『身代わり地蔵』

苺香

第1話

 『身代わり地蔵』

1中崎町商店街外れ(夕)

  長屋が連なる一帯。外は小雨、商店街の

  街灯は霧でぼやけている。

  朱美(58)が隣家の引戸を開ける。

朱美「佳世さん。旅行から帰ってきました。

  お元気でしたか?」

佳世「あぁ。朱美ちゃん。お帰り。こう天気が悪いと神経痛がひどくてねぇ。相変わらずだけどね。土曜日は梅田に出ようと思ってね。娘が帰ってくるらしくて。朱美ちゃんのお店にパイソンのバッグあるでしょ。あれ頂くわ」

朱美「毎度、ご贔屓にして頂いて、ありがとうございます」


2朱美の店(夜)。

  辺りをひっかき回し探し物をする朱美。

朱美「どこに、仕舞ったかなぁ。パイソン」


3中崎町商店街外れ  

辺りはサイレンの音が響き、人だかりができる。慌てておもてに出る朱美。

朱美「何かあったんですか?」

女A「何かって。あんた。佳世さんだよ」

朱美「佳世さんがどうかしましたか?」

女A「どうもこうも、ひどいもんだよ」

朱美「ひどいって…佳世さん大丈夫…」

  女Aは大威張りで首を横に振る。

女A「中から、”顔中に斑点”とか。あげく”絞殺”って聞こえたしね。あ~。この辺も物騒になったもんだわ。独居老人なんて周りに迷惑でしょ。勘弁してほしいわ。

  あんたも早く引っ越した方がいいかもね」 

  朱美は女Aを睨みつける。


4朱美の店(夕)

  電話を片手に右往左往する朱美。

朱美「ねえっ。大変なの。佳世さんが…事件に…急いで…帰ってきてあげて。どうしたらいいの。やだ。もう。独りにしないで…」

  店舗の引戸の隙間から、くねくねと地面を這う生き物が顔を覗かせる。

  道路わきに佇むお地蔵さんは、目をそらしそっと前を向いた。

                               完

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