エリート男と麺食い彼女

俺は日本のトップの大学を出て大企業に就職した。世間で言うところのエリートと言うものになったらしい。給料も多く順風満帆な日々を送っていると思われがちだが、俺にはあるものが欠けていた。

そう、彼女だ。

出会いがなかった訳では無い。社内の合コンに呼ばれた事がある。結果はもちろん……全部断らせてもらった。


「かっこいぃしぃー、仕事もできるしぃー、求めてるものが全部揃っていてぇ……」


と、こんな感じで距離を詰めてきて、


「私と付き合ってみない?」

「断る。」


これの繰り返しだ。別に女性が嫌いな訳では無い。誰しも好みがある様に、俺にも好みという物がある。それは、意外性だ。俗に言うギャップ萌えというやつ。テンプレしか話せない女性など全くもって興味がない。しかし、世の中はテンプレまみれ。意外性を持った人などわずかにしか居ない。それを見つけて彼女にするなど、もってのほかだ。

だが、だがしかし。俺は、自分が望むものは実力で手に入れる男。考えろ。意外性を持った女性がいる所。考えろ。


「ラーメン……。」


ふと頭に浮かんだ。ラーメン屋に1人で大盛りのラーメンを食べている細身の女性の姿が。

気づくと俺はラーメン屋の前にいた。


「なにをしているんだ……俺は。」


自分の妄想上の女性を求めてここまで来たというのか。恋は盲目とはこのことなのか!?

はぁ、とりあえず入ろう。


「そんな都合よくいる訳……って。」


居た。ラーメン屋に居た。正確には1番奥のカウンター席にちょこんと座った、細身で明るい茶髪の女性が座っていた。


ここで少し深呼吸。すーっ、はぁ。とりあえず、女性が見える席に座ろう。

よし。まずは及第点。ラーメン屋に細身の女性は居た。だが、まだ意外性は薄い。大盛りのラーメンがまだだ。


「はい、醤油ラーメン」


そう言って、いたって普通の醤油ラーメンが女性の元に運ばれる。


「はぁ、さすがに奇跡は2度続かないか……」


「はい森ちゃん、ギガギガ豚骨チョモランマ盛り」


そう言って、チョモランマ盛りが女性の元に運ばれる。


「きたぁぁぁぁぁぁぁ!」


「……。」


女性と目が合う。

しまった、俺としたことがつい叫んでしまった。なるほど、森さんというのか……(常連か?)。とりあえず目を逸らそう。


「……あっさり……。」


ん?あっさり?ていうかなんでずっとこっちを見ているんだ?猛烈に視線を感じる……まずい、なんか恥ずかしくなってきた。これは一時退却だ。

俺はチャーハンを頼んで、飲むように喉に流し込み店を出た。

翌日

俺は気づくとラーメン屋の前にいた。なぜなら俺はラーメンが好きだからだ。 嘘である。昨日居た女性が今日もいるのではないか、と思うといてもたってもいられなかったからだ。


「恋は盲目、か……。」


店に入ると、昨日と全く同じ場所に森さんは座っていた。ギガギガ醤油チョモランマ盛りと一緒に。

大丈夫。昨日のような失態はしない。俺は森さんが座っているカウンター席から3つ離れた席に座った。

どうすれば森さんの注意を引くことが出来るか?考えてみた結果、チョモランマ盛りを頼めば嫌でも注意を引くことができるという結論に至った。

ふっ、我ながら名案だな。これで悪目立ちせずに興味をもって貰えるだろう。


「すみません。ギガギガ豚骨チョ…………ん?」


なんか横からすごい視線を感じるのだが……。

ふと横を見ると、森さんが俺を見ていた。

なぜだ!?俺はまだチョモランマ盛りを頼んでいないぞ!?

そんなことを考えている間もずっと俺の事を見ている。


「チョ…チャ……チャーハンお願いします……。」


またしても俺はチャーハンを飲み干し店を出た。

あの目は卑怯だ。なんだかこう……なんだ?

翌日

気づくと俺はラーメン屋にいた。俺は昨日と同じ席に座っていた。


「恋は盲も……このくだりはもうやめよう。」


とりあえず、森さんのいつも座っている席を見てみた。


「ん!?」


微かに声が出てしまった。なぜなら、森さんはいつも座っている奥の席ではなく、ひとつ隣りの席に座っていた。つまり、俺が座っている席に近づいているのだ。その差1席分。

どういう風の吹き回しだ?いや待て。自意識過剰か俺は。たかがいつもと違う席に座って、たまたま俺との距離が近づいただけじゃないか。あぶないあぶない。

すーっ、はぁ。オーケー。俺は至って冷静だぞ。さぁ、今日こそチョモランマ盛りを頼み意識させてやろう。俺の計算じゃ距離が近くなったことでその効果も数倍に上がっているはずだ。


「すみません。ギガギガ豚骨チョ………?!」

「じーーーーーーーーー。」


なんだこの凄まじい程の視線は!?上か!?下か?!前か?!後ろか!?違う……横だ!

横を見ると、森さんが身を乗り出して俺を見つめている。


「えーっと、チャーハン食べます?」

「食べます!」


なぜか俺は森さんにチャーハンを勧めていた。またしてもこの瞳に惑わされたのか。克服しなければ。

あっという間にチャーハンが2皿運ばれてきた。それと同時に森さんが質問してきた。


「好きなんですか?」


「え!?」


「チャーハン。」


「あぁ、そうですね。嫌いではありませんね。」


「なるほど……。」


「………。」


やっべぇー。かえりてぇー。空気がぁ。ある?ここ、酸素……


とりあえずいつも通りチャーハンを飲み干して会計に向かう。


「あ、すみません。チャーハン2皿分の会計でお願いします。」


森さんにチャーハンを勧めたのは俺だし、ここは黙って払っておこう。

2皿分の代金を払って俺は店を出た。心做しか森さんが俺を見ているような気がした。

翌日

俺はラーメン屋にいた。無意識にでは無い。今日はしっかりと自分の意思に従っていつもの席に座っている。

森さんは……って何!?

席が移動していた。昨日の席よりひとつ隣りの席。つまり、俺の横。その差0席分。

気づかなかった。いつもの席に座ったつもりが森さんの隣の席に座っていたとは。


「あ!昨日はありがとうございました!」


森さんが急に感謝をしてきた。何かあったか?


「チャーハン代!」


「あぁ、いえいえ、私が勧めたんですから。」


「申し訳ないです。でも、ありがとうございました!」


「今日はお礼を言いたくて待ってたんですよ。あなたの事。」


「なるほど……ていうことはこれからラーメンを食べるんですか?」


「いえ、私はもう帰ります。それと、遠分このお店にも来ないと思います……。」


「えっ……どうしてですか?」


「私、お店のメニューを全部制覇したら次のお店、という感じで食べ歩きをしているんですよ。」


「はあ。」


「昨日あなたから奢ってもらったチャーハンが最後のメニューだったんです。」


「なるほど。」


つまりこれは、あれだな。もう明日から来ないから、告るチャンスは今日しかないということだ。あれ、まずくないか?


「とりあえず今日あなたが来てくれてよかったです……」


ん?何か言いたげな表情をしているが何だ?いや、そんな事を考えている暇は無い。どうしようか?ここからのムーブを考えなければ。


「あのっ、えっと……。そ、それじゃあ、さようなら……」


そう言って森さんは煮え切らない様子で出ていった……じゃない!なんで俺は見ているだけなんだ!

これを逃したらもうあの人には二度と会えないだろう。

俺は望むものは実力で手に入れる男……こういう時は頭で考えるんじゃない。行動で示せだな!

俺は一目散に店を出て、彼女を追った。


「ちょっと待ってもらっていいですかぁ!」


息を切らしながら俺は言う。


「ど、どうしたんですか!?」


「あなたには意外性があり、その、わ、私にとって一目見たときからあなたしかいないと思いました!どっ、どうか私と提携関係に……じゃなくて、お付き合いしていただけないでしょうか!」


しまった。勢いで言ったせいでビジネス的な言い回しになってしまった。


「…………はい!こちらこそよろしくお願いします!」


「えっ。本当ですか!いいんですか。」


「はい!……実は……私も今日、言おうか迷っていたんです。でも……数日しか顔を合わせてない人から、それも大食らいな女から告白されても困らせるだけだなと思って。」


「いえいえ、そんなことないですよ!恋愛は時間じゃないともいいますしね。」


奇跡。俺は森さんと付き合うことが出来た。なんというか、勢い任せで事を進めるのは性にあわないが、上手くいったからよしとしよう。

それにしても、

「ひとつ聞いてもいいですか?」


「はい!なんでしょう?」


「告った後に言うのもなんですけど、なぜ私に告白しようと思ったんですか?」


ここだ。俺は森さんに好意があって告白したが、森さんはなぜ俺に告白しようと思ったんだ?好意を持たれるような事はしてないはずだが。


「それはですね……いわゆる、一目惚れってやつですね。私、あなたの顔を見た瞬間に、この人好きだ、ってなったんですよね。私はラーメンみたいな濃い食べ物が好きですけど、顔はあっさりとした、でもどことなくキリッとしている人が好きなんですよねー。ラーメンだけに面食い!みたいな。」


なるほど、顔が好み…か。いわゆるテンプレと言うやつだな。しかし、意外性のある人がテンプレを言うことは、それもまた意外性があるということか。奥が深いな。恋愛は。


「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私は、森 早苗さなえと言います。あなたは?」


面食いな彼女の問いかけに、俺はすぐに答えた。


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