怪鳥『トリあえず』と少しクセのある俺の家族たち

ハルカ

名前はトリあえず

 森の中でヘンな生き物を拾った。

 羽根とくちばしがあるからたぶん鳥だと思うが、胴体はハリセンボンみたいに丸く、そのくせ頭部や尾羽がやたらトゲトゲしい。全体的に茶色というよりオレンジ色に近くて、なかなか主張の激しいビジュアルをしている。


「なんだこいつ」


 つまみあげると鳥はバタバタと暴れ、地面にぽとりと落ちた。その羽根に血がにじんでいる。怪我をしているようだ。

 だが、暴れる奴に優しくするほど俺は優しくない。


「達者でな」

 そう言い残して去ろうとすると、背後からけたたましい鳴き声が聞こえた。

「ギャピィ! ギャピィ!」

 耳をつんざくような大声だ。

「おい鳥よ、それはいたいけな小鳥から聞こえていい鳴き声じゃないからな!」

 仕方なく俺はふたたび鳥を拾い上げ、家に連れ帰ることにした。




「名前つけてあげなきゃ!」

 鳥を見た妹の第一声がそれだった。

 こいつ、また可愛がるだけ可愛がって世話は全部俺にやらせるつもりだな。

「うまそうな色だし『焼き鳥』でいいんじゃないか」と父。サイコパスかよ。

「名前がないと何かと不便よ。病院にかかるときにも名前はあったほうがいいし」と我が家の良心である母。

「じゃあ鳥だから『トリあえず』でいいか」と適当な俺。

福郎左衛門ふくろうざえもんなんて強そうでいいんじゃないか」と祖父。



 鳥は秒で我が家に馴染んだ。

 祖父が本を読んでいると一緒にのぞき込んだり、父がパソコンを使っているとくちばしでキーボードをつついたり。


「こら、『トリあえず』! 邪魔するなよ」

丸之助まるのすけもずいぶん元気になってきたじゃないか。そろそろ森に返す頃かね」

 祖父は鳥のことを毎日違う名で呼ぶ。

 孫のことはちゃんと覚えているのかときどき不安になる。




 暖かい日、俺は鳥を連れて森に来た。

 そっと放してやると鳥は一瞬で木々の合間に消えた。

「はは……鳥に会えなくて『トリえず』なんてな」

 そんな冗談を口にしてみるが、もう森の中からあのクセの強い鳴き声が聞こえてくることはなかった。

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怪鳥『トリあえず』と少しクセのある俺の家族たち ハルカ @haruka_s

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