僕は福子さんに告白したい〜特別なプレゼントを探していたけど幸せはすぐ側にありました〜

三屋城衣智子

僕は福子さんに告白したい〜特別なプレゼントを探していたけど幸せはすぐ側にありました〜

 僕は今、恋をしている。

 相手は福子さん。

 目鼻立ちがクッキリした、美人さんだ。

 勿論モテモテ。

 ひっきりなしに声をかけられているし、プレゼントだって、よく贈られているのを目にする。

 いつも、断ってるみたいだけど。


 僕も告白したい。

 けど、当たり前の物は、福子さんにはふさわしくない気がして。


 だから、旅に出ることにした。


 最初に手にしたのは、宝石だった。

 ピカピカ光る、銀色の輪っかのついた、宝石。

 けれど三日も過ぎれば当たり前の輝きに思えてしまった。


 カラスに取られてしまったから、これ幸いと次を探しに出た。


 次に手にしたのは、花だった。

 真っ赤で、風に揺れてヒラヒラ揺れる、可憐な花。

 けれど三日も過ぎれば萎れてしまった。


 うっかり水路に落としてしまったから、これ幸いと次を探しに出た。


 その次に手にしたのは、食べ物だった。

 手作りの、不揃いだけれど形にこだわってる、星や木やお月様のクッキー。

 けれど三日も過ぎれば味見も飽きてしまった。


 うっかりネズミに食い尽くされてしまったから、いよいよ困って立ち止まる。




 福子さん。

 君は何が好きかな。




 思えば探し回っていたものだから、彼女を視界に入れることを、もう随分としていない。

 出会ってから、ずっと見つめてきたのに。


 そう、あれは僕がうっかり怪我をした時だった。

 傷ついた僕に、声をかけてくれたのが始まりで。

 彼女は気さくに話してくれたのに、もう、目も合わせられなくて。

 ただただ頷きながら、手当てをしてもらっていた。


 臆病な僕にも、刺々しい瞳を向けることなく、いたわりの目で見つめてくれる。

 そんな彼女が眩しかった。


 その眩しさにふさわしい宝石も。

 その気高さに釣り合う花も。

 その優しさに似合う食べ物も。


 何も何も見つけられなくて。

 僕はしょんぼりしながら家へと戻った。




 するとどうだろう。

 驚いたことに、家の前に福子さんが立っていた。


「どうしたの、福子さん」

「どうしたの、じゃないわ。何日も何日も家を空けているものだから、心配していたの」

「えっ」

「優しいあなたのことだから、また誰かを助けて自分が傷ついてるんじゃないかって」


 福子さんは、本当に心配そうに僕を見た。

 僕はそんなに優しくも格好よくもない。


「僕は優しくなんて」

「優しくない人は、他者を庇って自分が怪我をしたりなんてしないわ」

「でも、格好良くなんてなかったし」

「私には、とっても格好良く見えたけれど」


 驚いた。

 僕が格好良いだって?

 この僕が?


 よほどびっくりした顔をしていたのだろう、福子さんが笑い出す。


「あなたって、本当に自分のこととなると見えていないのね。ねぇ、一体この数日何をしていたの?」


 とても柔らかな瞳で見られたものだから、僕はついうっかり口を滑らせた。


「福子さんに、特別な贈り物がしたくて、探してたんだ……」

「特別な、贈り物?」

「好きなものは、とても尋ねることができなかったから。せめて、ふさわしいものを、贈りたくて」

「……そう、だったの。ねぇ、ならあなたのその羽根の一つを贈ってもらえないかしら」


 僕はもうびっくりなんてものじゃなかった。

 文字通り腰を抜かして座り込んだ。

 自分の翼を見る。

 大きくも、立派でもない、普通の、時折ボサボサの、それ。


「太郎さん?!」


 福子さんが慌ててそばへとやってくる。


「ねぇ、その意味わかってる?」

「太郎さんこそ、この意味本当にわかってて?」

「本当の本当に?」

「……その翼を広げて、私を守ってくれた、その羽根よ? 本当以外なんの意味でもないわ」


 ここで引くのは男がすたる。

 僕はそのキラキラした瞳を見ながら羽根を抜いた。

 それでも僕は腰抜けだから。

 恐る恐ると彼女の眼前へとそれを出したのが、精一杯だった。

 それでも。

 そっと両の翼で受け取って。

 月夜の光に当てて繁々と眺める彼女の横顔がとても、とても綺麗だってことは、一生涯忘れまいと心に誓った。

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僕は福子さんに告白したい〜特別なプレゼントを探していたけど幸せはすぐ側にありました〜 三屋城衣智子 @katsuji-ichiko

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