女友達  パワードスーツ ガイファント外伝

逢明日いずな

第1話 引越しの整理


 エルメアーナが南の王国に旅立ち、フィルランカは、カインクムと帝都の第9区画の新居への引っ越しが決まると、得意先に引っ越しの報告を入れる為に走り回り、夜は引っ越しの準備となり大慌てだった。

 得意先周りが終わると昼間から夜まで引っ越しの準備だった。

 フィルランカは、エルメアーナの残した衣類等も、生活に必要な最低限を残して梱包して、カインクムも店舗と工房の片付けで大忙しにしていた。

 そんな中、フィルランカがカインクムの押しかけ女房になった噂は勝手に一人歩きし始めていたが、引っ越しの為閉店していた事もあり、冷やかし目的の人達は、店の前をウロウロしては帰っていっていた。

 帝国臣民には、これといった娯楽施設は少ない。

 あると言えば、旅芸人一座の公演か、娼館、そして、酒場程度となる事から人の噂は大好物と言える。

 公演、娼館、酒場にしても金は掛かる。

 人の噂話ならば、道端で立ちながら、井戸の周りと、何処ででも無料で可能となる。

 そんな中、カインクムに若い押しかけ女房が出来たとなれば、臣民にとっては美味しい話となるので、二人を知る人達は面白半分で店を訪ねようとしても、入口は閉店の看板が掛かりドアも鍵が掛かっていた。

 結果としてフィルランカとカインクムは、噂のネタを仕入れようとする連中から遠ざかるようになっていた。


 帝都の第3区画からの引っ越しはツバイエンの手配した荷馬車と人夫によって速やかに行われ、第9区画へ移動していった。

 移動後も荷物を開梱し移すが、計画的な引っ越しでは無かった事もあり、詰め込んだ箱の中身が違っていたり、別の種類の物が入っていたりするので、引っ越し後の後始末に時間が掛かっていた。

 フィルランカの優先順序は、カインクムとの生活の確保、特に食事の準備が最優先になり、自身の荷物は後回しにして、その日着る物を確保できるようにだけして、キッチンとリビングを中心に整えていた。

 ある程度の目処が立つと食事の準備をと思い手が止まった。

「この辺りに市場って有るのかしら?」

 自分達の引っ越しの事で、第9区画のお店の位置も分からなかった。

「どうしよう」

 フィルランカとカインクムは、帝都の第3区画に住んでいたので、周辺の地理には詳しい。

 そして、フィルランカは皇城前の第1区画については、食べ歩きの際に立ち寄った店もあり、高等学校と帝国大学に通った事から問題ないが、第9区画は帝都の一番南に位置しており、第1区画と第9区画の間には第2区画がある。

 西側の第5区画は隣接しているとはいえ、そちらに行くのも第1区画以上に距離が離れており、別の区画まで行く事を考えると買い物の往復に大変な時間が掛かってしまう。

「考えていても仕方がないか」

 フィルランカは、買い物に出かけようと新居の外に出ようと準備を始めると呼び鈴が鳴った。

「あら、お店は開けてないのに変ね」

 キッチンで食事の用意を考えていたフィルランカが気になっているとカインクムが顔を出した。

「お前にお客さんだ」

 引越しの整理で忙しがって、今日の食事を考えていたので迷惑そうな表情を浮かべるが、カインクムは少し苦笑いをしていた。

「少し位、外に出たらどうだ? ここのところ引越しで大騒ぎだったんだから息抜きも必要だ」

「そうね。丁度、買い物にも行きたかったから、出てくるわ」

 フィルランカは、買い出しに出ようと思いカインクムの方に歩いていった。

 すると、カインクムは店舗の方に歩いて行ったので後に続いて行くと、店舗内にはモカリナとイルーミクが居たのでフィルランカは驚いた。

「「こんにちわ」」

 二人はフィルランカに挨拶をすると近寄ってきてフィルランカの両脇に立つと腕を組んだ。

「それじゃあ、カインクムさん。少しお借りします」

「気分転換ですから、早めに帰します」

 二人は、カインクムにことわりを入れた。

「えっ! 何? どういう事?」

 フィルランカは、驚いたようだが、カインクムは笑顔で3人を見送った。


 店舗から外に出ても二人はフィルランカの腕に回した腕を離す事はなく、そのまま通りを歩いた。

「ね、ねえ、何なのよ!」

 驚いているフィルランカに二人は笑顔で答えた。

「ちょっと、モカリナもイルーミクも、何なのよ!」

 すると、モカリナが残念そうな表情をした。

「あのね、私達は、あなたの結婚祝いをしたいの!」

「そうよ。突然だったから何も出来なかったのよ。だから、今日は付き合ってもらうわ!」

 イルーミクは、強めの口調で言ったので、フィルランカは、二人の話を聞いて、何となく納得するような表情をした。

「そうね、とりあえず、何も言わなかった事は謝るわ。ごめん」

 その言葉にモカリナはムッとした表情をした。

「謝ってもらうことは無いわ。私達はお祝いをしたいのよ。フィルランカがカインクムさんを慕っていた事は、知らなかったけど」

「まあ、私達にも言えないわね。……。でも、もう、一緒になったのだから、今まで言えなかった事もちゃんと教えてもらうからね」

 モカリナもイルーミクも、フィルランカがカインクムを慕うのは養父として慕っているのかと思っていたが、男として見ていたとは思っていなかった。

 結婚祝いとは言っていたが、実際は、フィルランカが結婚するまでの経緯を知りたかったが、エルメアーナが旅立つ日に、そんな無粋な事を聞く事は出来なかったので、こうやって機会を設けたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る