第22話


早朝。

柊と視覚共有した俺の視界には、前世でいうところのバスほどの高さの視線で己が森の中を疾走する光景が映し出されていた。


 目につく魔物は全て親爪を振るい、胴体と下半身をバイバイさせていく。

その度に血と臓物が飛び散るあまりにも酷い光景だが、害虫駆除感覚で操作する俺は特には気にしない。それどころか、ある種の快楽さえ覚え始めていた。


壮大な絶壁の岩肌に張り付く山羊のような魔物も、柊が高く飛び上がり岸壁を駆けて、切断に向かう。


原理?

なんてことはない、8本の脚を壁に突き刺して強引に走行しているにすぎない。


あまりに大きい柊の体躯と、体内に含有する多大な魔力量を元にした馬力によって、街の周辺の森林で苦戦することは無きに等しくなった。


これまで続いた小物狩りに飽き飽きとし始めていたこの頃だが、この岸壁を越えたその先は俺にとっての未開の地。この辺りとは異なった環境と生態系を持つ可能性が高い。


「少し覗いてみるか」


そしてついに、岸壁を上り詰め、鬱蒼とした森林が姿を現し始めた。

ちょうど日の出の時間帯だったのか、地平線から顔を出した太陽の光が霧がかった植生を朱色に染め上げている。


あまりの美しさに俺は唖然とする。


一つ山を超えた向こうに広がっていたのは、まるで別の場所のようだった。


できれば布団の中からじゃなく、実際に行って五感で感じたかった…、と惜しみながら俺は横続きの石の上を歩いていく。

足元をよく見ると、標高が高いためなのか、石の隙間に生える植物も街周辺の植物達とは違っているのがわかる。


(これだけ眺めがいいと別の街が見えるかと思ったが……それらしいものは見えないな。)


周りに、異世界特有の『囲われた街』らしきものは見えない。


今更かもしれないが、この世界の街は魔物の侵入を防ぐため、大人二人分はある石壁に囲まれているのだ。

もともと魔物が存在しない世界で暮らしていた俺にとっては馴染みのない構造なうえ、他領に赴くのに馬車で何日もかけるという事に不便さを感じないでもないのだが……こんなにも周囲を山々に囲われていると、そりゃそうか、とむしろ清々しい気分になる。


余談だが、〝王都〟とやらもちゃんと存在しているらしい。いつかは行こうと思っている。


(キリも連れて来たいけど、この絶壁を登らせるのはなぁ……。どうしたものか。……ッ!…誰だ?)


霧が晴れた先に誰かがいる。

先の尖った岩の先端に腰掛けて、太陽の方を見つめているようだ。


柊に搭載されたスコープ機能で発見したので、〝居る〟と言えどもこちらとはかなりの距離が開いている。見つかる可能性はほぼ無い。万が一、見つかったとしても逃げ切るくらいの猶予はあるだろう。

間違っても、愛しの柊を壊されるのは勘弁願いたいからな。


(…女の子?)


片膝を胸元まで曲げて座っていたのは、まだ年端もいかぬ女の子だった。

明るい茶髪をした吊り目気味で、元気が良さそうな子だ。服装は、どちらも肘、膝を覆うほどに大きい白い半袖と黒い半ズボン。

その子は、日の出の方を見つめて動かず、髪を風に揺らしている。


(おいおい、なんで子供がこんなところにいるんだ?)


さてどうしたものか。

心配なのは山々だが、柊にはまだ声を伝える機能が搭載されていない。そもそも、ヤドカリに話しかけて来られるのって相当恐ろしいのでは?この世界の人からすれば、10本脚の(殻から見えているのは6本だが)甲殻類型の魔物みたいなものだし。柊に驚いて下手に転落されても、無傷で助ける自信がない。


むむむ。潛に切り替えて出直してくるべきか。

体が小さな潛なら筆談くらい出来るかもしれない。


そう思って体躯を翻した矢先―――女の子が立っていた。俺の目の前に。


「びッくりしたァ!」


何度見ても、目の前にはさっきまで米粒のような大きさで見えていた女の子本人なことには間違いない。


というか、マジでビビった…。布団の中で声出しちゃったよ。


(……)


「……」


声を発せないこちらは、黙って見つめるしかない。どうせ、逃げようとしたところでさっきの瞬間移動的なもので追いつかれそうだしな。


俺は柊の防御力を信じて、相手の出方を見ることにする。


しばらくこちらをまじまじと観察していた女の子だが、ようやっと小さな口を開いて―――



「美味しそうな魔物じゃないの」


そう言ってよだれを垂らした。







まじかよ……終わったわ俺。


地球人ならともかく、異世界人で、尚且つ初見で甲殻類を美味しそうと感じる奴がいるか?普通。

普通キモイだろ、脚まみれの生き物とか。


尋常じゃないほどよだれ垂らしてるし。

目もキランキランだよこの子。もう完全に食材にむける目をしていらっしゃる。


「見たことない魔物……いいじゃない、最近はこの辺りの生態系も食し終えたところで飽き飽きしてたし」


本当に何者だよこの子。見た目に反してこの森の覇者的な存在なのか……?


女の子は、柊の周りを軽快にぐるりと一周すると改めて正面に戻って来て、長くて艶のある茶髪を耳にかけてニタリと笑う。


おお、服装のせいで溢れ出す近所のガキんちょ感…!


……ってそうじゃなくて!


この子がなんかヤバそうな存在だという事は分かったから、どうにかして離れたいんだが。触らぬ神に祟りなし、とも言うし、もし次会う時にはコミュニケーションを取れるように通話機能を搭載しておくとしよう。


そうと決まればいい加減帰して欲しいところ。


さすがに柊の防御装甲が破られる事は無いと思うし―――


「いっただきまぁ〜す」


――――バッキィィィィ‼︎‼︎


「嘘だろぉぉぉぉぉぉおいいい!!!」





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