第2話 結婚祝い
フィルランカが連れて行かれたのは、帝都第1区画のフィルランカが最初に入れてもらえた高級レストランだった。
モカリナがドアを開けて入ると、フィルランカを押すようにイルーミクが入っていくと、若い従業員が笑顔で迎えてくれた。
その従業員は、一目見て直ぐに奥の方に案内を初め、一つの個室の前のドアを開けて入るように促した。
モカリナが軽い会釈をすると入っていくのを少し驚いた様子で見送ったフィルランカだったが、後ろからイルーミクが早く入れと言うように背中を押したので、フィルランカもモカリナと同じように軽く会釈をして入っていった。
中は、大きくはないが3人が食事をするには少し大きめのテーブルが用意されており、モカリナはフィルランカに振り向くと手を取って導いた。
モカリナは奥の一番良い席にフィルランカを座らせると、フィルランカの右側、後から付いてきたイルーミクはモカリナと向き合うように席に座った。
「ね、私がここに座るの?」
座らされたフィルランカが聞くと、二人は何を言っていると言う表情でフィルランカを見た。
「もう座っているわよ」
「そういう事は、座る前に言うものでしょ」
「それに、今日の主賓はフィルランカなのだから、その席に座るのは当たり前です」
「そうです。今日は私達がフィルランカを祝う為に呼んだのだから、そこなのよ」
二人に次々と言われて言い返す事ができずにいると、従業員が入ってきて食器を整えてから食前酒をグラスに注ぎ、終わると前菜が運ばれると従業員は去って行ったので部屋には3人だけになった。
モカリナがグラスを取るとイルーミクも取り、二人はグラスをフィルランカに向けたのを見て、フィルランカも慌てて自身の前に置かれたグラスを取った。
「では、フィルランカの結婚を祝して」
「「おめでとう」」
モカリナが進めるように言うと、二人は声を揃えてフィルランカを祝福した。
「あ、ありがとう」
まだ、戸惑った様子でフィルランカは答えると、二人はグラスを一気に飲み干したので、フィルランカは少し驚いた様子で口を付けて一口だけ口に含むと味を楽しんでから飲み込んだ。
「甘味もあって口当たりが良いけど、何だか変な気がするわ」
フィルランカがグラスを見ながら感想を述べると、二人の表情が一瞬曇った。
「そうかしら、口当たりもよく、とても飲みやすい、お酒だと思ったけど」
「そ、そうね。美味しかったわ」
その様子にフィルランカは違和感を感じたようだが、それ以上の詮索はせず出された前菜を食べようと手を伸ばした。
「ねえ、フィルランカ。カインクムさんの事とは、いつから思っていたの?」
モカリナの言葉にフィルランカの手が止まって顔を真っ赤にした。
「一緒に暮らしていて、何で、あのタイミングだったよ。義姉様なんて、ジュエルイアンさんから聞いた後に、とても悔しがっていたのよ」
今度は申し訳ないといった表情に変わった。
「あ、せめているわけじゃないのよ。フィルランカの話が聞きたいだけなの」
イルーミクは、フィルランカの様子を見て慌てて説明したので、フィルランカは少し落ち着いた。
二人は黙ってフィルランカの様子を伺っていたが、その沈黙に耐えられなくなったようだ。
「だって、カインクムさんとは養女じゃなくて、お嫁さんにしてもらうという話になっていたから」
小さな声で二人に答えた。
「私が孤児院を出る時の約束だったのだけど、カインクムさんは冗談半分だったみたいだったのよ。私だけが思っていただけなんて、何だか悔しかったの! それに」
そう言うと黙ってしまった。
黙ってしまったフィルランカを見ていた二人はお互いを見てから、また、フィルランカを見た。
「それに?」
モカリナが聞いた。
「カインクムさんは、私の婿探しをリズディア様に頼もうとしてたの。それが何だか悔しくて」
また、黙ってしまうと二人はお互いに視線を合わせると、何となく理解できたような表情をした。
「その夜は眠れなかったの。だから、キッチンに行って少しお酒を飲んだのよ。カインクムさんが時々飲んでいるのをグラスに注いで飲んでみたのよ。一口飲んでみたら甘くて美味しくて残りも全部飲んだの。そうしたら、体がとても暖かくなってしまって、気がついたらカインクムさんの部屋に居たのよ」
フィルランカは言葉を選んでいたのか戸惑ったように言ったのを二人は黙って聞いているだけで、フィルランカの次の言葉を待っていた。
「それで、寝ているカインクムさんの横で私が寝ていて、目が覚めた時に私が居たらカインクムさんも諦めてくれるかと思ったの。だから、服を脱いでベットの中に入って添い寝をしてたんだけど」
そこまで言うとフィルランカは黙ってしまったが、聞いていた二人は固唾を呑んだ。
「それで、添い寝をしているだけでは何だかおかしいかと思って、カインクムさんのシャツのボタンを外してみたのよ」
フィルランカは頬を赤くし、喋ったことで喉が渇いたというように残りの食前酒を一気に飲み干した。
「それだけだと変かなと思って、下も脱がして横にくっつくようにして添い寝して足を絡ませてみたのよ。そうしたら、太物のところが何かに当たってしまって、それがヒクヒクと動いたの」
フィルランカは耳まで赤くしていたが、その話を聞いていた二人も恥ずかしそうに赤い顔をした。
「そしたら、体の芯が熱くなるような気がして、孤児院から先に出て行った姉様の話を思い出したの」
孤児院を出た少女が進める道は少ない。
飲食店や販売店のようなお店で働ければ良いが、孤児院を出た大半の少女が訪ねる先は決まっていた。
フィルランカのように養女にと言われて貰われていく少女は稀な話だった事から二人にも、その先の行動は察しがついたようだ。
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