第31話・赤髪の青年と闇で語る
真っ暗な闇の中、僕はただ足を動かして前へと進む。最初は怖く感じた暗闇も今ではもう慣れたもので、どうにかなるだろうと僕は楽観していた。
「あ、いたいた。ゼノン!」
──サイチ
ほんのり明るい場所で、ゼノンが地面にあぐらをかいて座っていた。笑顔で駆け寄り、彼のそばに腰を下ろす。今日の彼は泣いてはいない。どこか吹っ切れたような顔をしていた。
──オマエの体、なんとかなりそうだ
「えっ、そうなの? まだ生きてる?」
──寝台から降りられる状態じゃないけどな。よく分からんものを体のあちこちに付けられてて身動きが取れん
恐らく僕の体には点滴やバイタルチェックの器具が取り付けられているのだろう。
「ごめん、痛いよね」
──まあ我慢できないほどじゃねえよ
ハハ、と笑いながらゼノンは今の状態を教えてくれた。元の世界にある僕の体はいま病院で治療を受けていて、知り合いらしき人物が毎日のように様子を見に来ているという。とは言っても意識はゼノンだ。頭を打った後遺症で記憶が混乱していると周りは受け取ってくれているらしい。夢の中で僕と話をしてからは記憶喪失のふりをしてやり過ごしていると聞いて、僕と同じだね、と笑った。
「あのね、ゼノン。僕、君の記憶を見たんだ。君とヴァーロっていう人の関係や、ウィリアム隊長のところで働くようになった経緯とか」
──俺もオマエの記憶を見たよ
「そうなんだ? なんだか恥ずかしいね」
サイオスの精神魔術の影響は異なる世界にも及んでいたようだ。意識下で繋がっているのだから、距離や次元の違いなんかは関係ないのかもしれない。
「それでね、今度第二分隊のドレイクって人に会いに行くつもりなんだ」
──は? なに考えてんだ、危ねえぞ!
慌てて僕を止めようとするゼノン。記憶を見たからこそ分かる。顔は怖いけど、彼は困っている人を見捨てられない優しい人なのだ。
「大丈夫。第一分隊のみんなに協力してもらえることになったから」
──……みんな、知ってんのか
「ごめん。なにがあったか話しちゃった」
──いや、いい。でも……
ここはゼノンと僕の精神世界。彼の迷いや悩みが直に伝わってくる。同時に、僕の気持ちも伝わっているはずだ。ゼノンの記憶を明かした時にみんながどんな反応をしたか、全て。
「みんなゼノンを信じてるよ」
──……うん。分かってる
ぽたりと滴が地面に落ちた。初めてこの場所で会った時のような悲しい涙ではない。喜びの涙だ。地面に染み込んだ涙を中心に少しずつ明るくなっていく。ゼノンの心の中にあった後悔と罪悪感がわずかに軽くなったからだ。それでもまだ精神世界の全てを照らすほど明るくはない。
──ヴァーロだけは、俺が決着をつけたい
「そうだね、そのほうがいいと思う」
僕ではヴァーロに太刀打ち出来ない。何も出来ないまま返り討ちに遭うだけ。ゼノンでなければダメなんだ。
「頼りにしてるよ、ゼノン」
──俺の言いたいことを奪うんじゃねえ
「あはは。ごめんごめん」
異世界に意識だけ飛ばされて他人の体に入り込み、知らない人たちに囲まれて、最初はなんでこんな目に遭わなきゃいけないんだって思ってた。でも、ゼノンやみんなと話して気が付いた。
僕がやらなければならないことを。
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