やっぱり猫やん?

 七時過ぎ、帰ると、ぐったりしている自分に気づいた。キッチンに面したダイニングテーブルで夕飯を食べた。カレーライスだった。

「どうだった? 塾は」

「どうだったというか…」

 猫やし。

「友子、久しぶりにごはん食べてくれたわね」

「えっ?」

 母は少し涙ぐんでいた。ほんのちょっとやそっとでは気持ちが揺らがない母がだ。わたしは動揺した。

「いろいろ忘れてた。古文とか漢文とか」

「そうよね。人は忘れる動物なのよ」

「それでね(人はて)…塾のことだけどね…」

「合わない?」

「合わないというか…」

 「そんな問題ではない」と言おうとしたとき、母は「お代わり食べる?」と聞いていたので、ルーだけでと空っぽの皿を渡した。

 母はカレーを足しながら、

「お母さんもね、先生にはお世話になったのよ」

 衝撃的な言葉を発した。

「えっ!?」

「お母さん、特に勉強熱心でもなくて、ほら、普通の公立高校だったでしょ?それなのにバカ田大学の隣の大学に入れたの。先生のおかげ」

「あ、そうなんだ…」大学受験前から母の学歴、そして両親が高学歴で重圧も感じていたが、今となってはそんなことはどうでもよかった。

「ど、どんな先生…?」

「お父さんから聞いたら、昔とちっとも変わらないって。久しぶりに挨拶に行かなきゃだわ」

「だからどんな先生?」

「う~んとね…」天井に視線を向けて「一言では言えないわね」

 友子の前に皿を置いた。

 言えるよね?

 絶対に一言で言えるよね。

「猫?」

「そうね、犬じゃないわね。例えるなら猫かな」

 例えなくても猫そのものやん。

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ねこと塾とわたし henopon @henopon

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