異世界転移しちまったがトリあえず食わねえとな

一陽吉

異世界サバイバル

「トリあえず、トリだな」


「そうね」


「うまそうだ」


 軽くボケてみたが見事にスルーされ、さらにそれをスルーして、広貴ひろき樹乃じゅのと森にある木の陰から一羽のトリに狙いを定めた。


 二人は高校二年生になる男女の幼なじみであり、制服姿のままだが、原っぱをのんびり歩くトリを狙うのはとても重要なことであった。


 ミリタリー好きなくらいで、どちらかといえば平凡な高校生であるが、ある日の帰り道、どの宗教にも属さない女神によって魔力をもった動物たちが棲む世界へと送られた広貴と樹乃。


 女神の目的はこの異世界の生態系に刺激をあたえるためで、現代日本のように文明が進んでいるわけでもなく、人の住む町や村などもないのだが、女神は二人に各種、チート能力やスキルを与えた。


「──となれば、ここは火力と連射力で、M2ブローニングがいいな」


 広貴がそう言うと、目の前に三脚架付きの重機関銃が現れた。


「それじゃあ私は余計なのが近づいて来ないように警戒しておくよ」


 そう言って役割分担を話す樹乃の両手には,、銃剣が取り付けられたアサルトライフルのFA-MASがあった。


 何も無いところから銃器を出す二人だが、それは女神より与えられたグループ能力の『銃器召喚』によるものだった。


 これにより一人一丁ずつではあるが自由に銃器を出すことができる。


「そんじゃ、やりますか」


「いいわ」


「よっしゃ」


 樹乃の了解を受け、広貴は機関銃の左右にあるハンドルを握ると、逆Y字になってる押金式のトリガーを両手の親指で押した。


 その瞬間、重くて鈍い銃声が森の中に響き、銃口から放たれる重弾が一羽のトリに分速七百五十発の勢いで次々と命中していった。


 だが、大型ダンプ一台ほどの大きさをしたトリは、にわとりの容姿と同じく飛ばないが、体格に比例した魔力を帯びているため無自覚に展開されている魔力の壁が弾丸と肉体との接触を阻んでいた。


「撃った弾のほとんどがあたってるんだけどな」


「でも、おしているわ。そのままいける」


 五発に一発は曳光弾えいこうだんのため、目視での方向確認では間違いなく弾丸は一点に集中していた。


 軍用機を破壊する威力の弾丸を受け止め、薄紫色の波紋をいくつも広げて防いでいた魔力の壁だったが、その連射に耐えきれずついに崩壊。


 弾丸たちは防ぐもののない肉体へ着弾して、肺や心臓など命に直結する部位に風穴をあけると、トリは断末魔をあげながら、その場に倒れた。


「ふう、ようやく仕留めたぜ」


「おつかれ」


 大きく息をはいて言う広貴に、樹乃はねぎらいの言葉をかけた。


 そして、役目を終えた銃器はすっと消えたが、樹乃の手には銃剣だけが残った。


「それじゃ、解体の方を頼むぜ、


「分かったわ」


 そう答えると、樹乃は銃剣を片手にトリへ向かって駆け出し、目にもとまらぬ早わざで、解体した。


 これは樹乃に与えられた個人スキル・職人で、広義に職人の技術を繰り出せる。


 ゆえにさばくことも、樹乃が職人がするものと認識すれば一流の腕を発揮することができるのである。


「お見事! いま食う分だけ残して、あとは冷凍庫に入れておくぜ」


「うん」


 樹乃が頷いて答えると、原っぱのど真ん中に迷彩色が施された二階建て住宅ほどの大きさをした四角い建物が現れた。


 広貴の個人スキルによるものであり、通称どこでも基地。


 スイッチをオン・オフするように基地を出したり消したりできるものだった。


 しかもソーラー発電で、ある程度の電気も使える。


 そして、それに付随するもう一つの四角い建物がトリの肉があった場所にあり、出現と同時に収納していた。


 武器の召喚や技術、居住施設があっても、食べ物は自分で賄わなければならないため、食料の保管は重要なのだが、基地にはしっかりとそのための設備があった。


「さて、腹も減ったし、中に入って食べようぜ」


「そうね」


「トリあえず、トリだけ、だけどな」


「仕方ないわ。食べられないよりまし」


「いつか親子丼とか食べたいな」


 ──異世界でも変わらないやり取りをする二人に不安や恐れのような気持ちはなかった。

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