彼らに会える事の幸せ
かねおりん
彼らに会えることの幸せ
僕は、東京という町の喧騒に疲れて、一度この町を出ようと思ってどこかいい場所はないだろうかと不動産サイトを見ていた。
仕事は現地にも支店があるのでまぁまぁどこでも移動願いは出せるとして、まずはどのあたりに住みたいかを大雑把に紙に書いてまとめてみた。
「空気は東京より綺麗な場所がいい」
「静かさはやっぱりほしい」
「そういえばまだ見たことがないけど彼らに会える場所がいいな」
そんなざっくりとした事しか浮かんでこないくらいだったが検索していくうちにそれらしい場所が見つかった・・・。
会社にも移動願いを出したので、引継ぎを終えれば、彼らに会えるはずだ。
家具なんかは本当に必要なものだけでいい。
とにかく早くこの、人が多すぎて賑やかすぎる町から離れたい。
そして、寒い季節が来て引継ぎも問題ないように見えた頃、北海道出水市への転勤が決まった。
引っ越し業者に連絡しても、あまり値下げをしてくれない・・・かなり雪が降る場所なのだろうか?
休みを取りこちらは飛行機で先に寝袋一つ持って気持ちを高ぶらせながら新しい我が家へと向かって行った。
内見はこのご時世だスマホであちら側の不動産屋が現地に赴き動画を回しながら説明してくれていた。
そこには彼らが見えていたのだ。
すぐそこに決めたのが年明けだった。
そして、俺は新しい部屋の鍵を回し急ぎ窓の外を見た。
そう俺はタンチョウに会いたくてここに来たのだが、彼らのここの滞在期間は12月から1月がピークだったらしい、ピークでなくても11月から3月までは滞在してくれるらしい・・・。
今はギリギリの3月末・・・お目当てのトリあえずといったところか・・・。
ご近所さんにご挨拶に行きがてらタンチョウがまだ見れる場所はないかと聞いてはみたが、「お兄ちゃん、また11月を待つんだなぁ・・・」と言われてしまった。
転勤のシーズンなんてこんなもんか・・・。
それでもここは東京と違い喧騒もなくとても、住みやすい。
それから来る日も来る日も早くタンチョウに会えないかと毎朝早起きをする習慣までついたものだ。
そして、11月に入り始めたころ・・・朝日と共に目覚めた俺の目の前の湖にフワリと舞い降りるタンチョウをついに見る事が出来た。
あまりの嬉しさに涙であれだけ待ったお目当てのタンチョウがよく見えない。
それからの日々は毎日窓から見えるタンチョウたちに癒されながら、この出水町のバードウォッチャー仲間まで出来て冬を待つ幸せな暮らしに俺は本当にここに来てよかったと思った。
ずっとここで暮らしていきたい・・・そんな時会社から通達が来た。
本社への帰還命令だ。俺でないとだめだというクライアントがいるというので、短期出張でなんとかお願いできないだろうかと頼み東京に一時帰還したのだが、
お目当てのトリあえずな帰還に俺は少しでも早くクライアントの要望に応えるべくマンスリーマンション暮らしをしながら今までにない速さで仕事を終え、無事我が家に帰る事が出来た。
帰るとそこは多くのタンチョウが舞い降りるピークの季節になっていた。
なんて美しい鳥なんだ・・・俺はここで生きて行こう。と心に決めて会社に辞表を送った。
そして、タンチョウ保護のためのボランティア団体を応援しながら出水市で新たに転勤のない会社に勤め始めた。
慣れない仕事もあるけど、俺には彼らに会える幸せな時間がある。
鶴は千年・・・これだけはもう、手放せない。
おしまい
彼らに会える事の幸せ かねおりん @KANEORI
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます