第4話 高級レストランの都合


 モカリナは、イルーミクの様子を知って、フィルランカが美味しそうに食べているのを見て少し残念そうにした。

 フィルランカは、今まで人の心中を探るような事はせず、ひたすら自分の考える事に純粋に進んでいた。

 高等学校、帝国大学と好成績を残したのも、カインクムとエルメアーナの為、そして、孤児院を出る時にカインクムの嫁になる事をひたすら思い続けた。

 フィルランカの考えの中にはカインクムの事が大半を占めている事もあり、友人であるモカリナとイルーミクが何を考えているのかについて細かく気にする事は無かった。

 その結果、フィルランカは、純粋に出された料理を堪能していた。

(きっと、この料理も暫くしたらカインクムさんの口に入るのでしょうね。まあ、場合によっては試食をさせてもらえるかもしれないけど、新居で二人で暮らしているとなったら、そう簡単に呼んでくれるとは思えないし、私達が押しかけるわけにもいかないわ。まだ、片付けが終わってなさそうだから、暫くは顔を出すのを控えないとね)

 モカリナはフィルランの様子を見つつ、自身も料理に手をつけた。


 前菜が食べ終わると、次のスープが運ばれてきた。

 すると、副支配人が顔を出した。

「フィルランカ様、ご結婚おめでとうございます」

 フィルランカは、頬を赤くしてニヤニヤと笑いながら副支配人を見た。

「ありゅがとう、ごじゃいましゅ」

 フィルランカは答えたが、呂律が回ってなかっので、副支配人はテーブルの上を確認した。

 そこに置かれた酒のボトルを見て何かを察したような表情をするとモカリナのテーブルの上を直すようにした。

「モカリナ様、あまり、お戯れはお控えください。フィルランカ様は、お酒

に強くありませんよ」

 小さな頃からフィルランカの事は知っている副支配人は、お酒に弱い事も知っていたので、酒瓶の残りと3人の様子を見て誰が飲んだのかも察しがついた事から注意した。

 モカリナは、気まずそうな表情をして黙っていた。

(食前酒は軽めのお酒なのに、口当たりの良い強いお酒を指定してきたのは彼女の口を軽くさせる為だったのですね。若い女子だけで先に結婚した友人を祝うのは、結婚生活についての話を聞きたいのでしょうが、本当は夜の話になりますね。それなら、なるべく早く退散した方が良さそうですけど、少し良くないかもしれませんね)

 副支配人は、チラリとイルーミクとモカリナの表情を確認してヤレヤレといった表情をした。

 フィルランカは酔って顔を赤くしているようだったが、イルーミクとモカリナの顔は酔った赤さではないと分かったようだ。

(自分達の知らない世界を知った友人の話を聞きたいのでしょうけど……。二人の様子なら、去勢された男娼の手配を依頼してくる事は無いと思いますが、一応、手配の準備はしておいた方が良いのかもしれない、ですかね)

 副支配人は、モカリナから離れると、考えるような表情をしつつ配膳の様子を確認していた。


 貴族の婦人達だけの会食は、食事だけで終わる事は少ない。

 女子だけの食事会だと言い外に出て男娼を買う事が多いので、そのような場合にも対応できるように店側は行っている。

 貴族の婦人同士の食事会となると、欲求不満の解消とお互いにアリバイ工作の為に使う事が多い。

 食事を済ませた後に従業員に合図を送ると、手配した男娼達が給仕にあたり、その中で気に入った相手を指定して、人目に付かない通路を通り隣の宿屋に入っていく。

 行為が終わって全員が戻ると、自身の男娼との行為についての様子を伝え合う。

 アリバイ工作のため、長時間家を空けているのは、女子同士の話が弾んでしまった事にする。

 家に帰り長い時間外出していた時の話の内容を聞かれたら、答え難い事ですのでと軽く躱すようにするが、旦那に追求された場合は答える内容も決まっている。

「あちら奥様から旦那様の回数と持続時間について伺ったのですよ」

 そう答えると、大半の話が終わってしまうのだが、時折、それでも詳しく聞かれた時は、一緒に居た婦人達の男娼の話を伝えるようにして、自身の使った男娼の話はしないようにする。

 しかし、その話をした場合は、旦那の相手も行う事になるので、店での相手は去勢された男娼となれば都合が良かった。

 結婚した貴族の男性は、多かれ少なかれ側室を設けるので、貴族の婦人は欲求不満となる事が多い。

 その解消に使われる事も多いので、高級レストランでは、貴婦人だけの会食の場合、去勢された男娼も用意できるように計らっている。


 この店の副支配人は、常に来店する顧客に声を掛ける。

 それは、必要に応じて食事以外の手配にも気を配る為に行う。

 余計な不信感を与えない為にも、男娼を必要としない顧客の場合であっても顔を出していた。

 モカリナとイルーミクが独身であって、友人のフィルランカの結婚祝いをするからと予約を入れていた顧客は、男遊びをするように見えない事から店のカモフラージュの為に都合が良かった。

 しかし、予約の際、食前酒に口当たりの良い強いお酒を用意して欲しいと依頼された事に違和感を覚えていた事もあり、副支配人としたら必要に応じて対応をする必要が有るか確認の為にも3人の個室に訪れていた。


 挨拶をして給仕の手伝いをしつつ3人の様子を伺っていた。

 フィルランカの様子を見た副支配人は、給仕の従業員に小声で何か伝えると直ぐにソフトジュースが運ばれてきてフィルランカ達の前に置いた。

「フィルランカさん。こちらのジュースをお飲みください」

 フィルランカは、何だというように置かれたグラスを見た。

「珍しい果物が入ったので、飲んでいただこうと用意しました」

 スープが運ばれ、その横に置かれたグラスからは甘酸っぱい匂いが漂っていた。

 フィルランカは、その匂いに誘われるようにグラスを取って一口飲むと、口から離して色を確認し不思議そうな表情をすると、また、口を付けて一気に飲み干した。

 その様子を見ていた副支配人は給仕役に視線を送ると、ピッチャーから同じジュースを注いだ。

 少し酔いが回っているフィルランカに水分を取らせようと、副支配人は気を回してくれた。

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