第50話 立ち入り禁止なのに……
ここが地下5階か。
目の前には壁一面真っ白で何もない廊下。
立ち入り禁止のくせにしっかり電気は点いている。
おかげで何も怖くない。
「なんか……明るいな 」
「う、うん。普段電気は点いてないんだけどな…… 」
「ぼ、僕もこんな明るい地下5階見たことない…… 」
2人は少し顔を青ざめ、そう呟いている。
え、これヤバいやつ……?
「そういえばこれどこからが立ち入り禁止なんだ? 」
「あ……えっと、奥にドアがあるの見えますか? あの先が立ち入り禁止なんです 」
ヨウスケが指差すのは、この廊下のずっと先。
たしかによく見ると一番奥にドアがある。
特に大きいとも小さいとも思わないごく普通のものだ。
一体あの奥に何があるっていうんだ?
「2人ともっ! エレベーターがっ! 」
ヒナが突然大きな声を出した。
「ヒナさん、どうしたんだ? 」
俺がそう聞くと、
「海成さん、エレベーターが…… 」
ヨウスケはエレベーターを指差して顔をこわばらせている。
「エレベーター? 」
俺もそっちに目をやると、2人が驚いている理由が分かった。
階を移動しているのだ。
それを聞けば一見普通のことに思える。
そりゃ誰かが押せば、エレベーターがその階まで迎えにいくのだから。
だがそれは4階で止まり、下へ降りてきている。
つまり誰かが立ち入り禁止の地下5階へ来るということだ。
俺と一緒の見学?
いや、他に研修の人はいないはず。
じゃあ誰が……?
そう考えている間に、エレベーターは到着して中が開かれた。
青年だ。
若い、20代前半くらいか。
しかしなんと男前なのだ。
今風の韓流顔というか恐ろしく整った顔立ちに、190cmはあろう身長。
世の男が憧れる理想の男性像ともいえよう。
黒髪ってのがより彼の清潔さを表している。
「玲央くん…… 」
ヨウスケがそう呟いた。
玲央……なんか聞いたことある名前だな。
それもすっごい最近。
その玲央くんとやらは俺達に見向きもせず、エレベーターを降り、通り過ぎようとする。
なんともいえない強者の雰囲気。
池上や浦岡、奴ら以上の何かを感じさせられる、そんな感覚だ。
ヨウスケとヒナも蛇に睨まれたカエルの如く体をこわばらせている。
そしてすれ違った後、彼は口を開き、
「ヨウスケか。ずいぶん弱くなったな。そんなんじゃ大事な人も守れないぞ 」
「れ、玲央くんこそ変わっちゃったね。昔はそんなに冷たくなかった。何があったの? 」
「優しさで人を守れるのか? 強くなれるのか? 強さこそ正義。実際俺はA級冒険者になれた。D級のお前と違ってな 」
「強くなれてもお姉さんを心配させてるんじゃ世話ないね……うぐっ! 」
話の腰を折るように、玲央はヨウスケの胸ぐらを掴んだ。
それは鍛錬されたものの動き。
実際速すぎて分からなかった。
それにお姉さんって。
……!?
もしかして紗夜さんの弟か!
「お前、殺されたいのか? 」
これは殺気――!?
やばい、止めなきゃっ!
そう思って俺が一歩踏み出そうとすると、
「心配するな、こんなやつ殺す価値もない 」
そう言って玲央は掴んでいたヨウスケを乱暴に放った。
こいつ、俺が止めようしたことを横目で判断したのか?
A級冒険者、さすが見えている景色がかなり違いそうだ。
「お前達に構っている暇はない。俺は先に行く 」
玲央は奥の部屋へ向かおうとしている。
「ま、待って! 玲央くん来週の武闘大会出るんでしょ? 僕が勝ったら教えてよ。君に何があったのか 」
「俺に勝つ? 死にたいのか? 」
「死ぬつもりはない。ただ知りたいんだ。友達の玲央くんが変わってしまった理由を 」
「相変わらず鬱陶しいやつだ。そんなに死にたきゃ勝手にしろ 」
彼はそう言い残した後、廊下を歩いていった。
立ち入り禁止のドアに向かって。
あのドアの先には何があるんだ?
お前はそこに入って何をするんだ?
そんなことを聞きたいところだが、最早そんな空気ではない。
「玲央くん……その先にあるものが君を変えたのか? なら僕はこの会社を許せなくなる 」
ヨウスケの強く握り込んだ拳はわずかに震えている。
彼を変えた何かに怒りを覚えているのだろうか。
「ヨウスケ、止めなくてよかったのか? 」
「はい、止めようとするときっと戦いになる。社内での戦闘は厳禁ですから。しかし武闘大会は別。来週の大会で玲央くんを倒してあの奥に行く理由もろとも聞いてやりますよっ! 」
「しかし相手はA級冒険者だろ? 勝つ見込みは? 」
「もちろん実力差はあります。でも玲央くんとは本当に仲良かった。だからこそ彼の弱点も知っています。そこを突けば勝てるかもしれません 」
「かもしれませんって……。よくそれで勝負挑んだな 」
「へへっ! 」
ヨウスケは頭をポリポリ掻いて照れた素振りを見せる。
褒めてないし、相変わらず可愛くない。
「ヒナさん、彼氏こんなんだけど大丈夫か? 」
「ええ。まぁ武闘大会では観客も多いし、もちろん回復役も多い。死ぬことはないと思うけど 」
ヒナも心配そうにしている。
そりゃ彼氏がA級冒険者に喧嘩を売ったのだ。
心配しないわけがない。
「それならいいけどさ 」
たしかに武闘大会という名がある以上ルールだって存在するはず。
大事に至ることはない、そう願いたい。
「じゃあ海成さんっ! これで社内見学は終わりですよっ! 」
「終わり? ってことは次は? 」
「海成さんお待ちかねの武闘家合同訓練ですっ! 」
いよいよ同職業の先輩達と会えるのか。
ゴマすりすりしてやるぜ。
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