とりあえず付き合おうか
あやかね
第1話
「トリあえず、付き合おっか」
「はあ……別に良いけど」
「じゃ、今日から恋人という事でよろしく」
私は何度か頷いて見せて平静を装った。心の中ではガッツポーズしていたけれどそれを見せるのは恥ずかしい。
君は雑誌から顔を上げて「あっけないな……それでいいのか、お前の人生」って言ったよね。なんで呆れてんの? むかつく。
「いーんだよ。もうあたしたち20でしょ? そろそろ恋人いない歴=年齢は卒業しなきゃやばいじゃん」
「まぁそれはそう……か?」
「そうだよ!」
幼稚園、小学校、中学校、高校、大学。ずっと一緒だった。ずっとずっと好きだった。ようやく実った私の恋。
「でもよ、別に今どき結婚してないなんて普通だろ?」
焦って作るもんでもないだろ……って君は肩をすくめたよね。私は、寂しかったんだよ?
「まあでも、付き合おうってんなら付き合うけど」
君は雑誌に視線を戻した。
「うんうん、もう取り消せませんから。クーリングオフは受け付けません!」
「あ、そう」
とても冷めた声。
目の前に彼女になったばかりの可愛い女の子がいるというのに興味なしか? 私はナンプレ以下か?
「ちょっと、せっかく付き合ったのに感動はないの? ほら彼女だよ。君の事が大好きな彼女様だぞ!」
「あーあー可愛い可愛い。……あ、ここは8か」
「っておーーーい! ナンプレすんなーーーー!」
私はバサッと雑誌を取り上げた。
「あ、おい。なんてことすんだよ」
君はずっと冷めた目をしている。どうしてそう冷静でいられるのだろう? 私はこんなにも浮かれているというのに?
むかつく。なんでもない顔して手を繋いできたり、放課後一緒に帰ったりしたのはなんだったんだ。コイツはいつも冷めた目で優しくしやがるんだ。私を意識させるようなことばっかりしやがって。
「彼女は私なんだーー! もっと大切にしろーーーー!」
「うわっ、やめろよ!」
今日という今日は許さない。私はギュッと抱き着いてこれでもかと甘えてやった。「ずっと大好きだったんだぞ、ばか!」
すると君は居心地が悪そうに「お、俺だって好きだったさ」と顔を赤くした。
「へっ?」
「そんなの、お前にバレたら恥ずかしいだろ……。だから隠してたんだ!」
「ふ~~ん、そっかそっかぁ」
聞けば、いつもいつも優しくしてたのはアピールだったのだという。でも好きだと言えなくて誤魔化していたのだそうだ。
なんて可愛いヤツ。
私は彼から離れると真正面から向き合った。
「トリあえずなんて言ってゴメン。私と、ちゃんと付き合ってください」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
「あ、照れてる」
「照れてないし……」
「照れてる」
「照れてない」
「可愛いやつ」
「お前の方こそ」
君の事をずっと大切にしよう。
そう、自然と思えた。
とりあえず付き合おうか あやかね @ayakanekunn
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