第33話・バトンタッチ
第二分隊の管轄区域内にある森の奥で、僕は二人の男と対峙していた。一人は第二分隊の古参隊員で裏切り者のドレイク。もう一人はゼノンの昔馴染みでロトム王国に加担しているヴァーロ。ドレイクは身動きを封じられた状態の僕を見てニヤニヤと笑っている。
「だ、誰ですか、あなたは」
「なんだ、そのフニャフニャした話しかたは。ゼノンはそんな情けねえ顔しねえよ」
僕が問うと、ヴァーロは苛立ちを隠さず舌打ちした。
「俺らをハメるためにひと芝居打ってんじゃねえかと思ったが、こりゃ違うな。コイツはガチで記憶がねえんだ。まったくの別人だな」
「んじゃ始末しちまっていいか?」
「ああ。構わねえ」
二人は淡々とした会話で僕の行く末を決めていく。やはり彼らは裏で手を組んでいたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なんだよ」
僕の言葉にまた舌打ちするヴァーロ。記憶がないと分かった瞬間から笑顔は消えている。
「あのっ、僕、ぜんぜん動けないんですけど、コレどうなっているんですか」
死の間際に混乱していると思われたのだろう。二対一、しかも僕は病み上がりで丸腰の状態だ。ヴァーロもドレイクも完全に警戒を解いている。
「仕方ねえな。どうせ殺すし教えてやるよ」
ヴァーロは眼帯を指で軽く押し上げた。覆い隠されていたほうの目があらわになる。左右で虹彩の色が異なるオッドアイ。片目は綺麗な淡い金。ヴァーロは魔素適合者だ。ここまではゼノンの記憶で見たから知っている。
「俺はほんの少し魔素に適合したハンパ者。魔術の類は一切使えねえが、ちょっとの間だけ指定したモノの動きを止められるんだよ」
田舎では魔素適合者は忌み嫌われる。まして、ヴァーロは魔術が使えない。世渡りのため、敢えて金の瞳を隠していたのだ。任意の対象の動きを封じる能力は魔術ほどではないが役に立つ。あの日、飛んできたゼノンの大剣が宙で止まった原因もヴァーロの能力。彼が狩りに特化していたのも能力で獲物の動きを封じられるからだろう。戦時下で彼が生き抜いてこられた理由が分かった。
ヴァーロの能力さえ判明すれば、もう僕に出来ることはない。
「──サイオス!」
僕は腹の底から声を出し、銀髪の魔術師の名を呼んだ。突然大きな声で叫んだ僕に驚き、次に周辺を警戒するヴァーロとドレイク。彼らは森の中の気配を探っているようだが、サイオスは地表にはいない。熟練の隊員であるドレイクや能力が未知数だったヴァーロを警戒し、絶対に見つからない位置からずっと見張ってもらっていたのだから。
はるか上空、魔術の力で体を浮かせたサイオスが手にした杖を下に向けた。杖の先端は真っ直ぐ対象を指している。ようやくヴァーロたちがサイオスの居場所に気付いた時、僕は不敵に笑ってこう言った。
「すぐにゼノンに会わせてあげるよ、ヴァーロ」
「なに?」
片目だけの金の瞳が僕の姿を写し、揺らぐ。ヴァーロの動揺が伝わり、心の奥底にあるゼノンの意識を刺激した。郷愁、憧れ、友情、信頼、それらの感情をひっくり返すほどの強い使命感が体を支配していく。
「サイチ。後は『私たち』に任せて」
「うん、お願い」
サイオスの精神魔術が発動した瞬間、僕の意識はふつりと途切れた。
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