幼なじみと夏祭り ―下―

午後5時、公園に集合。との事だったので、俺は10分前に家を出た。公園に着くとちょうど5時のチャイムが鳴り始めた。


「美咲は……まだ来てないみたいだな。」


ったく、遅刻したら殺すと言ってた張本人が遅刻とはねぇ。来たら存分にからかってやるか。


5時のチャイムが鳴り終わり、微かに祭りの音が公園に聞こえてきたその時だった。


「だ〜れだ。拓ちゃん分かるかな?」


俺の目が手で覆われる。

なにやってんだ?こいつ。妙にテンション高いな。付き合いたてのカップルみたいな事して。


「んー、少し汗ばんでるから美咲かなー。」


「っ!?いつも汗ばん出るわけじゃないよ!急いできたからちょっと……。」


俺の目が手から解放され、視界が良好になる。

後ろを向くと、やはり美咲がいた……のだが……


「美咲……その格好……」


「えへへ、浴衣の着付けしてたら遅れちゃって……どうかな?」


そこには、花柄の紺色の浴衣を着て、髪飾りをした美咲がいた。


「…………。」


「……拓ちゃん?」


はっ!?何まじまじと美咲を見てるんだ。ちょっと雰囲気が変わっただけじゃないか。


「あっ、いや、別に。いいんじゃないか?なんというかその、シャープに見えるぞ。」


「普段はシャープじゃないみたいに聞こえるんだけど……まぁ、拓ちゃんなりに褒めてくれたならそれでいいけど。」


「もっと褒めて欲しいなら言うぞ。」


「もういいよ!そんなことより行こっ!夏祭り!」


俺と美咲は公園を後にし、夏祭りへ向かった。


―――――――――――――――――――――――――――


「わぁ!今年は一段と出店が多いね!ねぇねぇ何からする?射的?金魚すくい?」


何からする?と聞かれても、夏祭りにここ数年来てない俺からすると、どこから見て回ればいいかなんて分からんしな。


そもそも、美咲は俺と来て本当に良かったのか?


「なぁ、美咲。俺と来てよかったのか?友達とかに誘われたりしなかったの?」


「友達には誘われたけど……断った。私は、拓ちゃんと行きたいから……ってそんなこと気にしなくていいの!」


「はいはい、気にしませんよーっと。」


美咲がいいなら、俺はこれ以上言う必要は無いな。


「で、どうする?何からする?」


「そうだなー、とりあえず射的でもするか。」


「オッケー!やろうやろう!」


―――――――――――――――――――――――――――

「いらっしゃい。嬢ちゃんやってくかい?3発300円だよ。」


射的屋の店主が話しかけてきた。


「やります!景品は……あっ!見て見て拓ちゃん!1万円分の商品券があるよ!」



「ほんとだ。ただ、こういうのは難しいって相場がきまってるんじゃ……」


「おっ、察しがいいねぇ兄ちゃん。これはこの的の真ん中の100点と書かれているところに3回当てなきゃ貰えないよ。」


やはりか。そうやすやすと取られたくないもんな。


「私、やります!見てて、拓ちゃん。私の腕前を。」


期待しないでおこう。


「えい!……えい!……えい!……あれれ?」


「嬢ちゃん残念だったな。はい、参加賞のテッシュ。」


美咲の弾は全て的から外れた。


「美咲……真ん中じゃないならまだ分かるが、的にすら当たらないとは……目、見えてる?」


「……。あっ!拓ちゃん見て見て!1万円分の商品券があるよ!やってみてよ!」


こいつっ!なかったことにしやがった!


「おっ、兄ちゃんもやるかい?300円ね。」


俺は、店主に300円を払い銃を握った。


「言っとくけど、期待すんなよ。」


「分かってるよ。でも頑張って! ハズセ……ハズセ……。」


このままこの銃を美咲に撃とうかと一瞬思った。


1回目、真ん中に当たった。


「おっ、やるねぇ兄ちゃん。」


2回目、真ん中に当たった。


「……。まぁまぁ、奇跡は2回は起きねーぜ。兄ちゃん。」


3回目、真ん中に当たった。


「マ、マジかよ……まだ始まったばかりだってのにそりゃねーよ兄ちゃん。ほら、持ってけドロボー!」


俺は、1万円の商品券を手に入れた。


「凄いよ拓ちゃん!なんでなんで!なんでそんなに射的上手いの?」


「分からん。俺はただ、前にやってたやつが外しまくってるのを見て、こうはならないようにしようと思ってやってただけなんだけどな。」


「へー。いい反面教師になれたねー。私。」


やばい、これは怒ってる。


「美咲。これやるよ。俺、買い物とかしないから。」


俺は、手に持ってた1万円分の商品券を美咲に渡した。


「えっ、いいの?欲しいものとかないの?」


「特には。」


「そっか、じゃあ貰っとくね!」


機嫌も治ったとこで、俺と美咲は次の出店へと向かった。


―――――――――――――――――――――――――――


「そろそろ小腹が空いてきたかも。何か食べない?」


いくつか出店を回ったところで美咲が言う。

たしかに、俺も少々腹が減ってきたところだった。


「それじゃあ、りんご飴とか食うか?俺、奢るけど。」


「やった!それじゃあ、お言葉に甘えてりんご飴奢ってもらおう。」


少し歩いて、りんご飴の出店に着いた。

すると、店主と見受けられる女性が話しかけてきた。


「いらっしゃい。あまーい恋の味をしたりんご飴はいかが?1つで500円、2つで900円……あらら、お二人さんはカップルかしら。もしカップルなら、2つで800円でいいわよ。」


「えっ!?カップル!?俺らが!?」


何言ってんだこの店主。変な空気になるだろうが。


「い、いえ、俺らカップルじゃないので900……」


「私たち、かっ、カップルなので800円でお願いします。」


え、何言ってんのこの子は。どういうつもりなのこの子は。


「あらそう。じゃ、800円貰うわね。まいど~。お幸せにねー。」


俺と美咲はりんご飴の出店から離れる。


「おい、どういうつもりだ。美咲……さん」


動揺したのか、さんがついてしまった。


「えっ、なんと言うかそのー。ほら!安くしてもらえたし、一石二鳥!みたいな……。」


美咲の顔は赤面していた。


……こっちまで、恥ずかしくなる。


「一石二鳥……とは?」


「えぇ、安くなったのと……それと、それと……。」


美咲が口ごもったその時だった。


ドーン!……ドーン!……ドーン!


「あっ、花火。花火だよ!拓ちゃん!」


「お、おう。そうだな。」


「私さ、花火が綺麗に見える場所分かるから着いてきて。」


「ああ。着いてくよ。」


俺は、美咲に言われるがままに着いて行った。


―――――――――――――――――――――――――――


「おお!たしかに綺麗だな!」


そこは、俺らが集合した公園だった。


「でしょ!みんな夏祭り会場に行ってるから誰もいないし、落ち着いて花火が見れるんだよねー。」


続けて美咲が言う。


「拓ちゃん。私の家ではね、花火は見るのもいいんだけど、ドーン!ていう音を楽しみたいからあえて目を閉じて花火を感じてるんだ。」


「そうなんだ。変わってるな。」


「でしょ。でも、案外いい感じなんだよ。ね、私達もやってみない?目を閉じて花火を感じるの。」


そういって、美咲は目を閉じる。


「分かった。」


俺も目を閉じる。


ドーン……ドーン……ドーン


花火の音が聞こえ、その後に体に伝わる衝撃波。


「たしかに、いいかもな…………って、え!?」


花火の音と衝撃波を感じると共に、頬に温かく柔らかい感触を感じた。


俺はすぐ目を開け、美咲の方を見る。


「み、美咲。今、なんかした?」


美咲は目を開けて、俺を見ている。


「なんで目、開けてんだよ。目を閉じて楽しむんじゃ……」



「すき……私は!ずっと前から拓ちゃんのことが!好きでした!!」


花火の音に負けないくらい大きな声で美咲は言った。


「幼なじみだし、嫌かもだけど、付き合ってください!」


「…………。」



「美咲、目を閉じて、花火の音……聞いて。」


「え……。」


「そしたら分かる。」


美咲は目を閉じる。


花火が上がる。


ドーン……


花火の光で、公園の地面に映った影は、キスをする2人を形どっていた。





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ありふれたしがない話 波場ネロ @habanerored

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