第3話 女子だけだから出来る話


 フィルランカの話の先が見えてきたモカリナとイルーミクは、お互いに顔を見合わせたが、二人とも声を出そうとはしなかった。

 黙っている事で、フィルランカに次の話をさせようとお互いに思ったようだ。

 そして、フィルランカは少しボーッとしたような表情になっていた。

「体をね、カインクムさんに当てて動かしているとね、何だか温かくて気持ちよかったのよ。腕を横にして胸と胸を当てて足を絡めて隙間を無くすようにするのよ。それが段々気持ち良くなるのよ」

 すると、フィルランカは、テーブルに置いてあったボトルを取って自分のグラスに注いだ。

「あー、喋っていたら喉が渇くわ」

 そう言って、一気に飲み干した。

「ふふーん、何だか、気持ちがいいわ。それに少し暑いわ」

 そう言うと手を振って自分の顔に風を送った。

「それでね。以前、姉様に聞いた事を思い出したの。男の人を向い入れる方法を」

 そう言ってニヤリと笑うと、また、グラスに注いて飲んだ。

「それで、カインクムさんの上に乗って体を重ねてみたのよ。包み込むように優しく上に乗って、肘と膝で私の体重を支えながら徐々に体を重ねていったのよ。だから最初に胸が触れてから、ゆっくりつぶれていくとお腹も触れていって腰まで触れそうになると、カインクムさんが、うーんって唸るような声をあげたのよ。私思わず体を逸らしてしまったら、腰と腰が重なって硬いものの上に乗ってしまったのよ」

 そう言うと、また、グラスに注いで今度は一口だけ口に含むと飲み込んだ。

「ああ、これが男の人の物なのかと思ったら、思わず自分で導いてしまったの。そしたら、カインクムさんが目を覚ましたのよ」

 フィルランカの目はトロンとして、手に持ったグラスを見ていた。

 そして、大きく息を吐いた。

「その後は、カインクムさんが愛してくれたのよ。ヒック」

 モカリナは、慌ててフィルランカに水の入ったコップを渡した。

「少し、ペースが早いみたいだから、これを飲んで少し落ち着きましょう」

 そう言ってからモカリナはイルーミクを見た。

 二人ともフィルランカの情事の話を聞いて頬を赤くしており、イルーミクは下に向いていたのを確認した。

「ねえ、今日のお料理をいただきましょう。フィルランカの結婚祝いだと伝えておいたから、きっと、美味しいものが用意されたと思うわ」

「そ、そうね。フィルランカは料理を食べるのも好きだし、作るのも上手だから、結婚祝いなら、きっと、特別な料理よ。とりあえず、いただきましょう」

 モカリナは、イルーミクの様子も戻ってきたと思い、ホッとしたように息を吐くとフィルランカを見た。

「きっと、料理のレパートリーが広がるはずよ」

 グラスの水を飲み干したフィルランカは、コップをテーブルに置くと少し落ち着いたようだが、酔いが回っているのかニヤニヤとしていた。

「そうよね。フフン。せっかく、二人が招いてくれたのですから、料理も楽しませてもらうわ」

 そう言って食器を手に取って置かれた料理に手を付けた。

 一口食べると手を止めて、美味しそうに何度も咀嚼してゆっくりと味わい始めるのは、フィルランカのいつもの事で、その料理に使われている素材の味と、味付けのために使っている調味料を確認してた。

(フィルランカは、お酒が強い訳じゃないみたいだけど、それでも食べる時の癖は同じなのね)

 フィルランカの様子を見ていたモカリナも自身の料理に手をつけると、少し驚いたような表情をした。

(まあ、美味しい。初めて食べるかも。でも、見た事ある食材だから、スパイスや調味料が違うのね)

 味を確認したモカリナはフィルランカを見た。

(いつものような真剣な表情じゃなくて、本当に美味しそうに食べているわ。……。まあ、今日は料理を純粋に楽しんでもらいましょう)

 納得するような表情をすると、モカリナは、また、料理を口に運んだ。

(本当に美味しい)

 モカリナは、純粋に料理を楽しもうと思ったのか笑顔を作った。

(男と女の関係なんて、これ以上具体的なことまで聞いていたら欲求不満になってしまうわ。男娼を雇うつもりは無いし、変に性欲を溜め込む必要も無いでしょうから、必要以上にフィルランカの情事を話させても仕方が無いわね)

 モカリナは前の席で食事をしているイルーミクを見た。

 イルーミクは、まだ、恥ずかしそうに頬を赤くして、わずかに手を振るわせていた。

 それは、爵位の無い貴族であろうと貴族だと思ってなのか、商会の支配人の一族として自身の気持ちを表に出してはいけないと思ったのかは分からないが、必死に自身の心中を隠しているようだった。

(まだ、今のフィルランカの話を引きずっているみたいだわ。あまり、免疫が無いみたいだし、イルーミクのためにも、この話は終わらせた方が良さそうね)

 モカリナは無表情で料理に手をつけた。

(爵位の無い貴族の家なら、女を武器にする事も教育させられないのか。知識として知った事も無いなら、今の話は刺激的に聞こえていたのでしょうね)

 そして、フィルランカを見た。

 フィルランカは、美味しそうに最初の一口を咀嚼していたので、少し残念なような表情をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る