【後輩男子くんとヒミツの同居】彼と私の共通の趣味は「カクヨム」なのだ②

桃もちみいか(天音葵葉)

「トリあえず」

 見慣れた私の部屋に、見慣れた男子がいる。


 この二つの要素は出会わないはずだったのだけれど。


 だって、私はこの男子とは付き合っているわけではないし。


 私と彼はね、ただの会社の先輩後輩という関係でしか無いはずだったの。


 でも、プライベートでは少しは親しくなってきた……のかも?



      ❀❀



 実はですね、私、投稿サイトカクヨムで小説を書くのが趣味なんだ〜。

 それが会社の後輩くんにバレてしまい、なぜかその彼と同居するはめになりました!


 こっそり会社で仕事の休憩時間に「カクヨム」していた私は、うっかり会社の同僚にスマホの画面を見られてしまい、しかもペンネームを知られちゃった!


 それがワンコ系男子な後輩の村瀬くんだ。

 びっくりなのは、村瀬くんもカクヨムで活動している作家さんだったこと。

 それも、固定のファンがいてけっこう人気がある有名作家さん。


 私と村瀬くんは二人とも書籍化デビューをしていないアマチュアな作家だけど、いつか自分の本を出してみたいという夢は一緒なんだよ。



 甘え上手なワンコ系な男子の村瀬くん、ある日突然「ある事情がありまして住むところが無くなってしまいまして。どうか少しのあいだだけ、お邪魔させてください。お願いしますっ!」と捨てられた子犬みたいな顔をして私の家に転がり込んできて。


 私は困ってる村瀬くんの頼みを断るわけにもいかず、一緒に私の部屋で住むことになっちゃった!



      ❀❀



「あ・つ・み・さぁ〜ん」

「きゃあっ!」


 廊下ですれ違い様に急ににハグされて、私は飛び上がった。言葉通り、数ミリ絶対に足が床から浮いたと思う。


敦美あつみさん、すっごい真剣な顔してなに書いてたの?」


 ふわっと、彼から私と同じ花の香りのシャンプーの匂いがした。


「村瀬くん! ちょっ、ちょっと! だめっ! 離して。ねっ?」

「ちぇーっ。いいじゃ〜ん、俺、敦美さんと仲良くしたいんだもん」


 彼は甘え上手なワンコ系男子。

 この子は拒否されることなんて怖いと思わないんだろう。


「敦美さんの気持ちよさそうな顔……そそられます。……すっげえ可愛い」

「ふえっ!?」


 私の頭からボンッと煙が吹き出しそうになった。

 村瀬くんの囁き声に顔が熱くなる、鼓動が早くなって体中に血が駆け巡る。

 

 熱が、体温が上がっていく。


 村瀬くんってば、ぐいぐい距離を詰めてくるんだもの。

 無邪気な笑顔で、不意打ちのぎゅってハグは困るよ。


 優しいし、気が利く後輩くん。見かけの童顔で可愛い容姿も手伝ってか、会社での村瀬くんの人気は高い。


 私といえば引っ込み思案の人見知りです。人と仲良くなるのに時間を要するタイプなのです。じっくりと人間関係を築いていく方だと思うの。


 村瀬くんは、人懐っこい。

 無邪気な笑顔が人をときめかせる。

 どうしたらこんな風に馴れ馴れしく……、えっと……甘えたりすることが出来るのだろう。

 ……ほんと、羨ましいよ。

 私はちょっぴり、彼のような気さくで誰にでも好かれちゃうような人間に憧れと、わずかな嫉妬をいだいている。





 甘えて抱きついてきた村瀬くんをなんとか振り切って、私がお風呂から戻ると、あろうことか彼がソファでじっとパソコンを眺めていた。


 ああっ、書きかけで、そのまま電源を落とすの忘れてた〜!

 

「ふむふむ【モテモテのカクヨムのトリさんは作家として自信を失っている主人公に「『トリあえず』一行書いてみようか」とニヒルな笑顔を見せ、耳元で囁いた】か〜。書き出し、良いですねえ、今回はファンタジー小説ですか?」


 どきどきどき……その甘い声、反則です。

 村瀬くんの素敵な声で、私の小説を朗読しないで。


「敦美さん?」


 村瀬くんが立ち上がり、私の顔を覗き込んできた。


 やめて、それから耳元で近くで私の名前を囁くのもナシっ、ナシです!


「……よよっ、ヨムんじゃなーい! 村瀬くん! 私、言ったじゃんっ! カクヨムのサイトに投稿するまでは読んじゃだめだよって〜」

「ごめんなさい。でも見えちゃったんだもん。推し作家の敦美さんの新作にもう俺、うずうずしちゃって。あっ、そうだ! 俺のもヨム? まだ下書きで冒頭しか書けてないんですけど。それ、カクヨム誕生祭のやつですね。お題がいつものKACが来たなって感じの」

「そうそうっ。KACのお題。今回の『トリあえず』ってさ、駄洒落しか浮かばなくって困ったの」

「うんうん、たしかに。じゃあ、煮詰まったところで、敦美さん『トリあえず』御飯にしますかー」

「村瀬くん『トリあえず』って……」

「フフッ、今夜は敦美さんを駄洒落で攻めます。ちなみに俺はトリさんが運命のトリさんと会えないラブ胸キュンホラーで『トリ会えず』かな。敦美さん『トリあえず』ビールにしますか? シャンパン? それともハイボールとかレモンハイはどう?」

「村瀬くん、もうやめて〜。私『トリあえず』のオンパレードで頭が痛くなってきた」

「もー、敦美さんは可愛いなあ。頭抱えてる姿も……なんて言ったら怒っちゃいます? ごめんね」


 村瀬くんに頭をぽんぽんされて私、さっき彼に抱きしめられたことを思い出しちゃった。

 しばらくあの温もりと心地よさに余韻を感じてた。


「こんなことで怒らないけど」

「良かったあ。ああ、ちなみに今日の晩御飯は村瀬特製の『トリえず』サラダと……」

「村瀬くん。その『トリあえず』サラダってなに?」

「春雨中華ゴマだれサラダに蒸した鶏をのっけました。野菜たちと鶏は『和えて』ませんので『トリえず』サラダです」


 村瀬くんって、もしやけっこう凝り性なのかな。

 一生懸命考えたのだろうから、ちょっと微笑ましくもある。


「かなりカクヨム誕生祭のお題に振り回されてますね、俺」

「うん、かなり……」


 村瀬くん、なんかシュンっとしちゃった。

 エプロン姿でうなだれてる。


「いやいや、私もだよ。カクヨムの虜になってしまった以上仕方ないよ。私なんか隙あらばカクヨムでアップする小説のこととか、好きな作家さんの小説の続きばっかり気にしてるもん。今、私がこんなに虜になってるのはカクヨムぐらいかな〜」

「俺は虜になってるものは他にもまだありますけど」

「えー、良いなあ。夢中になれるものがたくさんあるっていいことだよね」


 ぎゅっと急に抱きしめられちゃった。

 村瀬くんのイケメンヴォイスな声が耳元で囁かれる。


「俺、敦美さんの虜です」

「ひゃあっ!! 耳元でやめて。そんな近くで名前呼ばれると変な感じするから」


「メインのおかずはもう少しあとでも良いですか?」

「じゃ、じゃあ、私作るから。村瀬くん、離して」

「だめです。『トリあえず』まだこのままでいさせて」


 ……すっかり私たちの日常が、カクヨムが出してきたお題に染まってる。


 毎年カクヨム誕生祭では、頭が創作でいっぱいになってしまう。


 いつもは一人、だけど今年は……。

 一緒に楽しむ村瀬くんがいて『トリあえず』楽しいなって思ってる。


                   おしまい♪





 ❀❀おまけのお話❀❀


「えっ、えっと……メインのおかずって鶏の唐揚げ作るつもりだった?」

「はい、鶏の唐揚げでーす。ふははっ、お題の『トリあえず、トリあえず』ってばっかり考えてたら鶏の唐揚げが食べたくなっちゃったんですよね。カクヨムのトリさんはふくろうだろうけど、なんかこうトリトリ言われると」

「そ、そうだね」

「あーっ、敦美さん。俺に呆れてますぅ? サラダにもトリだったしな」

「そういうことじゃないんだ……けど」


 彼といると退屈しない。

 私は孤独とはまったく無縁になっていた。


 村瀬くんと同居生活、慣れてきたら、彼がいない世界は味気ないだろうし、考えられないって感じた夜でした。



               

 今度こそ、ホントにおしまい♪



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