第9話

柔らかな日差しが差し込むある日の午後、ショウはベットに横たわりながら窓の外を静かに眺めていた。

エミはベットの横に座り、ショウの手を取り同じように窓の外を眺めている。

二人だけの時間を過ごしてもらおうと、他の家族はリビングで、その時が来ることを受け止めようと心の中で闘っていた。


そろそろこの地球とお別れの時が近づいていた。

ショウはその事が不思議とわかっていた。

地球を離れる事に未練は無かったが、大切な人と離れ離れになってしまうのが怖くてしかたがなかった。


恐れから逃れるように、ショウはこの人生で一番の出来事をエミに語りかけた。


「ほら、覚えているかい?初めて会った時のこと。確か僕がカラオケ屋さんで働いていた時だったねえ」


エミは何度も聞いた話だと思ったが、今回だけはどうしても無下にはできなかった。


「そうそう、あなたが働いていて、私は友達と歌いに行った」


ショウは、目に涙をいっぱい溜めながら、ゆっくりと言葉を紡いでいった。

「偶然だったとはどうしても思えない。あの時、君と出会えたのは神様からの贈り物だったと思うんだよ。君と出会えなかったら僕の人生はどん底のままだった」


エミも当時を振り返りながら、素直な気持ちで答えた。


「私の方こそあなたに出会えなかったら、夢破れてスナックのママにでもなっていたかしら。不思議な縁ってあるものね」


「ありがとう。出会ってくれて」

自分の人生を救ってくれた戦友に心からの感謝を述べた。


ショウはその想いの中に、心残りがあることに気付いた。

「ところで、ほら、君と出会った時一緒だった女性。名前はなんていったかな」


エミもあの時の友達の顔を浮かべてみる。

「ああ、あの子。名前なんだったかしら。不思議ね、全く思い出せないわ」


ショウは自分の人生の恩人に、感謝も伝えられなかったことに悔いた。

「しっかりとお礼を言えないままになってしまった。彼女が居なければ僕らの出会いは成立しなかった。僕らの人生にとても影響を与えてもらったのに。申し訳ない」


エミも感謝の気持ちでいっぱいだった。


「きっとキューピットだったのかもしれないね。私達を会わせるためだけに、地球に来てくれたのかも。きっと天国で笑ってるわね」


ショウも笑みを浮かべ心から言った。

「あっち行ったらお礼を言わなきゃ」


二人だけの世界に優しい静寂が降りてきた。


ショウは堪えていたものを素直に言葉にした。

「エミと離れるのが怖い」


エミは一瞬、感情が抑えきれないほどに心が爆ぜてしまいそうになったが、必死に堪え、あの頃のように強い眼差しと口調でショウに発破を掛けた。


「なに弱気なこと言ってんだよ!あんたは世界ナンバーワンのパーティーピーポーだよ!地球代表であっちに行くんだ。先に行って、会場を温めておくんだ!私もすぐに行くから。天国だろうが地獄だろうが全部巻き込んで、全てを救い出してやろうぜ!」


エミは涙を流しながらショウの手を強く握った。


ショウも涙を流し頷きながら、最後の言葉を何度も何度もエミに贈るのだった。


「ありがとう、ありがとう・・・」



長いようであっという間に駆け抜けた人生だった。

静かに閉じていく自分という物語を十分に楽しめただろうか。

流れるエンドロールには生まれた頃からの映像が映されていく。

苦しみも、悲しみも、痛みも、喜びも、全てが愛おしかった。

全ての出来事、全ての思いが自分の物語を形作ってくれたことに感謝して、この物語の幕を下ろした。



猛烈な光を放つ魂は、地球での課題を無事終えて、みんなの待つ宇宙に還ろうとしていた。

でも、すぐには戻らず、魂は地球の外で待っていた。

最も大切な存在を。

最も愛する存在を。


やがて、小さくも宝石のようにキラキラと輝きを放つ魂がゆっくりと上がってきた。

二つの魂は吸い付けられるよう混ざり合い、更に強い光を放つ一つの魂となった。

さあ、還ろう。

みんなが待っているあの場所へ。



神様の瞳が潤んでいた。

久しぶりのSコース達成と、その魂が生み出した人間での物語。

我が子が困難を乗り越え、成長していく姿を見守るような気持だった。

さて、勇者が還ってくるとなると、こちらも少々騒がしくなりそうだと神様は微笑んだ。



勇者が到着する前から魂達のSコールが止まなかった。


「S!S!S!」


苦しい学びの中救われた魂達は、ことさら声が大きかった。


やがて光り輝く勇者が帰ってきた。


「みんなー!!待たせたぜ!元気だったかい?」


勇者の帰還に魂達の熱が帯びていく。

「S!S!S!」


勇者は無数の魂の中に天使達も混じっていることに気づいた。

その中にあの天使が居た。

勇者は近寄ると心からの感謝を述べた。


「ありがとう!天使ちゃん。助かったよ。こっちから動けなくて困っていたんだ。天使ちゃんが連れてきてくれなかったら達成は無理だったよ。本当にありがとうな!」


天使は嬉しそうにモジモジしながら答えた。

「うん。みんなも一緒に頑張ったよ」


天使が振り向いて指さした先には助けれくれた仲間たちがいた。


勇者は心から礼を述べた。


「ありがとう!みんな」


勇者は、涙で潤む瞳を隠すように振り向いて一段高い場所にあがった。

振り返るとみんなを見渡しながら声高に言った。


「よっしゃー!みんなとパーティーといこうじゃないか!今夜は土星でパーティーだ!みんなついてこい!」


魂達は歓声を上げる。

「うおーーーー!!S!S!S!・・・」


気づいた神様は慌てて止めに掛かる。


「こらこらこら勝手に魂達を連れ出すんじゃない!」


しかし勇者とその御一行は既に飛び立った後だった。


神様は困った顔をしながらも、まあ今回だけはいいかと見守ることにしたのだった。


その日土星は異常な光に包まれ、地球の研究者たちを驚かせることとなったが・・・




煌々と輝きを放つこの魂は、これから恒星となって沢山の星々を照らすことだろう。

そして、その光は学びの中にある魂達にも届いていく。

困難にぶつかり諦めてしまいそうな時、ふと見上げた空に光り輝くこの魂から、沢山の勇気をもらえることだろうと神様は思うのだった。



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パーティーピーポー 遠藤 @endoTomorrow

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