250%分のステータスが運営に役に立たないと太鼓判を押されたことにショックで立ち直れそうにない。

 カス人間の一番星、ダレンさんへの罵倒もいつもよりキレが出ない。


「あーあ、今頃掲示板とかで馬鹿にされまくってんだろうな」


「まぁ気にすんな。そのうちよかったって思える日は間違いなく来る」


「ダレンさん…たまにはいいこというな」


 俺はダレンさんの発言に驚く。黒服のあんちゃんに服を剥ぎとられている最中じゃなければ、見直していただろう。


「さて、これのお金も尽きたことだし…一度出るか」


 俺は哀れな姿になったダレンさんの耳を引っぱりながらカジノの外に出た。






 いつものように最安値のぼろ服を買って、鉄柵に身を乗り出して町を眺めながらダレンさんを待つ。

 俺たちがいるこの場所は、3方向が建物で囲まれていて、残りの1方向からは町の中央の広場を眺めることができる高台のようになっている。景色もいいし、誰もいないからダレンさんの醜態も隠せる。今では俺のお気に入りの場所だ。


「いやぁ、この服もなんだか着慣れてきたな」


「着慣れてほしくないけどな」


そうツッコんだ時、突然建物の向こう側からざわめき声が聞こえてきた。


「…!おい、見ろよレイル。Zランクのクランのプレイヤーだ」


建物の陰から様子を覗いたダレンさんが物珍しそうに言った。


「ほんとか?こんなところにいるなんて珍しいな。普段は首都にいるはずだけど」


 町は何もここだけではない。似たような町は他にもたくさんあるし、その中でひときわ大きいのが首都だ。

 首都はたくさんの豪華な施設があり、そこにクランの拠点を構えられるのはZランクとその下の30位以内のSランクのみだ。

 俺らの大好きなカジノだって、首都にいけばもっと大きいところがある。


 俺も一緒になって覗くと、そのプレイヤーを見て目を丸くした。


 Zランクの少女が着ている、光輝く白のベレー帽に、大学の卒業生が着ていそうな形をしている、同じく白に輝くマントは、トップクラスの魔法使いのみに許された超高性能装備だ。お金にすればどれくらいになるだろう…おっと。


 だが俺が驚いたのはそこじゃない。その頭上のプレイヤーネームだ。

 彼女のネームはシュシュ。俺の幼馴染の赤羽麗奈がゲームで使っていたことがあるネームだ。

 おまけに髪は真っ赤なミディアムヘアーで、麗奈の好きな色と一致している。


 彼女は俺たちの方を見ると、民衆を手で押しのけながらこっちに近づいてきた。

 レイルが俺だってバレるのは、まずあり得ないことだが…


「あれ、こっちに来るぞ?どういうことだろうダレンさん…え」


 俺がダレンさんの方を向いたとき、そこには柵の向こうへと飛び降りようとするぼろ服男の姿が。


「おいちょっと待てや」


 俺はすぐに走りだして、その肩をつかんだ。


「ちょ、ちょっと放してくれレイル!俺はそこのクランのやつと会うわけにはいかないんだ!」


「なんだって!?まさか借金してるわけじゃないだろうな、俺は巻き込まれるのはごめんだからな!」


「…あの、ちょっといいですか?」


 控えめに発された彼女の声に俺たちはもみくちゃになった体制のまま顔だけを彼女の方へと向ける。


「あ、はい、なんでしょう?これの借金の話ですか?ああ大丈夫ですよすぐに突き出し…」


「やっぱりダレンさん!今日は会議があるって言ったでしょう!逃げようとしたってことはサボるつもりだったんですね!」


 ただ、シュシュさんが次に放った言葉は俺の予想を大きく超えるものだった。

 俺は衝撃で言葉を失い、壊れたロボットみたいな首の振り方で当人を見る。


「…ダレンさん?どういうこと?」


「…説明する」


 ごまかすようにを目をそらしていた彼は、やがて諦めたように首をうなだれた。








「ええ!?ダレンさんってZランクのクランのメンバーだったの!?な、なんで話してくれなかったんだ?」


「いやー…まぁ聞かれなかったし、別にいいかなって」


「ボロ服大好きおじさんにそんなこと聞くわけないだろ…!」


 一か月を経て初めて知った特大スクープに目玉が飛び出そうになる。


「ていうか、Zランクってことは前々から首都に住んでいたってことだろ?なんでこんな辺境の町に…?」


 気になったのでそれを聞いてみると、大の男が急に照れたような顔になり頬を掻いた。


「それは…ほら、お前とギャンブルするのが楽しくてな」


「ダレンさん…そういう展開はちょっと、ごめんなさい」


「うっせー違うわ!俺だってごめんだよ!」


 そのとき話を割るように、ダレンさんの頬をシュシュさんが思いっきり横に引っ張った。


「それより?約束の時間を過ぎてますよね?増え続けるぼろ雑巾のストックにはもう言及しないので、早くワープ使いますよ!時間まであと5分しかない!」


「お、おっけー、わかった!じゃっレイル、また明日カジノで…いっててて!つねらないで、シュシュちゃん!」


 涙目で訴えるダレンさんを連れて、シュシュさんはいきなり出てきた青い光と共に姿を一瞬で消した。 

 事が終わっても、突然の事態を処理しきれたのはそこからしばらくした後だった。


「あっ…シュシュさんに名前のこと聞きそびれたな」


 …まぁ別にいいか。


☆—―――――――――――――――――――――☆


「ダレンさんの部屋はゴミ屋敷状態なんですよ」


「俺は物を大切にするタイプだからな」


「お金と服はあんなにもあっさり手放すのにな(笑)」


「ははは覚えてろよ」

☆—―――――――――――――――――――――☆


ここまで読んでくれて本当にありがとうございました。


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