幼なじみと夏祭り ―上―

「拓ちゃん!起きて!8時!朝だよ!」


「……………んぁ?誰?」


誰だ?世間ではまだ夏休みだぞ?朝8時に起こす不届き者がいるとは。


「誰って……美咲みさきだよ!何寝ぼけてんの?」


美咲?……美咲と言えば俺ん家の近所に住んでいる、保育園からの幼なじみだが……


「なんで美咲が俺の部屋にいるんだよ。」


「おばさんに任されたの。夏休みでだらけてるから見張っといてくれって。聞いてないの?」


母さんが?……あぁ、そうだった。父さんと母さんは懸賞で当たった沖縄旅行で5日間いないんだっけ。でも、美咲が来るなんて聞いてないぞ。


「聞いてないよ。まぁ、起こしてくれてありがとな。そんじゃおやすみ。」


「おやすみー……じゃないよ!はいっ、起きる!」


そう言って美咲は強引に俺から布団を奪い、カーテンを開けた。


「ぐわぁぁぁ!目がぁぁぁ!」


太陽の光で俺の視界は真っ白になった。


「早く起きない拓ちゃんが悪いんだよ。」


夏休み中の高校生になんてことを……よし、ようやく目が慣れてきたぞ。

視界が良好になり、声の聞こえる方に目をむけた。そこには、白いワンピースを着た美咲が立っていた。


「……お前、白ワンピ似合うのな。」


「えっ、そうかな……ありがと。って、そんなこと言ったって布団返さないからね!」


くっ、そんな甘くはないか。


「そんなことより、朝ごはん冷めちゃうから早く食べよ。」


朝ごはん?作った覚えは無いが……もしかして、


「美咲が作ったの?朝ごはん。」


「うん。拓ちゃん、犬のエサみたいな料理しか作れないだろうから。」


否定はしないが、そこまで言うか……少し傷つくな。


「分かった。食べようか。ちなみに毒とかは?」


「入ってるわけないでしょ!拓ちゃんのじゃあるまいし!」


そうして俺と美咲は食卓へ向かった。


―――――――――――――――――――――――――――


「んー、80点かな。」


朝ごはんに点数をつけてみた。美咲の作った料理は意外と美味かった。


「そこはお世辞でも100点と言うところなんですけど……まぁ、伸びしろがあるということにしといてあげる。」


そうだな。次に期待だ。

じゃない。なんで俺は美咲の料理に期待なんかしているんだ。そもそも美咲に見張られるということは、俺の自由時間は一体……。

よし、帰ってもらおう。任された美咲には悪いが、俺はそれを望んではいない。グッバイ、美咲。


「食器は洗っておくから、帰っていいぞ。美咲の時間が優先だ。明日から来なくていいからな。」


「その心配はいらないよ。任されたとはいえ好きでやってるから。それに暇だし。あっ、食器は拓ちゃんが洗ってね。」


なんだと、これじゃあ俺の5日間は規則正しくなってしまうではないか。まずい、ここは粘るぞ。


「いやー、俺はやれば出来るから心配すんなって。大船に乗った気持ちで帰ってもらって……」


「拓ちゃんは泥舟でしょ?帰らないよ。」


「いやー、そこをなんとか。」


「帰らない!」


くっ、ダメだ。もう諦めるしかないか……


「…………。」


「…………。わかったよ。なら賭けしない?」


賭け?なんだ?とりあえず話を聞こう。


「今からジャンケンをします。拓ちゃんが勝ったら私は帰るし明日から来ない。」


おお!これはまたとないチャンス。やる以外の選択肢は無い!


「私が勝ったら、私の言うことを一つだけ聞いてもらう。」


なるほど、そうじゃなきゃ賭けではないからな。


「いいよ。その賭け、乗った。」


「オーケー。それじゃあ準備はいい?」


大丈夫。根拠はないが今日の俺は勝てる気がする。勝利のピースサインをイメージしてチョキと行こうか。


「ジャン!ケン!……グー!…やったー!」


俺がチョキを出したのに対し、美咲はグーを出した。


「なぜ、チョキを出すとわかった……」


「拓ちゃんのことだから、勝利のピースサインとか考えてるんじゃないかなぁーと思って。」


お見通しかっ!……長い付き合いとは言え、ここまで俺はわかりやすい男だったのか。


「私が勝ったから、一つだけ言うこと聞いてくれるよね?」


「あ、はい。お金だけは取らないでください。」


「私はそんな卑しい人じゃないよ!」


美咲は少し考えて、それを口に出した。


「夏祭りいきたい………2人で……ダメかな?」


少し赤面したように見える美咲の顔が目に映る。

こんな顔をしたこと今までにあったか?

……なんだか、調子が狂うな。


「ダメかな?って一つだけ言うこと聞く約束だろ。いいよ。行けばいいんだろ。夏祭り。」


「ホントに!じゃあ付き合ってもらうよ。しっかり支度しといてね。」


「はいはいしっかり支度しますよー……ちなみに夏祭りっていつだっけ?」


「いつ?って今日だよ。拓ちゃん、地元のお祭りの日くらい覚えとかないと、いざって時にどうするのさ。」


いざもなにも、夏祭りに誘ってくれる彼女も友達もいないからな。それにしても、今日が夏祭りだったとは……


「惰眠を謳歌する一日が丸つぶれだな……」


ボソッと俺が小言を言う。


「なんか言った?そうと決まれば私、色々と準備しなくちゃいけないから家に帰るよ。午後5時、公園集合ね!」


「俺ん家じゃだめなの?」


「女の子には、女の子なりの事情があるの!」


なんだそれ。聞いてみたいが聞くと怒られそうだからやめておこう。


「分かったよ。午後5時、公園に行けばいいんだな。」


「うん!遅刻したら射的に実弾いれて打っちゃうからね。」


笑えないな。仕方ない、遅れないようにしないとな。殺されたくないし。


「それじゃまた。あ、お昼ご飯も作っておいたから食べてね。」


そう言い残して、美咲は家に帰った。

昼ご飯まで作ってるとは……なんだか借りを作っている気がして落ち着かないな。


「まぁ、今日ぐらいは何か奢ってやるか。」


そして俺は支度しながら、午後5時になるのを待った。





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