異世界電話

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

電話しちゃった

「とりあえずさ、電話しちゃった」


 この世界に、初めて電話が通った。


「聞こえておりますわ。カナタさん」


 相手である男爵令嬢のミリアさんも、受け答えしている。


 といっても、私はスマホ。


 相手のお嬢さんは、目の前にいる。

 アンティーク電話片手に、私と話していた。

 

「直接お話わけには、参りませんの?」


「そういうマジックアイテムだからね」


 私たちは本当は、身分が違いすぎる。


 相手は男爵令嬢。

 私は冒険者。しかも転移者だ。

 冒険どころか外に出る機会もないミリアさんは、外の世界に憧れていた。

 わたしが屋敷にいると、決まって旅の話を聞きたがる。

 旅の話をする条件で、わたしはこの屋敷を宿代わりにさせてもらっていた。


「こうしてお話するだけでも奇跡なのに、また奇跡を起こされるなんて。カナタさんは、わたくしをどれだけ驚かせればよろしいのです?」


「この技術をすんなり受け入れられるミリアさんの方が、すごいってば」


「電話なんて、手紙で十分」と、商業ギルドでさえ相手にしてもらえなかったんだから。

 超科学技術過ぎて、コスト面の観点から、割に合わないんだって。


「商業ギルドともあろう方が、なんと器の小さい」


「電気自体が発展していないからね。しょうがないよ」


「では当分、わたくしがミリアさんを独占なんですわね? それなら、まだ発展しなくてよろしくて」


「そうだね。気長に文明が進むのを待つよ」


「もう、そういうことではなくて」


 ミリアさんが、肩を怒らせた。

 なんだってんだよぅ?


「とりあえず、お茶でもどうぞ」


「ありがとう。ああ。落ち着くねえ」


 しばらく、冒険などの旅はしない。

 なにより男爵令嬢との会話が、快適すぎる。

 私の唯一と言っていいほどの、理解者なんだもん。


「ですわね。電話が発達したら、もっと遠くでもお話はできまして?」


「可能だよ。あとは、洞窟の中でも話せるように改良を施すよ」


 地下でも話せるようになれば、もっと実用的な用途が見えてくるはず。

 

「声が聞けるだけでも、わたくしとしては楽しいですわ」


「それは、よかった」

 

「会ってお話するのが、一番なんですが。声だけの関係っていうのも、特別感があってよろしいですわね」


「気に入ってもらえたら、うれしいよ」


 そういえば、話せる時間帯を決めておかないと。


「何時頃、話せそう?」


 まさか異世界まで来て、電話する相手の自由時間を聞くことになるとは。

 ママの世代じゃあるまいし。


「とりあえず、就寝前はいかがでしょう? それ以外は、学校か、家族と談笑していますから。夕飯直後でも、家族と語り合っているかも」


「寝る前だね、了解」


 一旦、電話を切った。


「もしかして、メールの方が良かった?」


 よくよく考えたら、手紙の文面をスマホに転写する技術にすべきだったか。

 

「お手紙ですか? いいえ。それだと一年くらい、文面を考えてしまいますわ」


 おほほ、と、ミリアさんが笑う。


「じゃあ、数日したらまた旅に出るよ」


「わかりました。お気をつけて」




 数日後、わたしはミリアさんと電話越しで語り合った。

 

 ミリアさんからかかってきたので、驚いたけど。


 約束の時間帯でもなかったし。

 

「どうしたの!? なにかあった!?」


「いえ。とりあえず、通じるかどうか、電話してみましたの」

 

 ミリアさんが、おほほと笑った。

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