第7話 開花

 宙と大地を秘めし水槽。

 飼い主のいたずらで運命が決まる。


 そこにいるのは神、あるいは大いなる者。


「ふふ、少しいたずらしすぎちゃったかしら。まあ、飽きてきちゃったしちょうどよかったわ」


 宙が漏れ出る空間。いくつも並ぶ地球に似た球体の水槽。


「少し気になる生命もいたわね。他の水槽に移してもう少し飼ってみようかしら」




◇◇◇




 魔物がはびこる、剣と魔法の世界のとある荒野。


「ほんとにここに飛び込むんですか?」


 目の前には紫色の瘴気が充満した【怪物の水槽】と呼ばれる大穴がある。


 大穴の中は丸い球体の水槽のような形をしており、その中から無尽蔵に魔物が湧いててきて人々を困らせている。


「ここの調査が今回の仕事だもの、しかも王様直々のよ?断れないよ」


「なんで王様なんかに目をつけられちゃったんですかね」


「ほかの世界から飛ばされてきて特殊な力持ってるんだもんそりゃ目をつけれるでしょう?」


 にこやかに笑いながら、手を差し伸べてくる。


「ほら、いくよ」




―――


「どうしたのひかりちゃんそんなニヤニヤして」


 怪物の水槽の調査の帰り道。舗装も何もされてない道とも呼べない場所をまるで散歩をしているかのように二人は歩く。


「うれしくなっちゃいました」


「うれしい?」


 ひかりは思いつく言葉をゆっくりゆっくり紡ぎ始める。


「前の世界では孤独でした。人と上手く話せなくなっておばあちゃんにも迷惑をかけて、ほんとに君はここにいてはいけないんだよと追放された気分でした」


 つぼみは黙ってうなずき先を促すように少しうつむきがちに横を歩くひかりの顔をじっと見る。


「でも、こっちに来てからはみんな良くしてくれるし、人と面と向かって話せるようになりました」


 なにより――


 そう続けたひかりは、嬉しそうに笑いタタタっと弾むような足取りでヒカリの前を行く。

 そして、くるっとこっちに振り向きつぼみを見た。


「蕾さんに会えましたから!私はもう孤独じゃなくなりました!そんな日がこれからも続くと思うと嬉しくて嬉しくて堪らないんです」


 お父さん、お母さん。それにおばあちゃんも見てる?私はもう大丈夫だよ。安心してね。


 漆黒の髪がふわりと揺れ、頬が少し赤くなっているその笑顔につられてつぼみも自然と口元がほころぶ。

 冷静になったのかひかりの顔が耳たぶまで赤くなる。


 

 その赤はまるで灯のように暖かくつぼみを、未来を照らしている。


 

「ほ、ほら早く帰って報告しましょう! 先行ってますよ!!」


 そう言ってまたくるっとターンして小走りで駆けていく。


 つぼみはその後ろ姿から視線を外し、夕暮れの空を見上げ、まるで誰かに話しかけるようにポツリと言葉をこぼす。



「ねえ、私こんな花になったよ。大きくて綺麗でしょう?」




 自分に降り注ぐ暖かい光によって、蕾は今、花開く。


―――


最終話です。

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怪物の水槽 加加阿 葵 @cacao_KK

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