第52話 お決まりの親善試合
「へへへっ! 誰と戦ってもらおうかな〜」
リーダーはポロッと小さく呟きながら、楽しそうに誰かを選ぼうとしている。
絶対実力を見ようとしてるじゃん……。
それに誰もリーダーと目を合わせようとしない。
きっとみんないい思いはしてきてないんだろうな。
しかもさっきはあんだけベラベラ話していた瑞稀でさえ押し黙っている始末……。
「よーし決めたっ!」
リーダーのその言葉で一同、同時に肩を震わせた。
何!? そんな怖いことがあるの!?
「瑞稀っ! 一発やってこい!」
女性に一発だなんてとんだエロ親父だ。
しかしそんなセクハラ発言ものともせず、瑞稀は何かを諦めたかのようにため息をし、部屋の中央へ移動する。
「海成くん、来て早々ごめんやけど武闘家の恒例行事に付き合ったってか」
「恒例行事ってこの手合わせのこと?」
俺は彼女に続いて部屋の中心へ向かった。
「ん〜そやなぁ。この手合わせのことと言えばそうやし、ちゃうって言ったらちゃうかな〜」
瑞稀はよく分からないことを言いながら戦い前のストレッチらしきことをしている。
体を屈伸させたり、前へ倒したりするのでスポブラから見える谷間がさらに強調されて……って俺は何を見ているんだっ!
向こうは真剣に向き合ってくれているのに……。
「わかった。とりあえず戦えばいいんだな?」
俺の言葉に彼女はニヤリと笑い、
「せや、せっかくやし戦いを楽しむかっ! 武闘家は拳で語らんとなっ!」
戦闘態勢に入った。
「ようしっ! 2人とも戦う準備はできたようだな」
リーダーは一定の距離をとっている俺と瑞稀の間で立ち止まり、司会進行を始める。
「おうよ!」
彼女は気合いの入れた返事を返す。
「おっす!」
俺もちゃんとこの流れに乗っておく。
「一番強い職業はっ??」
大きな声でリーダーは問うてきた。
え、何が始まんの!?
「「「武闘家です!!」」」
「なら世界を救うのはっ??」
「「「武闘家です!!」」」
おい、どこの宗教団体だ……。
めちゃくちゃ武闘家を愛してるじゃねぇか。
「いざ尋常にっ! 開始っ!」
え、急に始まった!?
「海成くん、いくでっ!」
「お、おう!」
瑞稀の言葉に返事をした時、すでに彼女はちょうど俺の真横から蹴りを放ってきていた。
「え……」
めっちゃ攻撃速度速いじゃんっ!
これじゃ直撃だっ!
(専用パッシブスキル【 自動反撃 】を発動します)
瑞稀の蹴りが迫る時、久しぶりにあの音声が流れた。
それによって俺の体が半自動的に身を守ろうとし、咄嗟に彼女の蹴りを片手で受け止める。
「なっ!? 蹴りを見ずに……!?」
よほど警戒したのか、彼女は足を引っ込め大きく後ろへ下がった。
さすがに今の反応じゃ不自然だよな。
瑞稀の動きを見ずに蹴りを片手で止めたのだから。
こういうところ【 自動反撃 】さんは考慮してくれないから困る。
「へぇ。自分B級冒険者を倒したってのもあながち嘘じゃないようやなぁ〜。ウチの蹴りを簡単に止めるなんてここじゃリーダーくらいなもんやで」
たしかに俺を見る周りの目が少し変わった気がする。
俺に憧れている目……いや違うな、珍しいものを見る目だ。
「ま、まぁたまたまだって」
「ウチの蹴り、たまたまで止めれるわけないやろっ! そっちがそうやって誤魔化すなら本性暴き出すまでやっ!」
彼女は再び俺に駆け寄ってくる。
しかもジグザグに距離を詰めてきた。
「おっら―っ!」
うわっ!
ものっすごい回し蹴り。
からの上段突き。
それに続く蹴りと突きの応酬。
物理技だけで考えると、池上や浦岡よりもずっと格上に感じる。
これに魔法が加わると話が変わってくるだろうが。
何せそれくらい勢いのある攻撃ってことだ。
しかし間一髪で避けていく。
「なんで全部当たらへんねんっ! ほんで海成くん、手抜いとるやろ?」
瑞稀はそう言いながらも怒涛に攻めてくる。
「いや、もう守るだけで精一杯だって!」
俺も【 自動反撃 】さんのおかげでなんとか彼女の攻撃を避けたり受け止めたりできている。
しかしなぁ、可愛い女の子に手をあげるっていうのが自分的にどうも気が進まない。
その意思をスキルが汲んでくれているのか分からないが、決して彼女へ反撃を行うことなく、攻撃をいなし続けている。
すると瑞稀はピタッと攻撃を止め、一度距離をとった。
戦いを諦めた……?
いや、そんな風には見えない。
なぜなら彼女は新しい構えをとっているからだ。
「おい、あれってマズイんじゃないか!? 」
1人の武闘家青年がそう言って焦り始めた。
「ヤバいな 」
「止めなくていいのか……?」
「でもリーダー笑ってるぞ」
その焦りが伝染していっている。
にしてもリーダーが笑っている?
チラッと目をやると彼は試合開始前より笑顔だ。
「瑞稀も本気だなっ! さてどうする新人くんよぉ〜!」
さらには手を叩きながら煽ってくる始末。
戦いを楽しむ点においてはほとんど戦闘民族と変わりないな。
「ごめんな、海成くん。とりあえず死なんようにだけしといてくれ!」
「え、死ぬって一体何するつもりだ?」
「【 我流拳技・樹海の手 】」
彼女の両手は肩から指先にかけて、スキルによって現れたいくつもの大きな木の根が複雑に絡み合い、一本の樹海の手を作り上げた。
いや、左右だから二本か。
「すげぇ……。でも手が大きくなっただけじゃ……」
俺の反応に彼女は鼻で笑い、
「まぁ見とき。行くでっ!」
その掛け声とともに彼女が強く地面を蹴ると、一瞬で俺の目の前まで飛んできた。
「なっ!?」
今までの速さが遊びだったかのような……。
「ごめんな!」
彼女はそう言って樹海の手を振り抜いてくる。
マズイッ!
これはさすがに避けれない。
てことは……。
(専用パッシブスキル【魔力吸収】を発動します)
ここでそれはヤバいって。
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