第6話

いよいよイベント当日を迎えた。

バンドを組んでいたあの頃は人前に立ってパフォーマンスができたが、あれからだいぶ時間は経っている。

ましてや、いつしか人目を避けるような生き方が染みついてしまい、会場内を袖から覗いてみれば沢山の人の前に怖気づいてしまった。

震えてきそうな感覚に襲われ、この期に及んでも逃げ出したい気持ちが出てきた。

ショウのそんな姿を見てエミは言った。


「ショウ!あんたは天才だよ。盛り上げさせたら日本一のパーティーピーポーさ。あんたの声には魂が宿っている。誰もがあんたの声を聞きたいと思っているんだ。あんたの魂の声を皆に聞かせてやろうぜ!」


「うん」

ショウはエミの言葉に勇気づけられた。



いよいよ出番がきた。

行こう。

ショウは何度も心の中で唱えた。

最高の舞台にしてやる。

俺ならできる、絶対に俺ならできる。

俺はパーティーピーポーだ。

日本一のパーティーピーポーだ。


エミの選曲に合わせ、ショウが客を盛り上げていく。


「いくぜ!パーティーの始まりだー!」


ショウはどんどん言葉を紡いで客を煽っていく。

あの頃のような感覚に体が、声が戻っていった。

バンド時代のように言葉が次々と湧き出てくる。

ショウは自分であって自分ではない感覚になっていた。

誰かが自分の体を操っているような感覚に囚われていく。

でも凄く心地が良かった。

心の奥から爽快でとても気持ちが良いものだった。


メインではない二人の出演時間は短かった。

しかも、まだ客達も会場にきたばかりの時間帯で、世界観に入り込めていない者も多数いた。

しかし、この一瞬に込めた二人の熱量は凄まじいものだった。

まるで昔からコンビを組んできたような見事な相乗は、会場のボルテージを鰻登りに上げていった。


会場内の熱気が増していく。

ショウの煽りに勝手に客達の体が動く。

皆エミとショウの音に声にどんどん吸い込まれていった。

この声を聞いていると、なんだかわからないが、ドキドキするような、ワクワクするような、心が躍って自然と笑顔になっていた。

心地よいのだが、まるで勇気をもらったような高揚感に包まれていく。

今すぐにでも駆け出したくなるような気持だ。


「ありがとう!今日はまだまだ終わらないぜ!朝までパーリナイ盛り上がっていこうぜ!」


ショウは最後の言葉を残し、舞台から逸れると全身の力が一気に抜けた。

エミも汗だくだった。

ショウは体の奥から湧き上がってくる熱に全身が包まれ、まるで眠っていた細胞が目覚めていくような感覚に襲われていた。

失っていたものを取り戻したのだった。



二人は会場を後にして、夜の公園に移動するとブランコに座り、ショウがエミに語りかけた。


「エミ、ありがとう。ああ、やっと思い出したよ。自分はこんな人間だったって。自分はこの世界で生きていたんだって」


そして、ショウはエミを見つめると決意を表明した。


「今のバイトやめるよ。夜の勤務はやっぱり無理だ。昼間の仕事を探して、そして、いつかまたパフォーマンスができるようもっと練習するよ」


エミも真剣な眼差しで言った。

「よし!あたしも決めた!ショウの家に引っ越す」


「・・・ええーー?!」

ショウは一瞬、理解することができず思考が停止してしまった。


エミは続ける。

「そうしたら家賃とか生活費の心配減るだろう?一石二鳥じゃん」


「いや、まあ、そうだけど、いきなりって、ねえ?」

しどろもどろになるショウを横目にエミは気にせず続ける。


「あたしショウ好きだよ。子供たちも好き。なんか一緒にいてとても安心できるんだ」


エミは夜空を見上げると、抑えきれない思いを伝えた。

「ショウとならあたしの夢が叶うと思うんだ。あたしさ、DJになりたいと思ったのは、みんなを楽しませられると思ったからなんだ。でも本当は皆を、沢山の人を元気にしてあげたいと思っていたんだ。でも、それはどうやったらできるのかずっとわからずにいたんだ」


「でも、今日やっとわかったよ。ずっと私に足りなかったものがなんなのか。それがショウだった。ショウなら私の願いを叶えてくれるって、やっとわかったんだ。ショウとなら叶えられるって」


(エミ・・・)


ショウは心がだんだんと熱くなっていくのを感じていた。


「よし!やろう。俺も自分でやってみたい。エミが助けてくれて自分がやっと気づけたように、苦しんでいる誰かの手助けをしてあげたい」


「エミ、俺と一緒にみんなを元気にしてあげないか?」


そう言うとショウはエミの手を握った。


「うん!日本中を元気にしてあげようよ」


「いや夢はもっと大きく、世界だ!世界中の迷い苦しんでいる人達全員に、元気と勇気を与えるんだ」


「うん」

エミはその想いに答えるように手を強く握り返したのだった。


繋いだ手を通して魂が共鳴し一つになっていく。

ずっと探していた。

君をずっと探していた。

ショウとエミの魂が熱く強い光を放ち始めた。

魂が放つ光はやがて炎となって情熱へと変わっていく。

二人の情熱は絡み合うように天高く昇っていった。



「よし!」


神様は手を強く握りしめた。

魂が強い光を取り戻した。

ずっと待っていた魂の片割れと出会うことができ、統合することができたのだ。

やっと魂の目的を果たす正しい道に戻ることができた。

正しい道に戻った魂には神として全力でサポートができる。

さあ、この地球にきた本来の目的を果たすため、迷うことなく突き進むのだと神様は思いを寄せるのだった。



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