第8話
フェスの会場は想像を遥かに超える大きさだった。
ライブ会場が複数あり、音楽以外の会場もあった。
想像を超えるような大規模な農場がこのフェスの会場となっていた。
自分たちが出演する目的の会場に到着すると、その会場の大きさにあらためて驚かされた。
複数ある会場の一つに過ぎないのに、数万人は入る広さだった。
ショウはリハーサルで舞台に立った景色に、思わず武者震いするのだった。
エミはそんなショウに声をかけた。
「ショウ!観客は全員動物だってさ。こんな田舎に人間は一人も来ないってよ」
ショウはエミの優しさを全身で受け止め強がりを返した。
「まじか?それは残念だったなあ。最高のパフォーマンスを見せようと思っていたのにな。動物なら言葉通じないから適当でいいか。ってこっちの人間にも言葉通じなかったな」
ショウは笑顔でエミを見る。
エミもショウを見つめ笑顔で言った。
「ふふ。いつものショウでやってやればいいのさ。それが一番かっこいいよ」
いよいよその時がきた。
もう恐れも不安も何もない。
自分がやりたいと思うことを全力でやりきるだけだ。
さあ、やってやろうぜ!
舞台に出て行って、観衆を見渡したショウは驚いた。
夕日に染まる無数の観衆が、エミの言った通り人間には見えなかった。
魂が抜けてしまった無数の抜け殻のような物体がそこにはいた。
ショウは一瞬たじろいだが、気持ちを入れ直し、こう心に呟いた。
(みんなの魂を取り戻してやる!)
エミの音楽に合わせショウは魂の声で観衆を沸かしていく。
「盛り上がっていくぜ!ヘイ!ヘイ!ヘイ!」
言葉の通じない様々な国の人々がその声に、音に体が動かせられていく。
会場内は熱気がどんどん増していった。
日が沈み、辺りが闇に包まれる中、観衆はショウの声に魅了されていた。
光を無くし、抜け殻となってしまった観衆の心が、微かな希望を求め反応し始めていた。
なぜか懐かしく感じるその声、闇の中から救い出してくれるその声はどこで聞いたのだろうか?
観衆の心がざわついていく。
記憶の中を辿ってもこのパフォーマーの声を探し出すことはできなかった。
それなのに、懐かしく感じるのは何故だろう。
それぞれ感じる動揺や違和感は心の奥底から次第におおきくなっていった。
ショウは心の奥にある魂の声を思うがままに紡いでいった。
「みんな!自分の道を思い出すんだ。自分らしく生きていける道を。いつも答えは自分の中にある。自分の心に正直に生きてみようぜ!せっかく生きているんだから楽しまなきゃ損だぜ!」
闇の中に取り残され藻掻き苦しんでいた観衆の心に、まるで蛍のような小さい光が次々と灯っていく。
言葉は理解できないが、その声という音に観衆の心が揺さぶられていった。
中継を視聴している世界中の人々にもショウの光は届いてく。
ショウはまたしても不思議な感覚の中にいた。
自分であって自分ではない不思議な感覚。
その声、思いは心の奥底から次々と湧き出てくる。
それはとても熱く、力強いものだった。
これが本当の自分だったのかと思う反面、何か大きな力が自分の体を介してこの世界に訴えているような気もするのだった。
それならそれを受け入れるだけだ。
こんな自分で良ければ自由に使ってくれと思うがままに想いを声に乗せていった。
観衆の蛍のような小さな光が空に舞い上がり始めた。
無数の光が囚われていた心から自由になって上がっていく。
やがて空で集まると、それは激しい炎になった。
幾重にも色を変えながらその炎は、どんどん大きくなっていく。
やがて炎は球体に変わり、真っ白の強烈な光を放つと一気に破裂した。
破裂したその粒は無数の小さな光となった。
小さな光は舞い上がった時とは比べ物にならないほどの強い光を放ちながら、それぞれの心に戻っていった。
もう閉じ込めれたりはしない。
もう迷わない。
その光を受け取ったそれぞれの魂は、地球にきた本来の目的を果たすことをあらためて決意するのだった。
ショウとエミの二人の魂は猛烈な光を放ち、地球での学びが終わったことを宇宙にいるみんなに知らせていた。
神様は想った。
それぞれの魂には魂の進み方というものがある。
時に挫折し諦めてしまうこともあるだろう。
しかし、それも経験であり、けっして何も得られなかったわけではない。
その悔しかった思いが次への糧となっていく。
ただ、どうしても超えられない壁に苦しむ時もある。
そう、どうすることもできない時が。
そんな時に神として助けられたらと何度思ったことだろう。
でも、それでは魂の成長ができなくなってしまう。
安易に助けてしまえば、魂の最も大切な成長できる機会を奪ってしまうからだ。
成長は魂にとって最も強く輝ける源だ。
強く輝けるようになると他の魂を照らすことができる。
大きな壁が立ちはだかり苦しんでいる魂に光を照らすことができるのだ。
そうやって助け合いながら、魂達がそれぞれ成長していくことこそがもっとも重要であり、この宇宙にとってかけがえのないことなのかもしれない。
また一つ、魂から学びを得たと神様は微笑むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます