【KAC20246】放射線対応型トリ
涼月
カクトリ第一号
ウラシル、シトシン、チミン、アデニン、グアニン。
隕石の中から上記五種類の塩基の抽出に成功してから、早三百年という月日が流れていた。
当時は生物の遺伝情報を司る核酸(DNA、RNA)に必要な分子は宇宙からもたらされたという説を裏付ける証拠として注目を集めたが、その後その塩基を使って実際に生命活動を連鎖させる実験にシフトしていく。
その目的は、地球外でも生きられるくらいの放射線対応型遺伝子の開発。
三百年の時を経て徐々に進化を繰り返した遺伝子は、様々な種へと分かれ遺伝子センターに保管されている。
現在カクトリ教授と主任研究員ヨムタが取り組んでいる研究課題は、その遺伝子を培養し、個体として成立させること。昼夜を問わず実験を繰り返した成果がようやく実を結ぼうとしていた。
感動の瞬間―――
眼の前には人工卵殻。暖房用ライトに照らされて中身がやや透けて見えている。中の物体がモゾモゾと動き始め、やがて自らの力で外壁を打ち壊して転げ出てきた。
「やった! カクトリ教授、ついにやりました!
叫ぶヨムタ主任研究員を押しのけて、カクトリ教授がそれに近づいた。
「ヨムタ君、記録したまえ。体長約五センチ、体型は球体に近い。毛色は全体としては茶色、腹と羽の内側は黃色、頭に三本のとさかがあり焦茶色。そして、目は······くそっ、まだ開かぬか」
「目の色ですか?」
記録を止めたヨムタ研究員が何気なく教授の横から覗き込む。
「あ、こら! 邪魔するな!」
カクトリ教授の肩がゴチンとヨムタ研究員を弾き飛ばした瞬間。
「キエーッ」
断末魔のような叫び声が小さな嘴から発せられた。
「「え!?」」
動体視力の良さから、コンマ一秒分だけヨムタ研究員のほうが早かった。
真っ黒い円な瞳と見つめ合ったのが―――
「
「私が、私がママだぞぉ〜」
慌てて駆け寄ったカクトリ教授だったが、時すでに遅し。
それは見向きもせずにヨムタ研究員を追いかけ始めた。
「う、うう~」
すり込みに失敗してガクリと方を落としたカクトリ教授。
「······とりあえず、ヨムタ君、君がこの子のママだ。これから二十四時間体制でこの子の世話をするように」
「そんなぁ、ただでさえ忙しくて彼女に振られる五分前なのに」
「ふん、私の邪魔をした報いだ。私はこの子と一緒に遊んだり一緒にご飯を食べたり一緒に寝たり一緒にチュ~したりしたかったんだからな」
「独り身の妄想が駄々漏れ過ぎる······」
ヨムタ研究員の呟きを華麗にスルーしたカクトリ教授。急に意味深な笑みを浮かべ始めた。
「そうだ! 命名権は教授である私のものだ。うーん、どうしようかな〜やっぱり一緒がいいよな。決めた! この生物はカクトリ第一号だ」
「······まんまやん」
ヨムタ研究員がカクトリ第一号の『キエーッ』声に睡眠妨害されて、あの時カクトリ教授の邪魔をしなければ良かったと、後悔の嵐に襲われたのはその直ぐ後の話。
おしまい
【KAC20246】放射線対応型トリ 涼月 @piyotama
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