「記憶にございません」で許すかボケっ!
桔梗 浬
真実はひとぉ~つ!
ちょっと待て。とりあえず…落ち着こう。
気付くと俺は寝室にいて、トランクスと靴下だけ履いた状態で立っていた。しかも右手にはシェフズナイフを握りしめている。
そして…。見下ろせば知らない女性が血まみれで倒れていた。壁には彼女の血だろうか? 映画やドラマで見たことのあるような惨劇が目の前に繰り広げられている。
誰だ? こいつ…。
全く見覚えがない。しかも、ここはどこだ? 俺はなぜここにいる?
ちょっと待て。とりあえず…落ち着こう。
昨夜俺はどこにいた? 俺はモヤっている頭をフル回転させ考える。考えろ、思い出せ! 俺は何をしていた?
だんだんと、昨夜の記憶が蘇る。
そうだ。風呂上がりにスーパーで買ってきたトリ肉を、ソテーにしようとして…ナイフを取り出し…た。そうだ。俺はキッチンで料理をしようとしていたんだ。
それからどうした?
トマト缶を開けて…うん? 俺は何を作ろうとしていたんだ? いやいや、そこじゃない。今はレシピを思い出す段階じゃない。なぜ俺がここにいるのかを思い出すんだ!
俺はキッチンドランカーだ。だからきっとキッチンで酒を飲んでいたはず。はずってなんだよ。落ち着け俺。確かに俺は酒を飲もうとした。その時、そうだ! その時だ。トマト缶を倒し、あちゃーってなったんだ。
「って、ことは…これはトマトなのか?」
俺は頬についた液体をペロリと舐めてみる。
しょっぱい…。トマトじゃないのか?
俺は思いっきり床に唾を吐きだした。まだ口の中に鉄っぽい苦味が残ってる。ってことは今のは、彼女の血なのか? 俺、血を舐めたのか? おぇっ。
ますます訳が分からなくなってきた。
遠くで、サイレンが鳴っている。
「待て待て、落ち着け俺。とりあえず、落ち着こうよ」
誰に言うわけでもなく、自分に言い聞かせる俺。この状況は、限りなく俺が彼女を殺害した様に見える。いや〜人ごとだ。「記憶にございません」で済ませられるのだろうか? 俺、政治家になっていればよかった。
いやいや、今はそんなこと考えている暇はない。
俺が彼女を殺したと仮定しよう。靴下を履いているから足の指紋はとられないとする。手にはナイフ。しかも素手で触ってる。
あちゃぁ〜〜〜〜。さっき、ぺっ。ってしたよ。しちゃったよ。俺の痕跡残ってる。ってことはさー、俺が刺してなくても、記憶にございませんって言っても、物的証拠は俺が殺したことを示してるってことだよね??
俺、弁護士の友達いたかな?
そんなことを考えていた瞬間、激しく扉を叩く音が聞こえた。
「上野さん! 上野さん!」
「げっ? 警察!? 上野って誰だよ。俺じゃない。ってことは、この女の名前か?」
バンっ!
激しい音と共に、土足の男どもが室内に乱入してきた。そしてこの無残な室内をみて唖然としている。
「お、お前がやったのか?」
「い、いや…。その…、記憶に、記憶にございませんっ!」
その場に氷のように冷たい空気が流れた。
「あ…えっと」
「とりあえず、署までご同行を」
「えっ? えっ?」
俺は両脇を抱えられ、ナイフを取り上げられ、引きづられていく。
「いや、俺、本当に」
「話は署で」
「嫌だーーーーーーーーーーっ。と、と、とりあえず」
「何だ?」
「とりあえず…服を着させてくださーい」
END
「記憶にございません」で許すかボケっ! 桔梗 浬 @hareruya0126
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます