【短編】 怪異とは現実と幻想に在るもので
俺、岡町灯夜はパラパラと雑誌を捲っていた。
【偽りの信仰が成り代わるまで】
【空飛ぶ魔女の撮影に成功!】
【廃病院に蠢く呪い】
【異世界人は地球を覗いている】
雑誌の見出しはざっとこんなところ。
見ての通り、この雑誌こそ“月刊オカルトサーチ”だ。
少し引っかかる見出しがあるものの無視をして。真っ先に読む記事は――
「この廃病院……満月の夜に出掛けたところか」
「お出かけってか調査な。ったく夜になるとイキイキすんだからこの夜型め」
「種族柄しかたなかろう」
そうだった。見た目は普通に人間だけど、テールは一応異種族だった。
正確には夜型種族と人間と、他色々な血が混ざってるらしいけど。
そもそも異世界人なんだから遺伝子的に考えると地球の誰とも合致しないだろうし、考えるだけ野暮だ。
と、テールの事情はどうでもいい。
この雑誌は先月、干上さんからの依頼で取材協力という名の
その献本が届いたのが今日だった。
「廃病院……病院と呼べるのか。あのような僻地、どう考えても隔離施設のようであったがな」
「歴史のある病院みたいだし、元々は隔離施設だったんだろ」
調査の先は梅見ヶ丘市の隣。山奥でほぼ隣県のような場所にある廃病院だった。
そんな場所に何故行くことになったのか?
実はその廃病院を調査することになった経緯は干上さんに頼まれたのが先じゃなかった。
マスターからの怪異討伐依頼だ。
なんでも、廃病院へ肝試しに行った者たちがバタバタと倒れていったらしい。
顔をパンパンに腫れたり、ある者は皮膚が崩れたり。
写真を見せてもらったけど悲鳴を上げそうになるぐらい悲惨なものだった。
ただでさえ病院とは怪異が集まりやすい場所で、関係のない怪異もそれなりにいる。
テールは廃病院ごと焼却処分しようとしていたけど、無関係なものは基本的に放置だ。
怪異を消したら別の怪異が現れた、なんて事態になりかねない。
魔術由来の怪異なのか、それとも人々の想いから生まれた怪異なのか。
俺たちの
根本的な解決をしようとすると、呪いなら尚更に力業で怪異を消すわけにもいかなかったのだ。
だから前置きが長くなったが、怪異が
向かう前に怪異の核になった現象、その特定作業は干上さんの知識を貸してもらって。
その際に廃病院へ行くとぽろっとこぼしてしまったのだ。
『まぁ……君達なら大丈夫でしょう。どうせ行くのならレポート、よろしくお願いしますね』
などと言われてしまった。しかも大丈夫なんて謎の信頼もされていた。
さすがに今回は怪異とかボカすのが大変で面倒だし断ったんだ。
でも、いざバイト代が提示されると――惹かれて受けてしまった。
「ふむ。見事に怪異が
「干上さんってもともとそういう作風? みたいな記事書く人だったみたいだしな」
俺たちのマンションを記事にしたように、元々怪異を否定するような記事を書く人だったみたいだ。
テールが雑誌に目を通し口を開いた。
「あの怪異の名は確か
「言うな!」
怪異の
「すまぬ」
「いや、この記事に書かれてる以上はもう大丈夫だと思うんだけど一応な」
危なかった。
あの怪異は迷信と人々の恐怖が結び付いたもので、それが名を持つようになっていた。人間の想いがある限り力業で消してもまた復活するタイプだったのだ。
一応根本的な解決はできたはずだから大丈夫だと思うんだけど、力のあるテールが口に出してしまうと復活しかねない。
「“肝試しに行った若者が呪われるという廃病院。呪いの正体はアレルギーだった!”か。
トウヤが言っていたものとは少し違うがよい落としどころであろうな」
「そりゃあんな埃っぽいところ、アレルギーの温床だろ。しかも周りは多種多様な花粉が飛ぶ草木お生い茂る山だぞ」
呪いの正体はアレルギーだった。怪異を抜きに考えたら一番丸く収まる。
アレルギーなら顔も腫れるし酷けりゃ肌も荒れるしな。
廃病院の怪異は理解のできない恐怖が核となって生まれていた。
干上さんの記事を読んだ人が、
それだけで怪異は死ぬ。
テールが魔法で焼き払わずとも怪異は殺せるのだ。
「トウヤがマスターに話したものはオタフク風邪であったな」
依頼人にはマスターによって怪異が原因の呪いじゃなかったと説明がされている。
『怪異は居なかったし、キミ達はおたふく風邪をうつし合っただけだね』と。
呪われた本人の感じ方でも症状は変わるものなのだ。
怪異を相手するのに必要なものは必ずしも事実ばかりじゃない。
「偶然肝試しに行った奴らのひとりがちょっと前にかかってたみたいだし、顔が腫れたんならそれがうつったって考えた方が自然だろ。
風邪で皮膚が荒れることだってあるし」
「オレの世界にも似たような病はあったな。身体的な傷は回復魔法や
「怖」
異世界事情、やっぱり地球とはいろいろズレてるんだよな。
そういや俺っておたふく風邪のワクチン打ってたかな。コロナにインフルに打てるものは打っとこう。
ただでさえテールは回復魔法を他人にかけられないんだから、俺が病気になったり負傷したらどうにもならない。
予防できるものはしておきたい。
「だが、今回の遠出は楽しかったぞ。近場の怪異討伐は面白くない」
「遠足気分か! でも、次に遠出する依頼があったらもう箒は嫌だからな」
今回の遠出はいつもと違う移動手段を使っていた。
普段なら電車やバスを使うところなんだけど、なんと箒に乗ったのだ。
魔女が箒に乗るアニメを見て影響されたテールが何処からか藁帚を買ってきた。
他人に浮遊魔法をかけるのは苦手でも、箒越しなら出来るんじゃないかと。
目論見は大成功。俺たちふたりを乗せて箒はベランダから飛び立ったのだ。
怖かったけどそれ以上に楽しかった。子どもの夢みたいな状況にワクワクしない筈が無かったのだ。
が……楽しんでいられたのも最初だけで。
似たような景色を見てると飽きてくるし、股は無事だったんだけど同じ姿勢で腰に負担がかかって最悪だった。
「オレも箒は二度と乗らぬ。という訳で次は絨毯だ」
絨毯か……それならまぁ。
雑誌を置いて、俺は絨毯の通販サイトを開くことにした。
異世界魔法使いと現代日本で怪異殺し~モブの俺、漫画の闇堕ち悪役王子を拾ってしまった~ シナジー180s @180sburst
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