第51話 武闘家の先輩方、おなしゃす


 

「では海成さん、俺達はここでっ! 」

「海成さん、またねっ!」


 地下4階の社員食堂で昼食を済ませた俺達はその場で解散になった。

 ちなみにこの階には食堂の他、鍛冶屋、雑貨屋など冒険者関連の店舗が多く並んでいる。

 きっとこれからお世話になることもあるだろう。


 そんな俺が今から目指す場所、それは地下2階。

 そこでは戦闘訓練を行うための部屋がいくつかあった。

 いい意味で殺風景というか、まぁ要は何もない部屋なのである。


 地下4階から地下2階へ。

 この階ならば階段が使える。


 階段なんかあるんかいっ!

 と初めは思ったが、それは1階から地下4階までのみの移動らしい。

 まぁたしかに階段がないとこんな多くの冒険者、移動できないわな。

 エレベーター制限人数少ないし。


 ということで俺は地下2階へと階段を昇る。

 そして瞬く間に目的の階へと到着した。


 この階はいくつもの部屋に隔たれており、A1、A2、A3、A4とそれぞれ番号を割り振られている。


 たしかA2に向かうよう言われたけど、本当にここなのだろうか?


「セイッ―ヤァ―ッ!! セイッ―ヤァ―ッ!!」


「「「セイッ―ヤァ―ッ!! セイッ―ヤァ―ッ!!」」」


「もっと声出せよ――っ!! 」


 すんごい声出してる。

 部活かな? ここは高校なのかな?


 この部屋に入るか入らないかと押し問答していると後ろから、


「ありゃありゃありゃっ! この人武闘家期待のホープ、戸波なんとかって人ちゃう?」

瑞稀みずき、この人は戸波海成さんだよ。期待のホープとか言うならちゃんと覚えとかないと」


 振り向くとそこには明らかにスポーツ女子と言わんばかりの服装をしているショートヘアの女性。

 すらっと引き締まった体のラインの割には出るとこ出ているっという目のやり場に困るようなスタイルをしていて、且つスポーツブラと短パンというコーデで露出が多いのが余計気になる。


 その横にはこれはまたどう見てもパソコン部主将という格好をした男性。

 いや、偏見はいけないな。


「あーごめんごめん。海成くんやったな。自分合同訓練受けに来たんやろ? 入らへんの?」


「え、あぁ今入ろうかなって」


 グイグイ話してくるため、少し……いやかなり圧倒された。


「ほな一緒に入ろうや。ウチも武闘家やねん。仲良うしてな?」


 この瑞稀さんという方、俺の手を両手で握手してきて、ブンブンと振ってくる。

 ちょ、強い強い……加減を知らないのか、この子は。

 

「武闘家のこと全然分からないから色々教えて下さい。よろしくお願いします」


 とはいえ武闘家の先輩だ。

 これからお世話になることもあるだろうし、しっかり挨拶をする。


「敬語なんかいらんいらん。ウチは早川瑞稀はやかわみずき。海成くん可愛い顔しとるし20代くらいやろ? ウチも20代やし全然タメ口でええで。あ、あとコイツも20代やからタメ口でええからな」


 瑞稀が指差した方にはパソコン部の彼。


「おい、誰がコイツだ。どうもボクは白石修斗しらいししゅうと。君のことはねるさんからも聞いてる。よろしくね」


「え!? ねるさん!?」


「あぁ修斗こう見えて研究科やねん。ってどう見てもそうか! 修斗なんかゆーてイケイケのサッカー部みたいな名前しとんの相変わらずおもろいわぁ! 海成くんもそう思うやろ?」


 彼女は腹を抱えて笑っている。


「は、ははは」


 一応俺も軽く笑ってみた。


「名前負けしてて悪かったな。ねるさんはうちの研究科にもよく顔を見せて下さるんだ。じゃ、ボクはこの辺で失礼するよ」


 そう言って修斗はこの場から去ろうとしている。


 なるほど、そういうことか。

 ねるさんも色々研究してるみたいだし、その繋がりと思えば納得だ。


「修斗、助かったわ。ありがとー!」


 瑞稀は去っていく修斗の背中に手を振る。

 それに対して彼は背中越しに手を挙げた。

 その感じを見るに、2人は相当仲が良く、お互いに信頼しているのだろう。

 そんな空気が伝わってきた。


「さっ! ウチらも中に入……」


「おい瑞稀っ! 修斗に武器を修理してもらってたにしちゃ遅いなって思ってたが、何こんなとこでくっちゃべってんだ?」


 その声の主は俺達の目的地、A2の入口からヒョコっと顔を覗かせていた。

 久後さんと同い年くらいかな。

 彼も久後さんと負けず劣らずの体格をしている。


「げっ……リーダー。ちゃいますって! 彼に自己紹介しとっただけですやん」


 瑞稀はまるで盾にするよう俺の背後に隠れてそう言った。

 おいおい、この子マジで勘弁してくれよ。


「彼?」


 そのリーダーとやらは俺の顔をギロっと見てきたかと思えば、


「あーもしかして君があの伝説の冒険者、戸波海成くんか?」


 と言い放つなり、次はキラキラした目でこちらを見てくる。


「ど、どうも……。あの時は運が良かっただけですけどね」


 あまりヨイショされても困るので、運という予防線を張っておく。


「運も実力のうちって言うだろ? まぁ中に入りな! 今日からお前は俺のファミリーだ、ガハハッ!」


 リーダーは俺に肩組みをしてきてA2内へ誘導してきた。

 さりげなく体を抜け出そうとしてみたが、彼の肩組み固定力がハンパなさすぎてびくとも動かない。

 おそらくこの人の強さも化け物級なんだろう。


 中に入ると、学校の体育館ほど広い空間が広がっている。

 すげぇ、めっちゃ広いじゃん。


 そしてそこには俺達含めて10人ほどの人数がいた。

 リーダーを含めた皆、気合を入れた空手着のような服を着ている。

 どう見ても武闘家だ、これは。


「へへへっ! 誰と戦ってもらおうかな〜」


 リーダーはポロッと小さく呟きながら、楽しそうに誰かを選ぼうとしている。


 絶対実力を見ようとしてるじゃん……。

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