第3話 密室の謎
「そう言えば、密室と仰ってますけど、奥の扉も鍵がかかっていたのですよね?」
「あ、そちらですが、調べてもらえるとわかるのですが、カギ穴が塞がれておりまして、開けることができなくなっているのです。ですので、この扉はないものとして考えておりました」
「なるほど、ちなみに、他に隠し扉とか隠し通路は?」
「無いはずです。ですよね? 公爵様」
「ああ、この部屋に出入りできるのは、この扉と、そこの扉、それから窓だけだ。それ以外には隠し通路も隠し扉も存在しない!」
公爵自身がそう言うのであれば、おそらくその3か所以外には無いのだろう。
犯人はおそらく施錠した上で、あそこから出て行ったに違いない。
私は、ここまでの聞き込みで犯人の目星と殺害方法、密室についての謎については大体の見当がついていた。
しかし、肝心の動機が不明であった。
「そもそも、あの人に彼を殺す動機があるとは思えないんだけどな……。うーん」
心当たりが全くなかったので、動機についてはいったん置いておいて、一つ気になっていることを確認することにした。
「オスカー公爵様。そう言えば、今日、私を呼んだ目的は何でしょうか?」
「一週間前の婚約破棄の謝罪がメインなのだが、事実関係の整理をしようと思ってね。君は婚約破棄をされたわけなんだけれど、それ以外にもレオルドの『真実の愛』の被害者がいてね」
「なるほど、被害者が私だけではなかったと、そう言うことですね」
私は、そのことに心当たりがあった。
今日の晩餐会の参加者の中にいる、クリシュナ・ポート子爵令嬢とカティア・オランド伯爵令嬢なのだが、ずばりレオルドの浮気相手である。
本人は気づかれていないと思っていたようだが、あそこまで堂々と浮気されて気づかれないわけがなかった。
一方で、私の方も所詮は政略結婚と諦めていたこともあり、彼の浮気については見て見ぬふりをしていたのだった。
そう言えばイリーナは浮気のことを知っていたのだろうか……。
「ちなみに、イリーナ様。彼の浮気については、どこまでご存じだったのでしょうか?」
「浮気? ですか。どなたとですか?」
私が浮気について尋ねると、明らかに動揺した様子で聞き返してきた。
「ええと、そこにいるクリシュナ様とカティア様です」
浮気相手の二人の名前を出すと、二人とも苦々しい表情をする。
イリーナもやや戸惑った様子になったが、胸の前で両手を握り締め意を決したような表情となった。
「はい、そこのお二人については存じ上げておりました。もちろん、最初から知っておりました。ですが、彼は彼女たちよりも私の方が大事だと仰ってくださいましたので、特に気には留めておりませんでした」
「ふむ、そうなると、イリーナ様も浮気には同意されていたということですか?」
「浮気自体は許せません。ですが、この国の貴族は側室を持つ方も少なくありませんから……。他の女性と付き合うのも致し方ないと考えておりました」
意外にも、彼の二人との浮気については把握していたようだ。
彼女の態度に違和感を感じたものの、現在は平静を取り戻しており、特に変わった様子はなかった。
「ちなみに、クリシュナ様、カティア様も浮気についてはご存じでしたか?」
「もちろんですわ。側室であっても、公爵家とつながりができるのであれば問題ありませんでしたので……」
「私の方もですわ。そもそも私は子爵家ですから、公爵家とのつながりは是非とも欲しいと思っておりましたので……。ですが……」
「ですが?」
カティアが含みを持たせるような言い方をしたため、私は追及することにした。
「彼は突然、私たちと別れると仰られたのです!」
彼女の言葉に、クリシュナは下唇を噛んで悔しそうな表情をし、私とイリーナは呆然としていた。
「それは事実ですか?」
私はもう一人、クリシュナに聞いてみることにした。
「事実ですわ。私たちの何が気に入らなかったのか、まるでわかりませんの」
「ちなみに、それを理由に殺害したとかは?」
「「ありえません!」」
「そもそも、公爵家に取り入るための政略結婚なのですよ。レオルド様に別れを告げられたなら、リチャード様かリディス様を狙えばいいだけですわ」
それはそうだなと、彼女の主張を聞いて納得した。
そこで、私はあることに気づいたので、最後に確認することにした。
「そう言えば、イリーナ様はかなりの潔癖症だと伺いましたが……」
「はい、ご存じかと思いますが、血を見るのも怖いですし、不潔なものを見るのも耐えられません。男女の営みについては……彼とであれば問題ないだろうと考えてました……すみません、あまりそういった話は……気分が悪くなりますので……」
その言葉や態度から、私の中で最後の1ピースがぴたりとはまった。
この屋敷に現れるという亡霊、そして、中途半端に自殺に見せかけた殺害方法、そして、真実の愛という彼の言葉。
さらには私との婚約破棄とクリシュナとカティアの破局。
私はおもむろに懐から愛用のパイプを取り出すと口にくわえる。
そして、それを右手に持ちながら話し始める。
「なるほど……。やっと、全ての謎が解き明かされました」
そう言いながら、彼らの前に立った私は、関係者の中の一人を指さした。
「犯人は――あなたですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます