『KAC20246』トリあえず、いらっしゃいませ。

シーラ

第1話

繁華街から一本入った裏路地を1人歩く。今日は新規の店を探しに冒険だ。

かなり入り組んだ細道を下った先。ポツンと一軒の居酒屋を見つけた。看板に癖のある文字で『トリあえず有り。どうぞ』とだけ書かれてある。


鳥の酢の物なのか、とりあえずお通しと酒が出てくるのか。謎すぎる看板。


興味本位で扉を開けて入店してみるとカウンター席のみで、可愛らしい女店主が1人。よし、ここにしようと思ったが、客にかなり強面のスキンヘッドの男が1人。

やめておこうとしたが、男客から寒いから早く入れと言われてしまい逃げられなかった。


「いらっしゃいませ。ここは日本酒がメインなんですが、よろしいでしょうか?」


「ええ。では、今日のお通しに合わせて軽いの下さい。」


「かしこまりました。お好きな席にお座り下さい。」


新規の店の場合、店主にお任せするのが良い。お任せで料理も注文した。


入り口に近い席に座ると壁に『♂+♀(→←)』という標記に「凹凸揚」「凸凹品」「〼鮨」の札が3つ。

これは、脳トレか?悩みつつ色々と出された料理を口にするが、気になり過ぎて味を楽しむ余裕がなかった。

聞きたいが、男客のこちらを睨んでくる視線が怖くて。もういい、早く立ち去ろう。女将が可愛いのに台無しだ。


「何かご不満がございましたか?」


「いえ、そういう訳では。…あの、会計お願いします。」


会計をしていると、男客が唐突に話しかけてきた。


「おう、ニイちゃん。ここ美味かっただろ?」


「あ、はい。」


「ここは真イカの刺身も『旨いか』らな。また来てくれよ。」


「…どうも。」


さっさと会計をして店を出る。トリあえず、有り。残念ながら自分には無しだった。


「ありがとうございました。またどうぞ。……あのお客様、もう来ないだろうな。何が悪かったのかしら。雰囲気?味?」


「俺のギャグも伝わらなかったな。やっぱりこの店、もっと大々的にお笑いを売らねぇと。」


「そうですね。もっと売って『イカ』ないと。」

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『KAC20246』トリあえず、いらっしゃいませ。 シーラ @theira

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