第7話
ショウとエミは手始めに動画サイトにチャンネルを持つことにした。
自分たちのことをより多くの人に知ってもらうために。
そのチャンネル名で二人は少々揉めていた。
「やっぱりショウとエミのクレイジーチャンネルでいいんじゃない?」
「おい!全然センスがない。なんだよクレイジーチャンネルって」
「だって、こう、ぶっ飛んだコンビだよって知らせた方が観てくれるでしょ?」
エミはあきれ顔で言う。
「違う方にぶっ飛んでどうするんだよ。チャンネル名なんだからシンプルでいいんだよ」
「じゃあショウ・エミかな」
「は?何その言いにくいの。そんなんじゃ誰も覚えてくれない。エミ・ショウでいいよ。言いやすいし」
「エミ・ショウ?なんかエミのショータイムみたいじゃね?」
「意味わからない。とにかく、はい決定。エミ・ショウで行こう」
「う、うーん。わかったよ」
不満顔のショウだったが、エミの押しの強さに根負けした。
手探りで始めた動画サイトも少しずつだが登録者が増えていった。
自分たちのパフォーマンスを撮影して、いくつか動画もあげていった。
すると、徐々に認知されていき、ラッキーな事に小さなお祭りや学園祭に呼んでもらえるようになっていった。
呼ばれて行ってみても、決してお客様待遇ではなく、全部自分たちで準備をして、さらには手が足りないところを手伝ったりと裏方作業の割合の方が大きかった。
やがて、登録したアルバイトにもいけないほど呼ばれることが増えていった。
決して生活が楽になったわけではないが、切りつめながらもやりたい事をやれている喜びの日々だった。
そんなある日、エミが興奮しながらショウを呼んだ。
「ちょ、ちょっと!ショウ!!」
動画サイトに上げるための編集作業を、慣れない手つきで行っていたショウが作業を止める事無く返事だけする。
「うん?」
興奮が止まらないエミが、少々怒り気味で再度ショウを呼ぶ。
「そんなのいいから早くこっち来いって!」
ショウは面倒だったが、しつこいのと怒らすと後が面倒だったので、渋々作業を中断してエミのところに近寄った。
「何、どうしたの?」
エミは興奮顔でパソコン画面を指さす。
「これ読んでみてよ」
ショウは訝しながらパソコン画面を見てみると、そこには英文が並んでいた。
「うわっ。ダメダメ読めない。なにこれ詐欺メール?」
エミは仕方が無いので翻訳サイトに英文を貼り付けショウにも読めるように日本語に変換した。
完璧な変換ではなかったが、この英文の内容がわかってくる。
「私たちは、イングランドの野外フェス【チャリス・フェスティバル】運営会社の者です。4年ぶりに開催される今年の夏に、あなた方を招待したくご連絡をさせていただきました」
ショウは困り顔をして呟くように言う。
「ええーイングランドってイギリスでしょ?いきなり海外って言われてもピンとこないし困っちゃうよなあ」
エミはすかさず言う。
「何、呑気な事言ってるんだよ!【チャリス・フェスティバル】だよ!凄いことだよ!とんでもないことが起きたんだよ」
ショウはまだピンときていない。
「そりゃあ俺たちのような者が海外に呼ばれるなんてすごいことだよね」
エミはイライラしながらショウに分からすためにネット検索して画面を見せた。
「これ読んでみろって!」
画面の文字を見てショウの表情が変わった。
「・・・世界最大規模の野外フェスだって?!」
世界最大規模という言葉の凄さにショウはすっかり怖気づいてしまった。
自分みたいな存在が、そんな場でパフォーマンスなどできるわけがないとの思いが、大きな闇となって心に襲いかかってきていた。
驚愕の表情のままショウは呟いた。
「・・・無理だ」
エミは驚いた。
「え?」
ショウは怖気づきながら言った。
「俺には無理だ。こんな場で、できるわけがない。もし失敗したらどうする?世界中の笑いものになるのがおちだ」
エミは悲しい表情を浮かべる。
「どうしたんだよ。せっかくのチャンスじゃないか。誰も笑ったりなんかしないさ。そんなの気にするなんてショウらしくないよ」
ショウは俯きながら呟く。
「・・・怖いんだ。何もない自分がこんな大舞台にのこのこ出て行って、観衆から笑われるのが怖いんだよ。自分には実力もないし、実績もない。言葉だって通じないし・・・無理だよ」
「そんなことないって。認められているから誘われたんだろ?なんなら笑われたっていいじゃないか。自分達が楽しめればそれでもいいじゃない」
「俺なんか・・・」
エミは泣きながら感情を爆発させた。
「やめろよ!なんでそんなに自分を裏切るんだ!なんで自分を信じてあげないんだよ!自分の夢だったんだろ?心の奥から世界中のみんなを元気にするんだろ!そう言ってくれたじゃないか!」
エミの言葉が、声がショウの闇をかき分け、怯えて消えかけている心に必死で手を伸ばす。
闇に覆われたショウの心に僅かな熱が帯びてきた。
どうしたんだ俺は。
なんでこんなに弱くなったんだ。
いつからこんな風になった?
こんな人間だったのか?
ショウの奥底にある、闇に覆われた心の殻を破ろうとする激情が内側から暴れ出した。
それは抑えきれないほどに激しさを増していく。
やがて、小さくも激しい光が闇の中でインフレーションを起こし、情熱が粉々に闇の殻を破壊したのだった。
違う!俺はそんな人間じゃない!
俺には俺にしかできないことがある。
俺はそれを成すために生きている。
それを成すために生まれてきたんだ。
絶対にできる!絶対にやってやる!
涙を流し奥歯を噛みしめながらも、体の内側から溢れ出した怒りにも似た情熱はやがてショウの体を完全に包み、それは恐ろしいほどの静けさの中、揺るぎようのない力となった。
「ありがとうエミ。いつも、いつもありがとう。もう大丈夫だ。もう迷わない、恐れたりしない。行こう、一緒に。世界中のみんなを救いに」
大粒の涙を流すエミはショウを見つめた。
「・・・ショウ」
全てを出し切れる時がついにきたんだ。
きっと神様がこの場所を与えてくれたんだ。
だったら全力で行くだけだ。
自分にしかできないそれを果たすため。
エミと一緒に俺たちが世界中のみんなを救いに。
神様は地球に行く前のことを思い出していた。
神様は冒険者に尋ねた。
「で、なにを達成したい?」
冒険者は真っすぐ地球を見つめ言った。
「みんなを正しい道に戻してあげたい」
その真っすぐな光に神様はドキッとした。
(ほう)
冒険者の眼差しに力がこもる。
「達成できず、悲しい顔で戻ってくる魂を減らしたい」
魂の光はまだまだ未熟であったが、揺るぎないその純粋な光は大きな力を秘めていた。
冒険者は揺るぎない決意を神様に伝えた。
「どんなに辛い学びであっても絶対に乗り越え、地球で頑張るみんなに光を届けたいんだ」
冒険者のその姿は、かつて宇宙を創造し、魂達と一緒にあの場所に辿り着こうと決意した、あの頃の自分と重なる部分があった。
自分だけで辿りつくのは容易いが、様々なエネルギーが絡み合いながら創り上げていくその道は、数々の困難を皆と一緒に乗り超えていかなくてはいけないと、強い決意と覚悟をしたあの時の自分に。
いよいよその時がきたようだと神様は思った。
意外だったのは片割れの魂の強さだった。
天使のサポートもなく正しい道を歩ませられる強さがある。
もしかしたら偏った強さがあったのかもしれない。
この冒険者なら間違いなく乗り越えられるだろうと神様は安心するのだった。
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